第十一話 橘山 池のにほ鳥
君を離れて 恋に死ぬべし
あなたから離れては、私は恋に死ぬだろう。
* * *
さすがに、動かす人数が多すぎると思ったのだろう。
だが、その場にいた
「大川さま。
と迷わず、涼やかな口調で言った。
大川は衛士を集め、
「どんな細かいことでも良いから、何か変わったこと、不審なことはなかったか。」
と訊いた。
北門の門番をしていた
「
と言い、同じく衛士の
「そうか? 顔を布でおおっていて、目元しか見えなかったろう?」
と言ったが、
「右目に大きい刀傷がありました。間違いありません。初めて見た
荷車に
荷車は北へ向かいました。」
と冷静に言った。
大川と三虎、布多未、
人の気配はなく、
木の札には、墨で一言、
北橘 赤土
とだけ
「どういう事だ!」
皆がざわざわとする。
「
と言い、衛士の
「なぜ、こんな手のこんだことをする?
ともっともな疑問を言う。
荒弓がため息をつき、
「罠かもな。しかし、我々は、これを手がかりに探すしかない。北橘は、ここはちょうど
と訊いた。
「赤土の小屋、という事かもしれません。
と言い、大川は、
「探す。赤土の小屋はどこにある!」
と大きく、大人数のはじまで響く声で言った。
二十一歳、山のような堂々とした体型の衛士となった
「
そこからは、もう……。
あっという間に日が暮れた。
あっという間に深夜となった。
郷長の屋敷は夜でも
「ここではないのか……、くそっ!!」
郷長の屋敷の居間で、衛士たちの報告を聞く大川が苛立った声をだす。
深夜で鐘はならないので、はっきりとは分からないが、もう
居間の床には、大きな木の板に、簡単な
速攻で作らせたものだ。
その地図のあちこちには、墨でバツが記されている。
赤土の小屋、……全て確認を終えてしまった。
「
と張りのある声をだした。
「おう!」
と皆がこたえ、布多未と荒弓が細かい指示をだし、皆、散った。
衛士は皆いなくなったが、静かではない。
庭では、なんの祭りのつもりか、集まった郷人に、
「あったまるからねえ。」
と、干し柿と
郷の
「ありがたいねえ。」
「さすが郷長さまだあ。」
「で、捜し物はいつ見つかるかねえ。」
「赤土の小屋なあ。」
とわいわい喋り、郷の
「見た? 居間に座ってる若さま。すっごい怖い顔してるけどさ……。」
「見た。あんな綺麗な顔した
「あたしの
「キャッ! あんた、バカだねぇ。そんなわけないじゃない、くすくす……。」
「あたし見てない!」
「見ときなぁ。あの顔見たら、一日二度の飯食うのだって忘れちまうよぉ。」
とわちゃわちゃ笑いさざめく。
そんななか、赤ら顔の郷長が、善良そうな一人の
「あのう、この者がですね……、ちょっとお耳にいれたい事があると……。」
三虎が、
「なんだ。」
と言う。郷長に連れられた、痩せた三十代の郷の男は、ぺこぺこと頭を下げたあと、喋りだした。
「
三虎が口を挟む。
「赤土か。まだ探してない小屋か。」
赤ら顔の郷長が、
「はい、赤土で、まだそこは探してないです。使ってないところでしたので……。」
ともごもご言った。痩せた
「うちの息子と娘が、その小屋に、最近よく馬が繋がれてる、なかに藁を運び込んでるようだ、と言ってたのを思い出して……。
なんで使ってない小屋にわざわざ藁を運ぶんだ、馬なんて貴重なもの、ここらへんで使ってるヤツがいるわけないだろ、って笑って取り合わなかったんですが……。」
大川がさっと口を開いた。
「橘山のどこか!」
「はい、西の中腹です。道は一本道で、迷いません。」
「三虎! 褒美をとらせろ!」
「はい!」
三虎が懐から藍色の袋を取り出し、小粒の金塊を、ぱっと痩せた男にほうった。
うけとった男は、
「く、
と叫び、きゅう、と目をまわし倒れた。
大川と三虎は、その様子に目もくれず、愛馬にむかう。
* * *
目をまわした善良そうな
「お、
「
「あ、ありがとう……。」
郷人がわいわい言うので、
(え? これ、どういう豪遊ができちゃうの? え? 何して遊ぼう?
え?
と痩せぎすの彼がにまにましていると、
「めでたいなぁ、ありがてえなぁ。」
「じゃあご馳走だな!
と郷人の誰かが言い、おーっと皆が盛り上がり、
「え?」
と戸惑う
「よーっし! 米を奥から出してこい! 干した
と
「ええええええ?!」
「わーい! ご馳走だぁ!」
「ご馳走だぁ!
「めでたいなぁ、ありがたいなぁ。」
と皆が盛り上がり、ばあーんと奥の扉が開け放たれ、この時間まで起きていた酔狂な人々の隅々まで、ご馳走と浄酒が行き渡った。
「そーんなーあ!!」
「さすがに、これだけ飲み食いしても、使い切れんわ。あとで、
それとも、鉄鍋のほうが良いか?」
「
さっと返事をしたのは、いつの間に側にいたのであろう、
「
あとで、新しい衣をこしらえられる。
今日だって、手ぶらじゃない。
ほら、でっかい
と優しく言うので、朝起きた子供たちが、思わぬご馳走にどれだけ驚き、喜ぶか想像した
(まあ、富を郷全体で分けたんだし、かわいい子供たちの笑顔が見れるんだから、悪くないか。)
と思い、へにゃり、と笑うのだった。
大川と三虎は、そんなやり取りは、当然知らない。
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