第二話 泥だんごとは。
泥だんごとは。
土に水を吸わせて、べっちゃん、べっちゃん、と握って作る団子のことだが、オレはこれを作るのが上手い。
丁寧に握っていくのがコツである。
まあるく、大きく作れたら、ボロ布を用意しよう。水で濡らした布で、表面をそっと撫で磨く。
そうすると、ピッカーン、と輝く
へへ。大きさも美しさも、見たらたまげちまう。
まあ、今日は、すぐに使うことになるだろうから、そこまでこだわらない。
もし、使わなかったら、もっと丁寧に磨きあげて、これは何の玉か! とビックリするぐらいにして、
うん、それが良い。
さ、何個ぐらい必要か。
* * *
春の光照る空。
松の梢ものどかに風にそよぐ。
庭では
「おさらいをしましょう。
むかって右に座る八歳の
左に座る六歳の
部屋の
魚みたいな平べったい顔立ちの、
今は勉強の時間だ。
博士が机の上に
「……
「そう、よろしい。では、卽拜大仁上毛野君形名爲將軍令討。これはどうですかな?」
「……我らが
少しの沈黙のあと、遠慮がちに
いきなり竹麻呂がバン、と両手で弟を突き倒した。
「わぁんっ。」
ごてっ、倚子からころげ落ちた加巴理は泣き出す。
「この
変てこな名前のヤツ! お前の半分は
私の半分は
竹麻呂は震えながら一気に
「これっ! 竹麻呂さま!」
博士は口ひげを波打たせながら鋭く
「ふんっ!」
竹麻呂は走り去った。従者である八歳の
「はぁ───。
博士がため息をつきつつ、わ──、わあーん、と泣き続ける加巴理を助けおこしていると、
「ぎゃっ!」
「誰だ、ぶわふっ! このやろ───っ!」
竹麻呂が走り去った
許さねえからな───! と騒々しくわめきながら、竹麻呂の
加巴理はまだ泣いている。
おでこを擦りむいている。博士は木綿の手布で顔を拭いてやりながら、
「加巴理さまは、
宇都売さまが遠く
加巴理は、ひっく、ひっく、としゃくりあげながら、
「じゃあなんで兄上はいつも意地悪するの?
私だって、あんな乱暴者イヤだ!」
大きな声で気持ちを吐き出した。
博士は穏やかに言う。
「お二人は血を分けられた兄弟。血は濃いものです。竹麻呂さまも、今少し成長なされば、きっとおわかりになるでしょう。」
加巴理が何か言う前に、
「そんな日来るもんか!」
大川の
どことなく神経質そうな顔立ちの、ふてぶてしい
「あいつの
「おまえどこでそんな事を……。」
六歳の
「オレの
どうだ、とばかりに胸をはった。
「加巴理さまに変な事言うんじゃない!」
ため息をついた博士が、ぴたりと視線を三虎の
晴天なのに、点々と泥はねが裾についている。
「おまえ、その泥はどうした!」
博士が詰問すると、三虎は、「ばれたか。」と一瞬顔をしかめたが、すぐにまた胸をはり、堂々と、
「こんな事もあろうかと、松の上で待ってた。竹麻呂の頭、
「コラ────!!」
拳を振り上げて叱るが、三虎は俊足でピューと逃げた。
(やれやれ……。)
加巴理は泣き止んで、切れ長の目をパチクリさせている。
ふっくらした頬に、血色の良い唇、整った鼻梁。
同い年の
「加巴理さま、今日はどうされますかな? この後は。」
加巴理は、はっ、と何か気がついた顔をして、博士を真っ直ぐ見た。
そして、泣いて恥ずかしい、と言いたげな、はにかんだ笑顔を浮かべた。
目にキラリと理知の光が灯る。
「勉学の時間を乱してしまい、ごめんなさい。」
と、座っていた倚子から立ち、両腕を胸の高さにあげ、指先をくっつけ、膝をかがめ、礼をとる。
「博士さま、続きをお願いします。」
もう、
「座りなさい。」
博士は満足そうに
博士にとっては、この素直さこそ一番の得難い宝であった。
↓加巴理の挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093084663831612
↓ちび三虎の挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093084724165478
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