第十七話 布を織らされまして
皆、家の仕事や、畑仕事があり、自由に遊べる時間は、私達ほどはない。
「団子の
その時々で、三人だったり、二十人だったり、人数がまちまちの
楽しい! よく笑った!
眩しい夏。
加巴理は、一切勉強をしない。
時々、
もともと、稽古が嫌だと思った事はないが、
ある日は、雨上がり、三虎が、
「おほぁ───! 泥だんごの極楽浄土だ!」
と訳のわからない事を叫びながら、庭で泥だらけになり、にっこにっこ笑顔で泥だんご作りに
「どうです? すごいでしょう。大きさといい、輝きといい……。なかなかこんな泥だんごは作れるものじゃありません。」
と、うっとりした顔で三虎が泥だんごを見せてくるので、加巴理は、うん、うん、と頷いてやった。
正直、三虎と同じように泥だんごで興奮はできない……。
ある日は、郷の人々にまざって、水をはった田の、
衛士の
泥水を小さな虫がすーい、すーいと泳ぐなか、大勢で、ずぶずぶと田に入る。
せっせと雑草をとりながら、加巴理の隣に並んだ
「初めて会った時の三虎は、むっつりした表情で、可愛げがなくって、そりゃあ驚いた。」
と言った。
それを聞いて、三虎は唇をとんがらせ、
「ふん。」
とだけ言った。
「はじめ、
いつもこうなんだな、加巴理さま。」
とこちらに話をふるので、
「そうだ。
と、にっと笑って言ったら、
「あはは! そいつはしょうがねぇや!」
とからからと
つられて、加巴理も、ははは、と笑う。
「それでも、私の大事な、たった一人の
田の泥にためらいなく手をつっこみ、雑草を引き抜きながら、はっきりと言う。
「へへ、あんたらさ、仲良しで、良いよなあ。」
ふっ、と三虎が笑った気配がした。
少し離れたところでは、
「どわあああ!」
と派手に声をあげていた。
どっ、とまわりの人々が笑う。
* * *
三虎は、
昨日は、遊び仲間の
「私もやる!」
とその
「できた! できたぞ!」
と喜んでいた。
そして今朝、
「布を織っているところを見たい!」
と言いだした。
布多未がぎょっとした顔をして、
「布……。
布多未はお供をほっぽりだした。
「じゃあ、あんたは、文字の手習いを教えてやるわ! 三虎はしっかり書けるのに、あんたの文字ときたら……。」
いつの間にか現れた母刀自が布多未の襟首をつかみ、
「ぎゃっ! 鬼に捕まった!」
と騒ぐ布多未を奥の部屋に引きずり込んでいった。
(……オレは何も見なかった。)
三虎はそう思うことにした。
四十人は入れる大きな部屋で、
柱に糸をくくりつけ、一人ずつ座り、唄いながら、
※
玉ならば
手手にや
夜はさ
(
かわいい
玉ならば、手に入れられるでしょう。
玉ならば、昼は手にとり、夜は一緒に寝るのですよ。
手に入れられるでしょう。)
大勢で声をあわせて唄う。
「……やってみたい。」
「えっ!」
三虎は驚く。
(だって、
「この機会を逃したら、もう絶対やってみる事はない。やる。」
目をきらきらさせながら、加巴理さまが言った。三虎は無言になる。
「あはは、良いですとも。」
親切そうに笑った
三虎が側で見てると、
「じゃあ、あなたはこっちね。」
と他の女に手をとられた。
「ええっ? オレは……!」
「はいはい、座って。」
「え、なんで? なんで!? 」
いつの間にか、
そして、なぜか三虎まで布を織るはめになった。
それは、昼餉の休憩を挟んで、一日作業となった。
加巴理さまは喜々として白い布を織り続けた。
「こう、地道に布が織りあがっていくのを見てると、気持ち良いなあ!」
(そうなの? 飽きない? 本当に飽きない?)
三虎は途中、
「歌声が小さい。ちゃんと声を出して。」
と何回も
(なんでだあ!
加巴理さまが楽しそうなのは良い。
だが、オレは恥ずかしい……。)
そう思いつつ、頑張って声を出し、唄った。
手手にや 昼は手に
夜は我が手手にやは 手手にやは……
(かわいい
玉ならば、手に入れられるでしょう。
玉ならば、昼は手に据え、夜はわたしの、この手に。
手に入れられるでしょう……。)
※参考……古代歌謡集 日本古典文学大系 岩波書店
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