第4話

 今日のご飯はから揚げだ。自分で作るんじゃない。有名店のから揚げを、デリバリーしてもらったんだ。

 四角いリュックを背負った配達員から、から揚げを受け取る。


「ありがとうございましたー!」


 配達員の元気な声を聞きながらドアを閉め、私は定位置に向かう。

 麦はやっぱりご飯を食べていない。お皿のそばで丸くなっていた。


「麦。今日は、私が幸せを食べさせてあげるね」


 麦の頭を撫でて隣に座り、フードパックを開く。出来立てのから揚げ弁当から、ホカホカと湯気が立ち昇る。

 いただきますと呟いて、私はから揚げを頬張った。ジューシーなもも肉から肉汁があふれ出て、甘辛いタレと混ざり合う。正に幸せの味。


 私は、スマラグドゥスのスプーンを手に取った。途端に、私の体が光り始める。

 蜂蜜色の、私の幸せ。それをスプーンで掬いとる。

 掬った途端に、私の中から幸せが抜けていく。幸せという感情が何だったか、一瞬のうちに忘れてしまう。


 そうか、これを麦も味わったのか。私の心に、罪悪感が突き刺さる。


 麦を見た。麦は私を見上げている。何か言いたげに、口は半開きだ。

 その中に、スプーンの先端を入れた。麦の舌に、幸せを垂らす。


 麦は目を見開いて立ち上がった。


「バウ!」


 久しぶりだった。麦の元気な声を聞いたのは。

 麦はお皿を覗き込む。盛られたご飯の匂いを嗅いで、おもむろにそれを食べ始めた。

 食べ始めたら止まらない。麦は空腹だったこともあって、ガツガツとご飯を食べ進める。

 あっという間に空になったお皿。そして、満足そうな麦の笑顔。たまらなくかわいくて、私は思わず笑みをこぼす。


 私は安心するとともに、幸せを感じた。

 

 ああ、幸せって、こんな些細なものだったんだ。

 麦が元気いっぱいにご飯を食べてくれるだけで、私はこんなにも幸せになれるんだ。


 私はスプーンをじっと見つめる。

 私には、これはもういらないな。そう思った。

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