第3話
私は今日もペンダントに向かっていた。
ダイニングテーブルに置かれたそれを、私はじっと睨みつける。昨夜の出来事が夢だとは思えなかったのだ。
「和子、昨日はすまなかった」
だから今日は、私一人で確かめるつもりでいる。
「明日は仕事休みだろ。ゆっくりしてから寝るといいよ」
「
「いや、いいんだ。こっちも配慮が足りなかった」
私は
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ペンダントは沈黙している。昨日はあんなに煌めいていたのに。
昨日は何故煌めいていたのか。私は理由を考える。
このペンダントは、異世界を覗く道具。だから、条件さえ整えば使えるはず。
昨日は確か、
そうか。
私は
「もう一度、
ペンダントが煌めく。宝石の中に影が見える。
私の願いは、
ペンダントは、その願いを聞き入れた。
目の前に、おどろおどろしい景色が映し出される。
そこは何処かの城のよう。ゲームに出てくるような、西洋風の城だ。
「魔王・ダークマター! お前の野望もここまでだ!」
私は息を飲んだ。
「ハッハッハ! 勇者だか何だか知らんが、我に勝とうなど千年早い!」
「くそう……ここで俺が負けたら……この国は……」
「何がお前を突き動かす? お前はこの国どころか、この世界の者でもないのだろう」
魔王が尋ねる。魔王には、
私にだって理解できない。何故、自分のことでもない、他所の世界のために戦うの。
「俺は……この世界で色んなものに出会った……」
「初めてこの世界に来て、右も左もわからなかった俺を、エルフの村長は助けてくれた。
リーシャは俺の旅に快く着いてきてくれた。
獣人族の谷では美味しい料理をご馳走してくれた。
この国の王様は、俺達に魔法奥義の手ほどきをしてくれた。
みんなが俺を受け入れてくれた。俺は、それに応えたいんだ……!」
だけど、魔王は
「ああ、素敵だな。笑えるほどに。
そんな
魔王は大きく口を開く。そして、その口から巨大な火球を吐き出した。
禍々しいほどに真っ黒な火球。目を丸くする少女を突き飛ばして、
私はそれを見ていることしかできない。
「
私は叫ぶ。
こんなの、残酷だ。
私は頭を抱え、泣き叫びながらその場に屈みこんだ。
「まだ、終わっちゃいないよ」
魔女の声だ。
何が「終わっちゃいない」だ。今まさに、目の前で
「死んでないよ。ほら、見てごらん」
魔女に促され、私は恐々と顔を上げる。
体は焼けつつあったけど、その目には諦めが灯されていたけど、でもまだ死んでいない。
「太陽はね、自らの光を星に届けているんだ」
魔女は唐突に不思議なことを言った。意味ありげな言葉を聞き、私は訝しむ。
魔女は私に手を差し出す。それを握ると乱暴に引っ張られ、私は立ち上がった。
「かけがえのない
魔女はなおも語る。
言わんとすることを理解して、私は目を見開いた。
だめよ、
あなたは勇者なんでしょう?
「
私は叫んだ。
例え
いや、聞かせるつもりで、大声で叫ぶ。
「諦めちゃだめ! 頑張りなさい! そんな奴やっつけて、大手を振って元の世界に戻ってくるの!」
「かあ、さん……?」
そう呟いたかと思うと、
焼けただれた肌は瞬時に治り、目には決意の光が灯る。
「そうだ。俺はここで終われない!」
その姿は、勇者と呼ぶに相応しい凛々しさだった。
「俺は、この世界を守るんだ! 喰らえ、
星の輝きを纏った剣が、眩い光を発した。
後に残ったのは、
「やったのね……」
「あぁ、やったんだ……やったんだ!」
私の目には涙が浮かんでいた。
突如、光の残滓が円形に広がった。輝く光の縁取りに、銀河を凝縮したかのような銀色の膜。
これは……
「これ、光のゲートだよ」
少女が言う。
「元の世界に戻れるっていう、あの?」
「うん。村の魔導書に書いてある通りだもん」
「じゃあ、ここを通れば……」
「え、け、ケン?」
ドギマギする少女を、
「リーシャがいたからここまで来れた。ありがとう。俺、君のこと忘れないよ」
「私も、ケンのこと忘れない」
二人は涙を流す。
それでも
「さよなら、元気でな!」
そう、一言残して。
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