第9話 ダンジョンへ(2)
俺の元居た世界には「努力こそが才能だ」という言葉、もとい音が偉人や芸能人、スポーツ選手にアーティストといった人々によって編曲されてきた、それも数多存在する。他にも「諦めずに続けることが努力だ」という言葉もある、俺の好きな曲集にある曲の歌詞に入ってる言葉だ。
努力出来るのは才能だと思う、セシルを尊敬するくらいに。
だが「努力は実を結ぶ、結ばれなかったら努力が足りない」の場合はどうだ。
この言葉にはどうも共感できない。過程があるからこその結果ではと思うわけだ。
中身がスカスカな成功は成功なのか?実がないみかんは見た目だけの模造品なんじゃないか?つまり過程、いわゆる努力が詰まっていればいるほど良きみかんが出来上がるだろう。
本当の努力ってなんなんだろうと考える事は多い、誰しもが考えるはずである。
自分が考えるには、その目標に向かって努力をする。
そして目標が実現出来たか出来ていないかは置いといて自分の挑戦が終わった時、自分の中の感情がどうかなんじゃないかと思う。結果じゃない。過程だ。
悔しい?それとも清々しい?
感情は魔核石のように、コードの多い楽曲のようにそう簡単に表現出来るものではない。色々混ざりあっているものなのだ。
だけど正の感情なのか負の感情なのかは二極化して分かりやすいだろう。
要するに終わった時努力なのか、将又努力ではないのかが正負のどちらの感情だったかによって鮮明になる。
まぁ失敗したら確かに悔しい、だけど、悔しさだけじゃなく清々しさもあればそれは努力が実を結んだといっても過言ではないと感じる。だって実を結ぶの「実」は結果じゃない、何度も言うが過程、中身だ。
「セシルは凄いな、俺だったら諦めてた」
「けど今日その努力は実を結んだんだよ、カノンのおかげでね!」
はは、そんな満面の笑みで見られても……俺はそんな大層な人間でもないし、ましてやただ毎日を普通に過ごしていただけの学生なのに。
「これは俺のお陰というよりセシルの努力の賜物だよ」
「でも私の努力だけでは潜ることもなかったし、君だからここに来られたのかもよ?」
そんな解釈が出来るところもセシルの良さだな。
俺もこのネガティブ思考というマイナスな物にバー(⁻)を付けてセシル思考というプラスな物に変換しないといけないかもしれん。思考は複素数平面なのか!?
「確かに、そうかもしれないな。それじゃあ俺もセシルの期待に応えられるよう頑張るか!」
「おー-!! カノン、あそこにコボルトがいるよ!」
「よし、今度はスキルの練習も兼ねてぶっ放す!」
標的は目の前25メートル程先にいるコボルト数体。
先程の練習場でやったことを
ノーツの通り道を構築、想像するのは10コンボ分。
狙いをつけて放つ、凡そ30センチのノーツがコボルト目掛け流れる。
コボルト達が一瞬気付いた、ようにも見えたが一階層の魔物如きにゃ避けられない。
「これが固有スキル音ゲー、かぁ……」
見事、ダンジョンでの実践もスキルは成功した。よっしゃ。
「カノンのスキルは大丈夫そうだね! カノンならもう少し強い敵でも倒せるよ!」
「お褒めいただき光栄でございますセシルお嬢様」
「あはは、カノンなにそれ~~!」
こんなことでも笑ってくれると気持ちいいんだな。
「このスキルなら、ダンジョン踏破して元の世界に帰れる……かもな」
「私たちなら出来るよ! ほら、付与魔法使ってみよう?」
「おう、じゃあ次のターゲットはあそこのゴブリンの群れだ!」
「よし、いくよ!」
俺はさっきと同じ10コンボ分を想像、セシルは腰にあった杖を取り出し付与魔法を発動する。
ノーツに紅く煌びやかな光に音が吸い込まれていく。
まるでそれは小さな銀河のようだった。
炎を纏ったノーツはゴブリンへ大きな引力で引かれているかのように、圧倒的なスピードをもって群れを叩き、焼き尽くした。
「セシルの付与魔法強すぎない……」
「砲撃魔法は打てないけど人並よりは魔力量が多いってシルーナさんに言われたんだ~」
なんで誰も組もうとしないんだろ、付与は強いし短剣も扱えるのに。
「まじでドラゴン倒せるのかも……」
「でも私炎付与しかできないよ? けど、ダンジョンで戦い続けるとスキルが増えたり魔法の幅も広がるってことはあるみたいなんだ~。周りの人がそう言ってた……」
確か、シルーナさんの話だとドラゴンが火を噴いていたって言ってたよな。
「じゃあ対ドラゴンとして氷系統の付与魔法とかがあれば倒しやすくなるのかな」
「属性的な相性で考えるとそうなるね! 固有スキルも強くなるはずだから一緒に強くなろ!」
「そうだな」
元の世界で音ゲーやって、やいやい言われる生活は充実していたが、この異世界での生活も僅か一日目にして楽しいと思えている。
人間の環境適応能力は凄いな。
ダンジョン踏破まで異世界を楽しんでいこう。
「とりあえず魔核石返金とシルーナさんへの現状報告も兼ねてギルドに向かうか」
「そうしよ!」
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