第8話 ダンジョンへ(1)
「ここが、ダンジョン……!」
見た目は物凄くでかい洞窟のような感じ。
魔物の巣窟とは言い得て妙だと思う。
ただ普通の洞窟とは似て非なり、奥行きがそこまでない。
このダンジョンは地下にあるからだ。
中を傍目に見ると階段のようなものが見える。
この洞窟は言わばダンジョンへの入り口に過ぎない。
ずっと見ていると、この入り口の石のゴツゴツさがドラゴンの牙で、全体がドラゴンの口なのではないかと錯覚してしまう。
「じゃあ、カノン行ってみよう!」
「いざ、ダンジョンへ!」
恐らく自然に出来たものではないだろう階段はギルドが整備したのか、幾分か降りやすかった。
都会の階段よりはもちろん整備が行き届いていないが。
「これが夢に見たダンジョンか~! なんか凄いね!」
「そうだな。入る前はもうちょっと洞窟みたいなもんだと思ってたよ。思ったよりもギルドの手入れがあるみたいだな」
「浅い層はギルドが採掘したり綺麗にしてるから、石の家みたいだね」
魔物からすればここが生まれ故郷であり育ち故郷であり墓場でもある。
そう考えると魔物の暮らしは人間からすると凄く窮屈なものなんだろうなと思う。
「下層に行くと整備されてる所が減ってより洞窟のように見えるかもしれないな」
中は寒すぎず暑すぎず、ただただ丁度いい温度だった。
「春になったyo」くらいの温度だった。
さてここでダンジョンのおさらいだ。
第一層には俗に雑魚と評される、ゴブリン、スライム、コボルトetc……
がいるとシルーナさんに教えてもらった。
ここら辺もゲームと同じで聞いたことがある魔物方々ですね。覚えやすき事よ。
今日はまさかの転生や何やと色々起きて体に負担がかかっていると思われる為、シルーナさん&セシル(なんかゲームのペアキャラみたいな呼称だな)と約束した通り、第一層だけ潜ることにした。
「あ、カノン! ゴブリンが居るよ! 」
「お、おう。中々にグロい見た目してるな」
先ずは短剣で倒せるかの練習を。
手に持つは片手に収まる鞘の付いている短剣。
刀の長さは30センチほど、自分の攻撃出来るリーチを確認し目に、体に憶えさせる。
音ゲーでFC(フルコンボ)、AP(オールパーフェクト)を逃して阿鼻叫喚していたような顔をしたゴブリンの手には、短剣より小さめのサイズのこん棒――無駄にごつくて当たったら痛そうだなぁ――がある。
その得物を無作為に振り回しながらゴブリンはセシル、ではなく俺の方に向かってくる。恐らく魔物相手には年の功が分かったらしい、あと俺のが弱そうにも見えるのだろう。あれ、前者一割後者九割じゃね。
予め、シルーナさんには魔物に会ったとしても焦らず対処することを教えてもらっている為、至って今は冷静である、きっと、多分、恐らく。
ゴブリンが俺のリーチに近付いた時、俺はゴブリンの顔目掛け短剣を振りかざす。
戦闘経験が殆ど、いやない俺には無駄な所作が多い。
だからこそシンプルな攻撃を行う。
目の前で腐ったトマトが弾け飛んだかのように黒く濁った静脈血のような鮮血が俺に襲い掛かった。まるでオゾンを濃縮したのかという生臭さだった。
「さすがカノン! 短剣も使えるんだね!」
「相手がゴブリンだったからだと思うよ。あ、この今落ちた石が魔核石か」
「そう、それがお金に変わるんだよ!」
これが魔核石……もし何色かと問われ答えるならば……紫に緑、青に黒、黄に赤を混ぜて混ぜて混ぜて混ぜて、混ざりきらなかったような色だ。
この混ぜ混ぜマーブル色は正確に形容することが出来ない色としか言えない。言いようがない。
「私もゴブリン倒してみるね!」
「おう、見てるわ」
そうセシルが言うとゴブリンの居るところへ一目散に駆け寄っていった。
遠目から見て三体、四体ほどのゴブリンの小さな群れだった。
だがこの濁った緑色のトマト達はさっきみたく、否、短剣という名の箸で力強くつぶされたかのように弾け飛んだ、セシルの斬撃音と共に。え、待って強くない?付与魔法も出来るし短剣も扱えるのか、セシル意外と大物では説が生まれた。是非次の水曜日に検証してみよう、この世界に曜日概念があるのかは知らんけど。
「ただいまー! まだ一階層だから弱いね、まぁゴブリン相手だから私でも戦えるんだけど」
「俺だったらあの数相手で短剣なら傷無しでは突破できなかったと思うから、十分セシルは凄いと思うよ」
「私は付与魔法のスキルだけしかないって知って小さい頃から短剣の練習してたんだ。ギルドの練習場に人形があったでしょ? あれを使って約12年くらいかな」
12年も短剣の練習、もはや鍛錬、修行の方が正しいだろう、そんなに長く努力できるのは凄いな……俺には到底無理だ、12年間なんて。
この鍛錬は俺に当てはめると音ゲーになるが、セシルの鍛錬期間の半分にも満たない。その期間の間、自分の中にある無力感という菌の繁殖は凄いものだったんだろうなと無知の俺でも分かる。
もし自分がそんな立場だったらとっくの昔に諦めていたことだろう。
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