第4話 いつかの夢
お守り屋は、また夢を見た。
雄大な峰々に抱かれた、高原の花畑——妖精の丘の中心に向かって、自身と同じ黒髪の少年が駆けている夢。
そうして、気がつけばお守り屋の身体は、その黒髪の少年と同じ姿になっていた。少年の全身はどこを見ても古傷だらけで、梢の如くか細い首や足首には長く枷をはめられていたのか、消えない痣が色濃く残っている。
少年はお守り屋の意思に従うことは一切なく、勝手に妖精の丘を駆け回っている。しかし、一瞬ぐるりと視界が回転したかと思えば——目の前には、今や見慣れた山羊頭の魔王がいた。山羊の仮面に花雨を積もらせ、魔法使いのようなローブを身に纏った魔王は膝を屈めて、小首を傾げながら真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
『〝借りを返したい〟とは……何のことです? 少年』
『おまえ、おれをたすけた。たくさんの知恵、さずけた。おまえに、たくさんもらった。だから、おれもおまえに、なにか……かえす』
『なるほど。だけど、そんなことを借りやら恩などと思わなくていいんですよ。それにわたしは……魔王という庇護者として、人間に虐げられた少年のような子は、ほっとけないんです。つまり、わたしが好き勝手にやっていることなので、欠片も気にする必要なんてないんですよ』
『べつに、きにしてない。ただ、おれの気がすまないだけ』
『うーん。だったら、そうだな……こうしよう』
少年の頭に、魔王の大きな手が置かれた。
『少年が、わたしから貰ったというその借りとやらは――かつての少年のような、困っている誰かに還してあげなさい』
『は? なんで、おまえいがいの知らないやつなんかに』
『だって、今のわたしは困ってませんし。今、少年に何かもらえても、零れ落としてしまう気がして……もったいない』
魔王の手が、柔らかに少年の黒髪を撫でる。
『でも、もしもいつか。わたしがほとほと困り果てて。今にも堕落しそうで、〝助けて〟って顔をしていることがあれば……その時は、還しにきてください』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます