第二十二話 納曽利 〜なそり〜
少しは歩みよれたか、と思った兄上──
ゆっくり歩みよれたら良い、と思いつつ、兄上との関係はそのままだ……。
月日はあっという間に過ぎる。
新嘗祭の夜が来る。
* * *
十一月。
庭の中央には、大きな舞の舞台が木で組まれている。
招かれた客が、六十人はいるだろうか。
楽しそうな話し声が満ちている。
祭りが始まるのを、今か今かと待っているのだ。
ふるまわれる
舞台から東、
柱と板で、広場より高い場所を作り、倚子と机が用意され、
その貴賓席の中央で。
四十歳を過ぎ、青みがかった
広瀬は、従者に頷く。
従者は心得て、小さな白い袋を、女官が捧げ持つ
「たしかに。ありがとうございます。
して、お役目のすんだあとの馬は、手配いただきましたか……。」
「ああ、用意させた。南の
しかし、泊まっていかないのか?」
袋を懐にしまいこんだ男は、どこか鬱々とした声で、
「馬と砂金、感謝申し上げます。
しかし、ここに泊まっていく事はできません。これは、私の
広瀬は、
「そなたの
と言った。
広瀬の隣りの倚子に座った
「ええ、この
評判を聞きつけて、あたくしがわざわざ
今から
ねえ、おまえの
意弥奈が興奮気味に笑いながら言う。
「私の
広瀬は少し、
「よく役目を果たせ。」
と言い、手をぴっ、と払った。
礼の姿勢をとったままだった
貴賓席の
「
ふんっ、
いったん、
* * *
貴賓席では、
「
おまえもまだ
「ゆーいつって何だ。」
三虎はむっと不機嫌そうな顔で答えた。十歳なのに、愛らしさの欠片もない。
「楽び楽しむ、って事だよ! どうしておまえは、宴の時まで、そういう顔なんだい……。」
と鎌売はため息をついた。
「オレは舞台袖で充分……。」
と言いかけた三虎に、
「口答えしない!」
鎌売は背をばんと叩き、言い渡す。
大川は倚子から振り返り、
「はは……。
と柔らかく笑った。
* * *
パチパチと、
ぷぁぁぁん………。
天から差す光のごとく、
ひょぉぉお……。
光の空を
舞台の上では、
背中合わせに、舞台を大きく使い円を描き。
右膝を高くあげ、地におろし。
右足のつま先が着地したと思ったら、とんと少し伸び上がり。
大きく左足を左に踏み出す。
左足に重心をのせ、深く沈み、龍が這うように、低い姿勢で左に移動する。
舞台の中央で、くるりと真向かい。
龍は遊ぶ。
広河は右に大きく腕で半円を描き。
大川は左に大きく腕で半円を描き。
龍の尾が雲をちろりと
踵を小さく踏み出し。
床を摺り足でなぞり。
膝から深く沈み。
空へ跳躍する。
舞の動きは、全て優雅で
だが、二人並ぶうち、人々の目はどうしても大川に吸い寄せられる。
大川、その顔、並ぶものなき清らかさ。
返す手、静かに踏み込まれる足、まっすぐな背。
その全てが
「ほぅ……。」
と人々は
三虎は、見物する人達にまぎれて、
手には、
川魚と一緒に、山菜ときのこ、ごぼうを煮込み、塩気を良くきかせ、ほのかに
納曽利が終わった。
人々が、嬉しそうに手を叩き、口々に、良き舞いだった、美しい
人々の喝采に満足しつつ、三虎が魚のアラ汁をすすっていると、後ろから頭をバシリと叩く者があった。
魚顔の
伊可麻呂はニヤニヤと笑いながら、三虎の手の土師器の椀を指さした。
三虎は苦い顔をしながら、木の匙をつっこんだままの土師器の椀を、黙って差し出す。
それを受け取った伊可麻呂は笑いながら人波にまぎれてゆく。
三虎は憎々しげに舌打ちし、伊可麻呂を見送ったあと、すぐに無表情になり、貴賓席に足をむけた。
「
わあっ、と、舞台と貴賓席の、ちょうど中間の広場から声があがった。
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