四章

薫子の部屋から、洋装店の白いペーパーバッグが見付かった。

茜が洋装店から、受け取ったものらしい。


薫子が、茜を殺したのだろうか?

薫子が、茜を殺して、バッグを持ち去ったのだろうか。

鈴音寮の森本さんの部屋に、警察の家宅捜索が入った。


午後から休講になった。

それでは、誰が、薫子を殺した犯人なのか。


薫子の自宅へ行く事にした。

行ってみると、警察車両が停まっていた。


家宅捜索の最中だった。

とても両親を尋ねる勇気が無かった。


「美沙」

聞きなれた声。


振り返ると由紀だ。

由紀も心配になって来ていたのだろう。


大変な事になった。


「さっき、ジュンが来てた」

由紀が云った。

ジュンとは、北村純菜の事だ。


中学校以来の親友の一人だ。

純菜は、一緒に鈴音寮に入寮している。


純奈は、暫く、薫子の自宅前で、由紀と一緒に居たそうだ。

やはり顔色が悪かったらしい。

午後六時過ぎに、寮に戻ると云って駅へ向かった。


由紀が心配な事があると云う。


「携帯に電話しても電源が切れたままなの」

由紀が心配になって、電話したが繋がらなかった。

メッセージを送信しているが、既読にならない。


美沙も、純菜の携帯に電話を入れてみたが、電源が入っていない。

純菜にまで、何かあっては大変だ。


「分かった。ジュンの事、ちゃんと見とくからね」

美沙は、由紀を安心させるように云って、駅へ向かった。


午後七時過ぎの駅前通り。

辺りは、もう薄暗い。

交差点で、何気なく車の流れを見ていた。


海岸道路から駅前通りへ車が走って来た。

あっ。

西峰だ。

運転しているのは、間違いなく西峰だった。


駅前通りから、ずっと南へ走って行った。

どこへ行くのか。


「海岸道路からだ」

美沙は呟いた。


海岸道路を真っ直ぐ、西へ行くと、石鎚山市へ続いている。

途中に、水車公園がある。


西峰が、純奈を呼び出して、何か言い掛かりを付けているのではないか。


まさか。

とは思ったが、純菜になにかあったら大変だ。

水車公園へ急いだ。


物凄いエンジン音。

歩道を歩いていても怖くなる程の、猛スピードで車が走り抜ける。


塩浜海水浴場の降口に着いた。

道路を渡ると、水車公園。


一通り、周辺を探してみた。

純菜は居なかった。


道の駅に回った。

誰も居ないようだ。


ふと、伝言板を見た。

「えっ」

美沙は驚いた。


伝言板に書込みがある。

午後六時を過ぎているから、伝言板の書込みは、すべて消し去られている。

筈だ。


一行だけ、伝言板に書込まれている。

それも。

「午後八時半、岩屋公園で待つ。林木」

「岩屋公園で待つ」

気になる。


「林木。リンボク?」

何の事だろう。


「林木」は、何の事か分からないが、「岩屋公園で待つ」は、気になる。

一年前は、茜。

先週は薫子。


純菜もこれを見たのか。

純菜まで、何かあっては、大変だ。


純菜がこれを見て、岩屋公園へ向かったとすると、不味いのかもしれない。

もし、純菜が、伝言板に書込んだとすると。

これも不味い事になるかもしれない。


ただ、中学の三年間、一緒に居て、何も純菜の事が、分かっていなかったのだろう。

いつも強気の純菜が、茜の殺人事件を境に、無口になった。

純菜は何か知っているのかもしれない。


すぐに、古条駅へ戻った。

電車で、石鎚山市へ戻り、岩屋方面のバスに乗った。


古条駅の駅前通りを過ぎて、まだ南へ走ると石鎚山市の岩屋方面だ。

西峰も伝言板を見たのかもしれない。

もしかすると、西峰が、伝言板に書込んだのかもしれない。


茜は、もしかして、伝言板の書込みを見て、岩屋公園へ行ったのか。

元々、小森君は、茜に、水車公園で待っていると伝えていた。


どうして、水車公園から岩屋公園に変更になったのか。

この伝言板に誘導されたのか。


薫子もそうなのか。


岩屋神社前から参道を通って、岩屋公園へ回った。

もうすぐ、午後八時三十分。

伝言板に指定していた時間だ。

暫く公園の入口辺りで待っていた。


池の方から声が聞こえた。

逃げろ!


振り返ると西峰だ。

ナイフを持っている。


西峰が美沙を見た。

美沙を目指して走り始めた。


池の方から、女性が走って来る。

美沙は、ベンチに向かって走った。


すぐ、男の人が女性を追い越した。

危ないと、危険を知らせて、声を掛けてくれたのは、この男の人だ。


男の人が、美沙の腕を掴んで引っ張る。

すぐ後ろに、西峰が居る。

美沙と男の人は、地面に倒れた。


刹那、女性が、西峰の脇腹に体当たりをした。

西峰が地面に倒れる。


女性が、西峰の握ったナイフを踏みつけて、蹴り払った。

倒れ込んだ西峰に馬乗りになった。


「おとなしくしなさい」

言葉は優しいが、ものすごい迫力があった。


「どうかしましたか」

大声がする。


見ると警察官だ。

助かった。

すぐに、何台もパトカーが到着した。


「豊田美沙です」

美沙は警察官に名前を云って、石鎚山高専の学生で、鈴音寮の寮生だと伝えた。


すぐに、行方不明者届の学生だと分かった。

鈴音寮と美沙の自宅へ連絡したようだ。


若い女性は、石鎚山高専の四年生、横山英江さんだそうだ。

水車公園の道の駅で、伝言板に「岩屋公園」の書込みを見付けた。

先週、薫子が殺害されたばかりで、気になって確認に来たそうだ。


男の人が、状況を説明している。

名前は、「秋山弘」娘が、石鎚山高専の一年生で、鈴音寮に入っている。


昨日、研修所で、集会に参加していた一年生のお父さんだ。

今日の昼、稲田先輩と一緒に学寮食堂で、昼食を食べた。

名前は、確か、「千景」さん。だった。


西峰は以前、茜が殺害された時、警察が注目していた。

何故、美沙が狙われたのかは不明だ。


これから警察署で、西峰を取調べするということだ。

美沙も、秋山さんと横山先輩も、石鎚山東警察署へ同行して、取調べられた。


一時間程度で解放された。

石鎚山東警察署に、お母さんが迎えに来てくれた。


「ごめんなさい」

美沙はお母さんに謝った。


「お母さん」

更に、無理なお願いをした。


もう迷ってはいられない。

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