第九話 朽葉むらごの武人
「あっ、自分が何をしてるかわかってるの、この
鎌売は無言で
二人の意弥奈さまの女官が参戦し、
「
「
ぎゃあぎゃあと
「鎌売を叩いたわねっ!」
「
母刀自の残りの女官も加勢し、
きゃあ、きゃあ、やったわね───。
加巴理と三虎は、息をするのも忘れ、手を握りあい、ただその行く末を見守る事しかできなかった。
盛大なため息をついた
「どきなさい!」
と一喝し、ぽんぽんと双方の女官を引き剥がした。
そしてしっかと
「お? ……むおっ。」
必死の鎌売は、
「離れ、なされっ!」
髭面の武人により、
「あう!」
だあん、と肩から床にぶつかった鎌売が悲鳴をあげ、それを見た
「母刀自────っ!!」
叫んだ三虎が加巴理の手を離した。
「あっ、三虎……。」
加巴理が制止する間もなく、背の高い武人の背中に殴りかかろうとした。
「よくもぉぉ!!」
素早く振り返った武人は、ちっ、と舌打ちをして、左足をひき半身で三虎を軽く
「あぐっ……。」
三虎はその場に崩折れた。ピッ、と血が飛んだのが見えた。
(血………。三虎の血………。)
真っ白い怒りが腹から突き上げ、気がついた時には、加巴理は部屋の隅に置いていた
「おおっ!」
鉾を右からビョウと低く振り、
「ぬっ……。」
顔をゆがめた武人が、
刹那。
右足を踏み込み、背を伸ばし、腕を振り上げ、腰から鉾の切っ先まで一本のしなるムチのように、
「はああっ!」
力いっぱい柄を武人の脳天に打ち下ろした。芯を捉えた。
白目をむいた髭面の武人は、どおっ、と仰向けに倒れた。
きゃああ、と意弥奈さまの女官三人が悲鳴をあげる。
加巴理は、きっ、と女官たちを振り返り、ぶん、と鉾の切っ先をふり、
「
叫んだ。
(本気だ。
「ひ………!」
「きゃあ………。」
「あれぇ………。」
「意弥奈さまーあ!」
と口々に悲鳴をあげながら、三人の女官は
「もう来るなーっ!」
「いいざまよーっ!」
普段しとやかな所作を忘れない
「加巴理……!」
背中から、母刀自の柔らかい腕に抱きしめられた。
はあ、はあ、と己の息が荒い。
(やってやった。大人の武人を一撃昏倒させてやった。
鼻持ちならない、大嫌いな意弥奈さまの女官たちに、目にもの見せてやった………。)
「誰か! 衛士!
「加巴理さま……。」
と鼻血をぬぐった三虎が、無表情でゆっくり近づいてきた。
目には、悲しそうな色が揺れている。
「オレ……、オレ……。」
その三虎の目を見たとたん、興奮がしゅっと消え、悲しみがあふれてきた。
三虎にむかって、一歩踏み出す。
母刀自が察して、抱きしめた腕を解放してくれる。
加巴理は両手を広げる。
三虎を抱きしめる。
抱きしめられた三虎は、
「オレ、役に立てなくて………。」
と悲しそうに言った。
「三虎。いいんだ。言うな。
私はどうして、
「加巴理さま! 違う!!」
三虎が叫び、
「そんな、わけあるか………うわあああん!」
加巴理にしがみついて泣き出した。
「ふえ………。」
三虎が泣くから、加巴理もつられて、泣いてしまう。
「うあ……、ああああ……。」
二人で固く抱き合って、泣いた。
(なんで、こんなに、悲しいんだろうな。
なんで、
八歳の
────それで、終わりではなかった。
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