第4話

 気付けば私は、涙を流してダイニングにぽつんと座っていた。

 健一けんいちは、私の知らないところで成長し、大人になっていた。

 きっと色々な経験をしたのだろう。辛いことも、悲しいこともあったかもしれない。それでも、何かを守るために行動できる、立派な大人になっていたのだ。

 その成長を近くで見ることができなかったのは、少しだけ寂しい。


 物思いに耽っていると、夜だというのに隆成りゅうせいさんが慌てて寝室から飛び出してきた。片手には、通話中の文字が表示されたスマートフォンを握っている。


「和子、今すぐ病院に行こう!」


 隆成りゅうせいさんの言わんとしていることは、私にもわかった。健一けんいちが目を覚ましたのだろう。

 私たちは急いで支度をして病院に向かう。早く健一けんいちに会いたくて仕方なかった。


 健一けんいちが眠る個室へと慌てて向かい、扉を開ける。

 お医者様や看護師さんに囲まれて、健一けんいちは元気な笑顔で私たちの到着を待っていた。


「父さん! 母さん!」


健一けんいち!」


 私と隆成りゅうせいさんは、健一けんいちに駆け寄って涙を流した。

 半年眠っていたこと、ずっと機械に生かされていたこと、それらを捲し立てるように説明するけど、健一けんいちは全く理解できていないみたい。

 それよりも、話したいことがあるのかうずうずしているようだった。


「俺、国を救う勇者になったんだ。エルフと旅をして、魔王を倒して、ようやく帰ってきたんだよ」


 隆成りゅうせいさんはそれを夢だと言うけど、私は知っている。健一けんいちは素敵な旅をして、諦めない心を学んで、成長して帰ってきたことを。


「そうだ。魔王と戦ってピンチになった時に、母さんの声が聞こえたんだ」


 健一けんいちは語る。


「諦めちゃだめ、頑張りなさいって。いつも剣道の試合で応援してくれるみたいな感じでさ。

 母さん、もしかして魔王城にいた?」


 私はふふっと笑う。


「もしかしたら、いたかもね」


「え、まじで?」


 健一けんいちは顔を真っ赤にさせる。

 そりゃそうよね。彼女とのハグを親に見られたんだから、恥ずかしいに決まってる。


 隆成りゅうせいさんは、私と健一けんいちの会話に首を傾げていた。

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