第三話 淡水香と山奈
柳色の衣をきた
部屋からは、三虎の泣く声と、
「おまえって子は!」
高らかにお尻をぶたれてる音がする。
「ぎゃ───ん。うっ、うっ、うっ……、オレは加巴理さまの一番の従者だ! 当然の事をしたまでだ! ぎゃ───ん。」
己の大事な
(鎌売に、もう止めて、とお願いしなければ。)
私は開け放たれた
だが部屋に入る前に、母刀自が助け舟をだした。
「もうそれぐらいで良いでしょう。
そう、そう、
女官は無言で母刀自に礼をとると、退去の挨拶も述べず、くるりと妻戸の方を向いた。
妻戸の外に立つ
女官は顔に高慢な侮蔑をかすかに見せ、加巴理には目もくれず、部屋を出ていった。
だが、その女官が立ち去った後も、なんとなく、足が
(慣れっこだろ……。)
室内では、三虎が奥の壁を向き、赤いお尻をまるだしにして、木床にうつ伏せになっている。
「いてぇ、チクショー。」
腕でぐいっと目から涙をぬぐう仕草をしたのが見えた。ブツブツ元気に悪態をついている。
「
薬草を──
母刀自が鎌売に優しく言う。
鎌売は、はい、と頷き、礼をした後、パンと三虎の頭を殴り、三虎に「痛ぇ。」と声をあげさせてから、
「まあ、加巴理さま。」
と鎌売は厳しい顔立ちに満面の笑みを浮かべて、こちらに礼の姿勢をとり、私とすれ違いで部屋を出ていった。
私を見た母刀自は、ぱっと明るく笑い、
「加巴理。あたくしの加巴理。入ってらっしゃい。おいで。」
と、両腕を広げてくれた。
母刀自はいつも優しい。
私は、ぱっと駆け出した。
無言で母刀自の、
温かい
柔らかい衣擦れの音がし、ふわふわとした心地よさで、胸までいっぱいになる。
「母刀自は良い匂い。」
ふふ、と母刀自が笑って、腕をといた。
「額を見せて。」
しゃがみこみ、私の額をじっと見つめる。
「ああ、擦り傷ね。傷まない? 薬草を塗ってあげましょうか?」
私はニッコリしながら言う。
「大丈夫です。こんなの、薬草なんていりません。博士に拭いてもらいましたから。」
母刀自に心配をかけたくない。
「三虎のお尻のほうがよっぽどです。」
三虎はまだ、お尻まるだしでうつぶせだ。私は近寄って、ひょいと隣にしゃがみこむ。
「大丈夫?」
「お尻が火事だぜ。」
三虎は淡々と言う。
全然懲りてない。
「いつもありがとう。でもあんな事しないでよ。
三虎の方が結局、酷い目にあってるじゃないか。」
三虎はムッとした顔で──でもいつもそんな顔なんだけど、
「やられっぱなしは、
と壁を向いたまま、ぶっきらぼうに言った。
「私は全然気にしてない。それに、今日は落ち着いて博士の話が聴けて良かった。
怖い顔で睨みつけてくる人が、早めにいなくなってくれたから。」
肩を
「そんなんじゃ駄目だ! やられっぱなしじゃ……。強くなれよ!」
「またそんな口を!」
お湯を
「てェ───────!」
びくんっ、と身体を
「おまえなんかに、高価な
「何回目なんて知るか! 何回だってやってやらぁ! 悪いのはアイツだ──!」
「ああ態度がふてぶてしい! どうしてこう可愛げがないんだいおまえは!」
三虎と鎌売は、そのまま母子で口喧嘩を始めてしまった。
(鎌売は、私には優しいんだけどな……。)
そう思っていると、母刀自がふわりと白い
黄色の
青の
髪は
母刀自お気に入りの
もちろん、母刀自自身が一番綺麗だ。
「母刀自。」
つんつんと青の
「お腹すいた。」
ワガママを言ってみる。
「あらあら。もう少しで、
「お腹すいたよぅ〜。」
腰にぎゅっと抱きつく。
「昼餉がきたら、いっぱい食べましょうね。」
母刀自は優しく言うが、
「むぅ〜。」
私は唇を尖らせて、母刀自を見上げる。
「あらあら、あたくしの加巴理は
唇をキュッとつままれる。
「むっ!」
ぶんぶん、と顔を振って母刀自の指を唇から外し、顔を母刀自の腹に埋める。
「あらあら……。」
母刀自は優しく、抱きついた私ごと身を揺らす。
右に。
左に。
私はわざとむーむー言いながら、優しい揺らぎに心地よく身を任せ続けた。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093084792969448
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