第十話 ていいのゴザ
その日の
それは、
加巴理の隣には、
加巴理は縛られてはいないが、これで縄をかけられていたら、まさしく、罪人そのもののようであった。
見物人が五十人はいるか。
(───見世物。)
屈辱で、頭がくらくらとした。
加巴理は両膝の上においた手を、爪が食い込み血が
東には、父上の
その従者、
西には、青ざめた
「やめろ、やめろ───!」
叫び、今にも暴れ出しそうな三虎を、三虎の兄、
布多未が横から抱きしめ、
三虎はもがく。
(───大丈夫。)
加巴理は一瞬、三虎に目をやり、あとは
たくさんの見物人を追い払うことをせず、父上は口を開いた。
「お前は兄の物を決して望むな。
兄に望まれたら、差し出せ。」
胃の腑が、かぁっ、と燃えた。
顎が震え、言葉が出ず、ただ、弾かれたように父上を見上げ、……睨んだ。
(あなたがくだされた
私への褒美だ。私が受け取るのが正当なものだ。兄上が
父上は冷ややかに加巴理を見下ろしたあと、一言、
「打て。」
と
おお、と見物人がどよめき、
「
父上の冷徹な声が大きく響いた。
さきほどより大きなどよめきが起きる。
息を呑んだ
「打て!」
大声で叫んだ。
「許されよ。」
(これが父上の味だ……。父上が私に味あわせているものの味だ………。)
西から大きな悲鳴があがり、それをかき消すような大声で、
「こたびの
改めて、
さらに、意弥奈には白絹
と父上が宣言した。続け、
「はじめからこうしておけば良かったのだ。」
と独り言のように呟いた声を遠くに聴きながら、荒いささくれだったゴザに頭をつけ、意識が失せた。
* * *
三虎は涙を流しながら、父──
(やめろ、やめろ、オレの大事な
大人に比べて、あまりに小さな加巴理さまの身体がふっとんだ時、母刀自に口を抑えられながら、三虎は絶叫した。
「うああ──────!」
隣では、
「いやっ………。」
宇都売さまが短い悲鳴をあげ、倒れ、二人の女官が、
「きゃあ……。」
「宇都売さまぁ!」
と悲鳴をあげ、宇都売さまを支えた。
あたりはザワザワとし、すぐに
意弥奈さまが喜々として礼を述べ、人が散り散りになりはじめた。
そこでやっと、母刀自と
三虎は、わああ、と泣きながら、意識を失った加巴理さまのもとへ駆け寄った。
口から血を流している。
右頬が腫れている。
「父上、なんで加巴理さまを殴ったんだ、なんで、なんで!!」
三虎は食って掛かるが、父上は鋭い眼光で、
「医者に見せるのが先だ。それが分からぬ駄々っ子は帰れ。
看病の際に手は必要だろうが、冷静に世話が出来ぬ手は要らぬ!」
ビシリと言われ、
「ぐっ……。」
三虎は押し黙った。袖でごしっ、と目をぬぐい、そのまま父上について医務室へ向かう。
(そう……、本当はわかってる。
オレが冷静になるべきだったんだ。
母刀自が打ち倒されても、
そうすれば、加巴理さまは、今頃こんな事になってなかった。
オレのせいだ……。
加巴理さまは、繰り返し、喧嘩は駄目、それで良くなるの、とオレに教えてくれていたのに………。)
その真摯な目を、怒ってもなお、優しく愛らしい顔を思い返し、三虎は
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