第三話 蛾羽 〜ひむしば〜
いや
くくりつつ またも合ふといへ
またも
(遠いという
岩がごつごつと出た道。
嘆きながらあたしが行く道は、
なんと遠く長い道だろう。
玉の糸が切れたら、
二度と会えないものは、
* * *
十二月。
(
今、
ジクジクと傷んだ。
今朝、桜色の
その水瓶は、乾燥させた
「罰です。───八回。後ろをむいて、ふくらはぎを出しなさい。」
いつもは女官を取り仕切る
(あの
あたしより一つ年下の十七歳のくせに。
いつも、取り澄ました顔をして、あたしは上品な上級女官です、
大嫌いだ。
十四歳からもう三年も女官として経験のある
でも、あの、田の稲刈りも、我が身を市で売り買いされる苦しみも、一生縁がないであろうあの
ここは
火を使うため、屋敷から離れたところに作られた部屋だ。
沢山のお湯を沸かすので、もうもうと湯気がたちこめ、五つ並んだ大きな
忙しく昼餉の用意をする。
あたしはきびきびと動きながら、一人こんな事を考える。
(……いっそのこと、
そこまではいかなくても、
それに比べ、大豪族の屋敷の女官は、おしとやかに上品に万事やらなければならないし、普通に働いてるだけでは、一生、あたしの目的は果たせない。
あたしの為すべき事。
必ず……!
そう……、この今の境遇でも、一つだけ、それを果たせる道がある。
あたしはもう、その道を見つけている。
大川さまは十五歳。
匂い立つような美しい若者で、いつも女官達が群がっているが、大川さまは誰も相手にしようとしない。
大川さまが十歳のとき、
「秋津島に妻はおらず。」
と言われたとか、
あれは絶対……
なぜ皆放っておくのだろう?
あたしから言わせれば、隙だらけだ。
あとは、近づく機会があれば良い。
そう思っているが、新人の女官は、
とくに、あの
遠くから見ているだけだが、あれは大川さまを恋うてる。
気付かないあたしではない。
───どうなるか、見ててごらん。
あたしは必ず、大川さまの
はたして、機会はやってきた。
大川さま付きの
たまたま宇都売さまは留守だった。
「山橘の半分を、これから大川さまの部屋に飾ります。」
と聞いた時、
「ではあたしが! もう少し花を摘んでまいります!」
と吊り目の女官にせまり、山橘を半分もぎとると、あっという間に部屋を出た。
あたしの足は早い。
「はぁ───っ?!」
「
部屋のなかから、女官たちの非難の声が聴こえた。
もう、夜まで帰らない。
あたしは、あえて屋敷から遠めの庭を狙い、十二月の寒さを耐え、山橘を探し回りながら歩いた。
あたしはたっぷりの山橘と、少しの
* * *
「田植えはないけど、
玉のように美しい大川さまが、明るい笑顔であたしを見ている。
軽い会話をして、すっかり心がほぐれたようだ。
「へえ……。」
あたしは心のなかで舌なめずりをした。
(頃合いね。)
大川さまの手が触れそうなほど、近くに身を寄せ、じっと大川さまを見あげる。
「でも、山の上の
やはり
行ったことはなくても、知識としては知ってるでしょう?
興味はあるでしょう?
大豪族の若さまだって。
……
「
ご馳走で腹を満たし、
あたしは朗々と歌いあげて、とびきり魅惑的に微笑む。
(……あたしを手折っても、良いのよ。)
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