8.始動

午後九時頃に始まった執行部の緊急集会で、千景が挙手した。


「あなたは、執行部会員では、ないですね」

白川先生が指摘した。

正本先輩も稲田先輩も、その時まで、気付かなかった。


「これは執行部会の臨時集会よ」

正本先輩が、千景を非難した。


「まあ、聞いてみましょう」

白川先生が、発言を許可した。


千景は、「ありがとうございます」と礼を云って「それでは、私も参加させてください」捜索参加を希望した。



白川先生一人で、鈴音寮待機は、無理がある。

一人で連絡を待つとなると、白川先生は、一睡も出来ない。


千景は、留守番役を買って出たのだ。

一年生だから、捜索隊には加われない。

まだ、十五歳だ。


だが、千景も何か役に立ちたい。

そう申し出た。


そして、最後に「自主、協調、創造」の学校の理念を熱弁した。

ちょっと、見当違いだったかもしれない。

しかし、意外とあっさり許可された。


白川先生が、千景、律子と小森君に、午前一時までの固定電話の電話番をお願いした。

千景と律子で、三班と四班からの携帯連絡を担当する事になった。

小森君が、鈴音寮の固定電話の電話番だ。


白川先生が、捜索計画を説明した。

一班は、古条市で、よく通ったという、ファミレスへ向かった。

周辺のコンビニも探して、古条駅まで行っている。


二班は、入谷君が、豊田さんの自宅へ、須崎君が北村さんの自宅へ向かっている。

それぞれの両親に、入谷君と須崎君が付き添うことになっている。

本来は、自宅以外へ帰省することは許可出来ない。

寮務委員の一存で、希望を聞き入れたそうだ。


三班と四班が、時間差で岩屋公園へ向かっている。

ここが、一番、二人の居る可能性は高い。


四班は、岩屋神社と岩屋公園の周辺を探す事になっている。

そこから、古条市へ向うコンビニを回るそうだ。


午後九時三十分。

五班が出発した。


五班が、石鎚山駅から高専までを捜索する。

五班は、石鎚山駅へ向かった。


豊田さんも北村さんも、帰省する場合は、高専前バス停から駅へ向う。

電車で古条市まで行き、そこから歩いて帰る。


だから、五班は、駅周辺のコンビニと、二十四時間営業のスーパーまで探す事になっている。

店内だけでなく駐車場も対象だ。


「リッツ。ごめんのお」

千景は、律子を巻込んだ事を謝った。


「ほんと。吃驚したわ」

律子がおどけて云った。怒っていない。


「でも、何で?」

律子が尋ねる。


「分からない。でも」

千景は話した。

石木中学校で起こった事件の事を話した。


そして、牧原さん殺人事件、牧原さん入寮事件。

ナリスマシ事件と森本さんの事件は繋がっている。


そう確信した時。

ビシュッ。


鳩尾辺りで、音がした。

初めてだ。


緊迫感に高鳴る心臓の鼓動ではない。

勿論、空腹を知らせる合図でもない。


スイッチが入った。


「よう分からんな」

律子が首をひねった。


電話の音。

小森君が寮の固定電話に出た。


「はい。鈴音寮です。そうです。ええ!」

小森君が驚いている。


「どうした」

白川先生が、支援事務室に入って来た。

心配そうに尋ねた。



「良かった。ほんとに良かった」

小森君が、何か喜んでいるのだが、内容が伝わらない。

二人が見付かったのだろうと思った。


白川先生が、小森君から受話器を取り上げた。

「もしもし。お電話、替りました」

はい。はい。と白川先生が頷いている。


「お疲れさまです。秋山です」

千景の携帯に正本先輩から着信だ。


「はい。小倉です」

律子の携帯にも着信だ。


「ありがとうございました」

白川先生は、安堵した様子で電話を切った。


電話の内容が分かった。


警察が、学校の要請を受けて、パトロールしていた。

パトロール中の警察官が、トラブルに遭遇した。

中年男性一名と若い男一名、それから女子学生が一名と若い女性一名だった。

現場は、岩屋公園だ。


「おとなしくしなさい」

若い女性が、若い男に馬乗りになって何度も叫んでいた。

近くにナイフが落ちている。


池のベンチの脇で、中年男性が、女子学生に寄り添っていた。

「大丈夫か。しっかりしろ」

励ますように、声を掛けている。


その女子学生が、高専の制服を着ていた。

鈴音寮の寮生だと云う。

そして、鈴音寮に一報した。

女子学生は、男に襲われた時、倒れて、肘に擦傷が出来たくらいだそうだ。


警察官は、応援を呼んで、四人を警察署へ連行した。

状況が分からないので、今、警察署で事情を聞き取りしている。


行方不明の寮生、一名は警察に保護された。

まだ、残りの三つの班は、戻っていない。


まだ、行方不明寮生、一名が発見されていない。


午後十一時。

二班と三班が、寮に戻ってきた。

二班は、豊田さんと北村さんの自宅へ、入谷君と須崎君を送り届けた。

二人は、両親に付き添っている。


三班は、岩屋公園へ捜索に向かった。

到着すると、警察車両が何台か停まっている。


もしやと思って、警察官に確認してみた。

男性二人と女性二人を警察署へ連行した事が分かった。

それ以上の事が分からないので、一旦、引き返してきた。


寮務主事、寮務委員、白川先生と正本先輩と、寮に待機している執行部会員が、一階のコミュニケーションスペースへ集合した。

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