第10話 進化の苦労
ソフィは森に少し入るとそこに糸に搦めとられたエイプが居た。エイプは抵抗し、糸を切ろうとしているがびくともしない。近くにはソフィと同じくらいの体格がある蜘蛛が居た。
ソフィはエイプに近づき、サバイバルナイフを取り出し、巣に刃を当てる。
「何故、そいつを助けるの?」背後からアラネが声をかけた。
肩越しにアラネを見るソフィ
「このエイプを助けないと私が倒したと勘違いした仲間が復讐に来るかもしれません。エイプの仲間意識はとても強いんです」
「止めてあげてくれない?その子はもう巣を作るだけの魔力がないのよ。それを切られたら、死んでしまうわ。そいつを一匹食べるだけでいいのよ」
ソフィは探るようにアラネを見つめる。
「止めたければ、私を襲えばいいんじゃないですか?」
「これはお願いよ。不測の事態が起こるのも自然界の日常。それに私はこれから大事な用事がある。ここで手を下して、討伐対象になる訳にはいかないの」
「何故、この蜘蛛を助けるんですか?」
アラネはふふっと笑う。
「私がこの姿になっていなければ、そうは思わなかったかもしれないわね。ほら、貴方があの魔法使いに対して言っていたことと同じよ、才能がある人は惜しいね」
ソフィはナイフで巣を切った。アラネは落胆した。エイプは地面に落ちると森の中に向かって走り出した。ソフィはポーチから木の実を取り出すと蜘蛛に投げた。蜘蛛は身を齧りだす。アラネは驚いた顔で蜘蛛を見ている。
「何をしているの?」
「巣を壊してしまったお詫びです。私たち道具屋は指定野生生物に対して行ったことには対価を支払わなければなりません。これは獲物を取った。ささやかなお詫びです」
「ねえ、聞いてもいい?」
「何でしょう?」
「何故、私がアラクネだと思ったの?」
「貴方の足に糸が垂れていました。人間体になろうとして、蜘蛛の糸が漏れていました」
「そんなことだったの」
ソフィは広場に引き返した。アラネはその場で蜘蛛の様子を見守る。ソフィはすれ違った後、立ち止まり、振り返ろうとする。
アラネの鋭い声がする「早く行きなさい。私に食す気が起きないうちに」
ソフィが広場に戻るとそこにシャーロットが居た。
「帰らなかったのですか」
「アラネが行った後、私も行こうと思いました。でも、勇気がなくて、、、でも、どこにも行く場所がなくて、、、国防軍の試験が終わった後、家に帰ると知らない3人が居ました。夫婦とその息子さんです。お父様は私に見合い話を持ってきました。試験に落ちて、家庭に落ち着くことを強要されると思った私は逃げてきたんです」
「今は家に帰りなさい、ご家族も心配している筈です。それにそこがあなたの帰る場所です、貴方は恐怖を知りました。これで以前の貴方とはまた違ってくるはずです」
「助けてくれてありがとうございました」
シャーロットは歩き出した。ソフィは別方向に歩き出した。
森の中で金属が揺れるガチャガチャという音がする。
「くそ、高い金払ったのに、世間知らずのなんとか魔法学校の主席を高級店のねーちゃんを買うより安い値段で買えたと思ったのに、ヘクターもコンプレックスに苛まれた変態やろうじゃねえか、大損だぜ」
愚痴りながら、進むキース。
「うあ」
キースは何かに躓き転んだ。
「何だよ」
キースは言い捨てると....そこに黒と黄色の斑の腹部から黒い八本の触手が生えた何かだった。恐る恐る見上げるとキースを見下ろすアラネが居た。
「うわあ」キースは慌てて逃げようとするもアラネが触手を動かし、足を引っかけて転ぼせた。アラネはキースを頭から足先まで見る。アラネはキースから顔を上げ、前にいる蜘蛛を見る。
「どうかしら?」
アラネが壁になり、蜘蛛の姿は見えない。
「最悪だよ」
「そう」アラネの視線の先には蜘蛛がいた。
「人生、ろくなことがねえ」
アラネはキースを見た「貴方に」といったところでキースの言葉が続く。
「そう俺も初等学校のころは天才だと言われていたさ、何もしなくても、テストは満点、足は速い。クラスの女子からはキャーキャー言われていたさ」
顔を上げて、蜘蛛を見ているアラネは頷く「そうなの」キースは間髪入れず
「そうさ」アラネは面倒そうにキースを見る。
「だから、貴方に」
キースは大きく頷く。
「そう、だから奴らは俺を嵌めるために汚い方法で来たんだ」
アラネは頭を上げ、蜘蛛を見る。「どれくらい?」
「どれくらい酷いかって、俺が解らない問題をテストで出して、低い点数を取らせるようにクラスみんなで画策したんだ」
「一人」アラネは小さくため息を吐いた。
「そう、俺一人のために、俺が点を取れるのは教師が俺を笑いものにするためにここが出るよと教えてくれたものだけだ、母親にはやればできるって先生が言ってるのに何で頑張らないんだって言ってたぜ」
アラネは蜘蛛を見ると頷く。
「ここに居るわ」
「そう、でも無駄だ、ここに居る俺という天才は努力しなくてもできるのさ」
「鎧が邪魔」
「俺は鎧っていう名前じゃないぜ、キースっていうんだ、さてはお前、馬鹿だな」
アラネは無表情な顔でキースを見ていた。
「そう、俺が邪魔だったんだろうさ。おかげで俺は底辺の魔法学校を卒業して、遊び人になって、勇者の嫁に知らずに手を出して、決闘に巻き込まれることになりましたとさ」キースはパチパチと一人手を叩いた。
アラネが鋭い声で「ねえ」と言うとキースは身構える「はい」
アラネは妖艶な声で「苦労してる人を見てると応援したくなるの」
キースはへへっと鼻を啜る。
「まさか、蜘蛛に同情されるとはな、まあ、お前たちも苦労してるんだろうけど、人間様に比べれば、足りないだろうさ」
アラネは顔を隠して失笑する。「鎧を脱いで下さらない?」
「おっとそうだな悪いな、気が付かなくて、異種交配か、俺の優秀な遺伝子を残せるんだ、お前たちはラッキーだな」そう言って、キースは足の鎧を外した。
アラネはキースの首を掴み持ち上げた
「なあ、気が早いって」
「そうね、でも私、もう会話に我慢ならないの」キースを横を見ると蜘蛛と見つけた。
「ひぃ」キースは怯えて、震えだした。
アラネは蜘蛛を見る。
「足から吸って、残りは隙間から食しなさい」そう言うとアラネはキースを巣に投げ入れた。
キースの絶叫が森に木霊する。
「そうね、貴方の話を聞いていて、思ったんだけど、貴方は授業を聞いて頑張ればよかったんじゃないかしら、その瞬間を生きなきゃいけない私達よりは時間はあったはずだけど?貴方のアレはどうなってるかしら?」
アラネはキースの股間を見る。
「ぷっ」
アラネは面白いものを見たように笑って後、蜘蛛が一口で平らげた。
「そんなんで私を喜ばせようと思ったの?一口で食されちゃったじゃない。」
キースの声が止まった。その後、啜る音が聞こえる。
「あら、終わったわね。私にはやることがあるから後は頑張りなさいね」
キースが着ていた。鎧に血が張り付いている。蜘蛛は悶えだした。ぎらついた眼のアラネは森から去っていった。
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