第2話

 ドンドンドン!

 ハッピー雑貨店の古い扉が乱暴に叩かれ、ソファで寝ていたマリ―ルは目を覚ました。

 ドンドンドンドンドン!

 店の外の通りから見えるはずの、閉店の札と閉じたカーテンを見てなお扉を叩いてくる者は、ろくな客ではないだろうと居留守を決め込む。

 マリ―ルは毛布をかぶって耳をふさいだ。

 木造の扉なので音がよく響き、また建付けもゆるんでいるのでガタガタとずれる音も重なりとにかくうるさい。

 全く迷惑な客じゃ、早く諦めて帰ってくれと願いながら目を閉じる。

 そういえば、眠りに落ちる前に、うっすらとした記憶でトムが毛布をかけてくれたような気がする。

 出来た弟子であるなと関心しながら眠ろうとすると、また乱暴なノックの音でまどろみが中断された。

 まったく迷惑な奴じゃと毛布から片手を伸ばし、魔法を使おうとした時

 「魔法使いマリ―ル!国家に対する反逆の疑いがある!

  大人しく罪を認め出てくるがよい!」

 と言う、男性の声が聞こえた。

 偉そうな物言いに、しかも罪という物騒な単語。

 はて、これはいったい何事かと考えるが、まったく分からない。

 「早急に扉を開けよ!さもなくば強行突破を行う!」

 今すぐ扉を開けてこのよく分からない者達を迎え入れなければ、扉が壊されるらしいので、しぶしぶ返事をする。

 「おぬしは、何者じゃ。ひとの名を叫ぶ前に、名を名乗るのが礼儀じゃろう」

 返事をしながら、扉の鍵を開けると

 「むっ失礼した!」

 という声が聞こえる。

 取手に手をかけ扉を開くと同時に相手が名乗った。

 「我々は!

  王立魔法騎士団である!」

  どーんと、店の扉をふさぐように大きな甲冑を着た男が立っている。

  大声を出していたのはこの男のようだった。

  店内は閉め切って薄暗かったため、急な光で目がくらむ。

  目の前の大男の甲冑に光が反射して余計にまぶしくて、それも腹が立った。

 「まったく大げさなことじゃ」

  だんだんと光に慣れて外を見ると、何人かの甲冑を着た男達がおり、さらに通りには騒ぎを遠巻きに見ている周りの店の者達の姿があった。

 「近所の者が皆、びっくりしておるではないか。営業妨害じゃ」

  早朝から働いて気持ちよく昼寝をしていたところを起こされ、文句のひとつも言わねば気が済まない。

 「あなたが…魔法使いマリ―ルか?」

 声の大きい大男は、こちらの文句を無視してたずねる。

 マリ―ルの姿に驚いているようだった。

 「そうじゃ、おぬしは王立魔法騎士団の誰じゃ?」

 なんだか勝手な奴じゃと思いながら返答する。

 「拙者は王立魔法騎士団、副団長のドルモンド・ドーレーンである。

  魔法試験対策グッズに関して話を聞かせてもらいたい。今すぐ王立魔法学院まで来てもらおう」

 「いったい何の話かまったく分からぬ」

 「我々は連れて来いと言われている。拒否する権利はないぞ」

 「力づくでも連れていくということか?」

 「そうだ」

 ドルモンド・ドーレーンと名乗った男の姿はいかにも騎士団の一員といった風情で、特に怪しいところはない。

 一緒にいる男達も鎧を身に着けていて、帯剣している。

 騎士団員なのだろう。

 その中に一人だけ、軽装の者がいた。おそらく魔法使いだ。

 魔法使いまで連れているとなると、力づくで連れていくというのも本気なのだろう。

 抵抗して無駄に怪我をしたり、店内の商品や店そのものが壊れても嫌なので、大人しく従うことにした。

 「分かった。同行しよう」

 「よし、馬車に乗れ」

 死角に待機していたらしい馬車が、蹄の足音と共に現われ、ドーレーンが扉を開けたので、中に乗り込んだ。

 するとマリ―ル一人だけが乗ったところで扉が閉められた。

 「…!結界が張ってあるな」

 馬車の壁や窓は綺麗な装飾が施されており、派手ではないがさすがに王立騎士団らしい威厳を醸し出していたが、さらに魔法を封じる高度な結界が張ってあった。

 騎士たちは皆、馬に乗っていくらしい。

 「これではまるで移動式の牢獄じゃ」

 マリ―ルは腕と足を組み、席のど真ん中にどかっと座った。

 朝からやる気の出ない仕事を頑張ったのにこれじゃ。と己の不運を呪った。

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