第二十一話 覆い羽よ隠せ
ちょっと離れたところでは、母刀自が三虎をつかまえ、
「久しぶりに会った母刀自に、良く顔を見せなさい。まーあ、目の下にくま。この子は、ちゃんと従者としてやれてるのかしらね……。」
「母刀自、誰をつかまえてそんな事を言っているのですか……。」
と、二人とも嬉しそうに会話をしている。
もっとも、母刀自の顔はいつものように厳しく、三虎はいつものようにムッツリした、見方によっては不機嫌そうな顔だ。
「そういえば、名は……?」
と
「まだ名はありません。」
あたしはそう言って、首を振った。
祖母が黄泉渡りをし、父親が
母親が急に産気づき、
回復を待ったが、回復の前に……母親が発病し、それから二日で黄泉渡りをした。
あとを追うように、父親も翌日、黄泉渡りをした。
短い間に、祖母、
あまりのことに……。
誰が父親がわりとなるかも決まっていない。
名は、父親がわりとなる者がつけるのが望ましい。
* * *
大川は腕のなか、名前のまだない
柔らかく、全身むちむちとしている。
乳の良い匂いがする。
兄上の子。
ひょっとすると……私の子。
抱いたらわかるかと思った。
しかし、全くわからない。
兄上は、「
それとも、兄上が子供の運命を吸い取って、代わりに自分の命を子供に与えて、黄泉渡りしたのだろうか……。
分からない。
「
「大川さま、それは……!」
七日の命、の皮肉ととったのか、側に来ていた三虎がたじろぐ。
「そんな顔をするな。
この子の、どんな難も隠してくれるように。
吾願悉禍難隠覆羽、唯其身相生慶福與。
(
私は願う、わざわいを残らず
あな安らけ。
……きっと、この後、父上に会えば、私の子とするよう言われるさ。だから、良いだろう。」
「承知しました。
三虎が言い、
「難隠人さま、あな安らけ。」
* * *
大川は、日佐留売たちと
未三つの刻(午後2時)。
午前中からチラチラ降り出した雪が激しくなりつつあった。
地面にうっすら白く雪が積もっている。
白毛の馬──
私の胸の、
……
私は立派にあの子を育てよう。
たとえ兄上の子でも。
それは良い。
だが……。
───秋津島に妻はおらず。
跡継ぎがこれでできた。
妻を得ていないのに。
これで、妻を得なくても、
これで、私は……。
本当に、一生、妻を得ないかもしれない。
奈良へ行っても、私はもう、
どんな美女から
本当にあの
……それでも良い、と、もう一人の自分の声がする。
ただ……、胸に風穴でも空いたように、心が寒々と冷える。
冷えて、冷えて……。
どこまでも寒々とした哀しみが心の全てを
───第二章、完───
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