第十六話 蟹に挟まれまして
翌日、加巴理と三虎、
「いってぇー!」
三虎が蟹に指を挟まれ、蟹に逃げられた。
そばの
「なあんだ、えらいとこのカハリさまは、蟹とりが下手くそだなあ。」
「加巴理さまじゃない! オレは従者!」
三虎がくってかかるように言うが、
「あん? そうか。どっちでも良いや。」
年上で、鼻がぺちゃんと低い
ぞんざいに扱われる事は、加巴理の人生で今までなかった。
(ああ、楽だ。)
「貸してみろ。」
蟹をとる
「んっ!」
短い時間で、上手に蟹をとった。
「ほら。穫れたぞ。良かったな。」
「オレだって、これくらい穫れる!」
三虎が
「おう、ちょうどいい。遊んでくれよ。
相撲、とろうぜ。
オレは
蟹に指を挟まれたのが、弟、三虎。
そこの玉のような若さまが、加巴理さま。オレ達の主だ。」
布多未が明るく笑って声をかけた。
「相撲か。良いぜ。
後悔するなよ。
オレはここらの
オレは
「はかせ……。」
あまりに立派な名前に、布多未がきょとん、とした顔をした。
「母刀自が、ありがたい名前だってつけてくれたんだ。
悪いかよ───っ!」
どう見ても学がなさそうな、郷の
「そんなこと一言もいってない。言いたいことがあるなら……、ここに聞け!」
布多未がおのれの胸をどんと叩き言った。
「おうよ……、相撲だ!」
布多未と
「博士はいないのに、ここには
と加巴理が思わず小声で呟いたら、三虎がぼんやりとこちらを見て、はっとした顔をし、
「加巴理さま! 冗談ですね! 面白いです!」
と真面目くさった顔で言ったので、加巴理は恥ずかしくなった。
「……忘れろ。」
ぽつっと言い捨て、布多未と
土の道に小枝で円をかいた二人は、がっぷり組み合い、どーん、と布多未がふっとばされた。
「はーい、勝負あり。」
相撲を見ていた荒弓が宣言をする。
「ああっ、ちっくしょー!」
円の外で尻もちをついた布多未が悔しがる。
「はっはっは。オレは十四歳だからな! おまえ、もっと年下だろ。」
加巴理はにっこりと笑いながら、
「見事な
と言った。
「ほーび。」
「相撲の勝ち負けで、いちいち何かモノをあげてたら、気軽に相撲遊びもできねえよ、えらい若さま!
それよりさ。遊んでくれよ。
あんたら、衛士や郷長さまを連れて歩いてるしさ、一緒に遊びたくても、なんか声かけにくい雰囲気なんだよ。みんな、そう言ってるぜ。」
「えっ。」
今度は加巴理が目を丸くした。
何か用事を申し付け、それが骨が折れる仕事だと、何か心付けを渡してやるのが普通だった。
何か心映えの良い事をした下人や女官に、褒美を与えるのも普通のこと。
(違うのか。)
びょーん、と跳ね上がるように、元気に起き上がった布多未が言う。
「おまえ、良い奴だな、
「いいぜ。明日は、大人数で遊ぼう。……木の実でもなんでも良いから、大人数でつまめるやつ、何か持ってこいよ。」
へへ、と
その日を境に、郷の
釣りをしたり。
暑い日には、小川でざぶん、と皆で泳いだり。
河原で石を積んで、誰が一番高く積み上げられるか競ったり。
郷長がいつもお団子を沢山持たせてくれたので、皆で食べた。
「木の実より上等だ!」
「うまい!」
「団子……。団子の加巴理さま。」
「団子の加巴理さま。」
と良いのか悪いのかわからない名前を尊敬をこめて呼ばれるようになり、
「やめないか!」
と三虎は怒り、
「はっはっは! 団子、旨いもんなあ!」
と布多未は笑い、
「三虎、今は、いいよ。ここでは、それで。」
と加巴理は、なんだか恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちで、三虎に伝えた。
「加巴理さまが良いならそれで!」
三虎はきりりと返事をする。
「かーっ! 悔しいぜ!」
と布多未は言うが、
「強いなあ!」
開けっ
郷の
三虎は加巴理にぴったりと張り付き、加巴理は穏やかに、喋りかけてくる郷の
ちなみに、加巴理も、三虎も、
武芸の師、
時々、八十敷の連れてくる衛士や、布多未。
それ以外に投げられたのは初めてだ、と土に尻もちをついて
そして、すぐに、
「やあ、次。」
と他の
(負けたのに、なんだか楽しい。)
三虎がこちらを気遣う視線をむけている。
だが、この場では、皆、尻もちをついたら、自分で起き上がる。
(手助けは無用だ、三虎。自分で立てる。)
加巴理は一人ですっくと立つ。
加巴理の次に
「はーい。
なぜか相撲の勝敗を宣言する役目が定着しつつある荒弓が、力の抜けた姿勢で笑い、明るく言う。
「わっはっは。負けたなあ!」
と負けたのに楽しそうに笑い、
「わっはっは。勝った。オレ、強え。」
と
勝った方も、負けた方も、楽しそう。
(私だけじゃないな。そう感じてるのは。)
歳が近い
「オレともう一勝負だあ!」
三虎が鼻息荒く、
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093085660761194
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます