五章 ボッチャの軌道は見える
ある休日。
母の代理でスポーツの試合への参加を打診された。
ママさんボッチャである。
「何、ママさんボッチャって」
「お母さんたちのボッチャよ」
「でしょうね。
それ代理要るの」
「人数足りないと試合ができないでしょ」
それはそうか。
「いや私ルール知らないんだけど」
「大丈夫、簡単だから適当にググればいいわ」
そう言われると断るほどの理由がないな。
オコエさんが家でダラダラしてるのが腹立ったので一緒に連れて行くことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
市民センターの体育館にやってきた。
「こんにちは~蔵本の代打で参りました」
「ああちえちゃんね聞いてるわ。着替える?」
「はい一応」
「更衣室はあっちよ」
着替えて合流する。
私は蛭田さんと横田さんと同じチームで、他に3チーム全12人が集まっている。
しかし見たところ…
「あの、パッと見てわかるような障害を持った方はいないんですね」
蛭田さんに話しかける。
「あー、うん。今日は全員健常者よ」
「おおう。そういうこともあるんですね」
「ボッチャは障害者と健常者が一緒になって戦えるパラスポーツよ。
つまり時と場合によっては健常者10割になってしまうこともある」
「なるほど」
うーん。
ダメではないが、教育的なカラーが出ないなあ。
でもそういう区別にとらわれないことこそノーマライゼーションの始まりなのかもしれない。
最初は別のチームが試合と審判をするということで、私たちは見学に回った。
初心者の私に配慮してくれたのかもしれない。
「楽しいですかボッチャ」
横田さんにも話しかけてみる。
「それはもう、これだけが生きがい。
ボッチャをしてるときだけは辛いこと忘れられる」
「お辛いんですか」
「そうね。もうずっと姑と険悪な関係だったんだけど、息子が連れてきた嫁まで一緒に住むようになって、本当に最悪なのよ」
こ、この人…
嫁と姑の二刀流をやってるのか。
「毎日が辛すぎて辛すぎて…
うあああああああ!」
まずい、覚醒し出したぞ。前回見たパターンだ。
会場の皆さんも異変に気づいた模様。
「危険です、急いで外に避難してください!
あとオコエさん、いる?」
「いるよ」
「あーいた。
これ人目があるところで変身しても大丈夫?」
「うん、まあ細かいことはいいや」
なんか投げやりで不安だな。
とにかくすぐに、
「変身!」
変身である。
「あの、珍しいのはわかるんですが、危ないのでできれば避難しといてくださいー」
再度ママさんたちを促す。
あとは自己責任じゃ。
「マジカルピュアレディ代理、見参!」
「だ、代理?」
怪人がキョトンとしている。
「あ、いや、代理で試合にやってきた的な意味で…深く追及するな」
「わかった。
私はボッチャ怪人アカシャツ。以後お見知り置きを」
アカシャツ…赤シャツ?
基本そういうノリなのね。
それにしてもだ、
「ちょっとオコエさん、今日怪人の反応あった?」
「適宜自分でチェックしろよ、ゆとりは他人任せだから困る」
「こちとらポストゆとりじゃい」
しかし私が背中押した感がなくもないから強く言いにくいな。
「準備はいいか。私の攻撃を受けてみるがいい」
怪人は滑り台状のものを私に向けてボールをセットした。
「これはランプと言って直接投げられない人がボールを転がすためのアイテムだ。
形状は自由だが大きさは2.5m×1mに収まるものでなければならない」
す、すごい丁寧に説明してくれる。
ここはEテレか?
というかランプの軌道上にボール来るのがわかるから攻撃にはすごく不向き!
次々転がしてくるが簡単に避けられる。
「おぬしなかなかやるな。
ならばランプを使わず直接ぶつけてくれるわ」
投球攻撃に切り換えてきた。
結構肩がいい、ちょっと当たる。当たるけども、
「あの、あんまり痛くないんですが」
「ボッチャのボールは柔らかいからな。握りやすいし、どこまでも転がっていってしまうことがない」
さらに説明を重ねてきた。
こいつは攻撃する気があるのだろうか。
「おい、ボーっと受け続けてないで反撃するんだ」
そして小動物に怒られる。
「いや、でも前回の感じでマウント取ったら完全にこっちが悪者にならない?」
「一理あるな」
「だよね」
「考えてみると、そもそもボッチャをやる人に悪い人はいないんじゃないか。この怪人も」
「赤シャツなのに?」
というかそれだと野球をやる人には悪い人がいるみたいじゃないか。
何とも言えないけど!
「こんにちはお姉様、会いに来ちゃいましたー」
なんと突然久留米ちゃんが現れた。
「今取り込み中だから入ってこないで」
「ふっ、間抜けな人間めが」
怪人が久留米ちゃんにボールを投げつけた。
それを片手でキャッチしそのまま剛球を投げ返す。
「ぐはっ」
すごい強肩だ。
怪人は痛みにうずくまり、やがて横田さんから分離した。
「ねえ、これ追い打ちかけたらやっぱり私が悪者にならない?」
「そうだな、もう見逃そうか」
怪人はヒイヒイ言いながら逃げて行った。
まあ元々現状維持でって言われてるし、これくらいでいいのかもな。
今日も街の平和を守った。
で、
「どうしたのよ久留米ちゃん」
「え、私のこと知ってるんですか」
「えっ」
「えっ」
これは…
おそらく変身してると顔出しててもバレないシステムなのね。
どうやらそうらしい。
オコエさんが頷いている。魔法は伊達じゃないな。
「蔵本さんは外に避難しててもうすぐ戻ってくるからこのまま待ってるといいわ」
「はい。
さっきの人は…」
「ああ、あれは…通りすがりのボッチャ愛好家よ」
ってか生身で撃退できるんだったらピュアレディいらなくね?今日何もしてないし。
あいつが弱かっただけだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どういうことなのよ」
帰ってすぐ父を問い詰めた。
「休みだってのにお前に会いたくて来たって言うから教えてあげたんだ。
何かまずかったか」
「と言われると別にまずいことはないのよね」
ただあんまりグイグイこられるとちょっとだるい感はある。
「いい子じゃないか、くるみちゃん。
お前も可愛がってやれよ」
「まあ仲良くはやってますよ。
え何、愛称くるみちゃんになったの」
「いや、下の名前がくるみなんだよ。
そっちで呼んだ方が親しみがこもるだろ」
「え」
久留米なのに?親何考えとんじゃ。
藤子不二雄じゃないんだからさ。
あの子も大事にしてあげなきゃいかんなー。
ぐったりして部屋に戻ると、珍しくオコエさんが真剣そうに待っていた。
「ちえ、話しておきたいことがある」
「何ですかあらたまって」
「久留米ちゃんさ」
「くるみちゃんね」
「ん?まあ彼女なんだが、おそらくマジカルピュアレディの新しい仲間だ」
「マジで!」
「その名もマジカルピュアレディブラック」
またライダー要素が増えるな…
「あ、だから怪人に押し勝ってたのか」
「その可能性はある」
「そうかーこういうのって仲間増えたりするもんね。
…いいのかな?」
「あんまりよくない」
「だよね、代理期間中に新キャラ加入するのはいかがなものか」
「という訳で、今後仲間加入フラグがガンガン立つと思いますが、可能な限りかわしてく方向でお願いします」
「シビアなファンタジーだなあ」
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