6.焦燥

弘は考え込んだ。


豊田さんに、連絡があった。

母親からだ。

状況が分かった。


まだ、北村さんが行方不明のままだ。

携帯は繋がらない。


おそらく、豊田さんと同じように、自身の意志で、電源を切っているのだろう。

迷惑を掛けたくない。


そんな気持ちだろうか。

もう、既に、充分、迷惑を掛けているのだが。


弘は、北村さんの捜索に加わった。

岩屋公園から、高専の東校門の前に続く旧道を通って、北村さんを探している。

横山さんと豊田さんも一緒だ。


スーパーの駐車場に、何台ものパトカーが停車している。

車の窓から、これもまたパトカーが、路肩に停車しているのが見える。

北村さんを捜索しているのだろう。


また、パトカーとすれ違った。

西峰の仲間の弘川と長田を探している。

バイパス側も同様に、警戒しているのだろう。


その豊田さんの母親から、先程、連絡があった。


つまり、先週、西峰の仲間の誰かが、道の駅の伝言板に「岩屋公園で待つ」「林木」と書込んだのだ。


それを見た森本さんが、岩屋公園へ行った。

指定された時間は、午後八時だった。

森本さんが、伝言板の書込みを見たのは、何時だろう。


道の駅の防犯カメラを確認すれば、判明する。

しかし、そんな悠長な事を云っている場合ではない。


当日、森本さんは、午後三時頃、鈴音寮から外出して自宅へ帰っている。

自宅へ着いたのが、午後四時頃。

自宅から一歩も出ていない。


午後七時前に自宅を出ている。

古条駅、午後七時五分発、石鎚山駅行の電車に、乗車している。

自宅から出た時に、道の駅へ立ち寄る時間は、無かった筈だ。


だから、午後四時前に、道の駅へ立ち寄ったのだろう。

つまり、その時には、道の駅の伝言板に、メッセージが書込まれていた。


「ごめんなさい。そんな事を考えた事もないから、見ていないし、気付かなかったわ」

横山さんが、謝りながら云った。

しかし、それは、当たり前だ。

いちいち、伝言板の書込みを気にしている暇は、無いだろう。


横山さんは、道の駅の店舗で、アルバイトをしている。

その日も道の駅で、アルバイト勤務していた。


「私も、その前日、水車公園へ行ったけど、道の駅の伝言板は見ていない」

豊田さんが、云った。

これも当たり前だ。

知人なら、携帯で連絡するから、道の駅の伝言板が、連絡手段にはならない。


豊田さんは、インフルエンザで、帰省して療養中だった。

そして、体力回復のため、水車公園まで散歩していた。

そこで、小森君と偶然、会ったが、小森君も見ていないようだった。


「でも、月曜日の、午後五時半には、伝言板に書込みは無かった」

横山さんが云った。


火曜日は、道の駅の店休日だ。

月曜日の、道の駅の閉店時に、伝言板の書込みを全て、消す事になっている。

横山さんは、帰宅する前に、伝言板の書込みを全て消し去った。


しかし、その中に、「岩屋公園で待つ」「林木」の書込みは無かったという事だ。

定規で書いたような、直線だけの文字。

もし、あの特徴的な書込みを見ていれば、記憶に残っている筈だ。


「つまり、誰か。伝言板に書込んだ、誰かが、消したんやなあ」

秋山は、思った、

今日、書込みがあった。


豊田さんが、書込みを見て、岩屋公園へ行った。

そして襲われた。


今、道の駅の伝言板に、書込みは、残っているのだろうか。

今日は、月曜日。


横山さんが、伝言板の書込みを消した後に、書込まれている。

来週の月曜日まで、書込まれたままだろうか。


それとも、誰かが、消しに行くのだろうか。

「水車公園へ行ってみよっか」

秋山は云った。


行くのは、水車公園に隣接する、道の駅の伝言板へ。

なのだが。

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