第10話弥生③

 あれから数日後。

 その間ワニちゃんからずっと連絡が来てたが全部無視した。


 もう姫てゃ!なんかどうでもいい! そんなことよりも、もっと重要なことがあるんだ!

 それはもうすぐ始まるちょこスタのイベント!


(今の私はイベントを全力で走るのみ!!)


 イベント上位者の報酬は私の推し、姫美也ぼっちゃんの星5カード×5枚だ。しかも絵柄が違う。このイラストのなんと可愛らしいこと……これは絶対に上位にならねば!!


 そのときTwitterの通知音が鳴った。姫てゃ!という最悪の文字が見えた気がする。


−−姫てゃ!がフォローしました−−


「またお前かよ……てめぇの相手する暇なんか無いわ失せろ! あー、いやでも……」


 もう我慢の限界だった。姫てゃ!に嫌われてTwitter潜入作戦が失敗してもいい。これだけは姫てゃ!に言おうと決めていた。


弥生『なんで毎回ブロックするんですか? カード交換終わった後に。正直気分悪いです』


姫てゃ!『え、ブロック? バグかなぁ、姫、知らなかった〜びっくりしちゃうね』


弥生『そうですか』


「このバカ女……すっとぼけてんじゃねぇぞ」


 今までより雑な対応をした。どうせブロックされただろう。そう考えながら自分のフォロー欄をのぞく。

 だが、姫てゃ!は私のことをフォローしたままだった。よっぽどカードが欲しいのだろう。それも、金をかけずに自分は一切苦労せずに。

 姫てゃ!は私との取り引きで過去に無いほどのおいしい思いをしたから。


(またこの乞食はまた甘い蜜を吸いに私に執着するんだろうな……キモ!)


 イベント限定ガチャが始まった。気を取り直そう。この日の為にダイヤを溜め込み、課金までしてきたんだから。

 高揚感はマックスだ。胸が高鳴る。久々にガチャで緊張する。


「10連ガチャ引くぞ……! ぼっちゃん、待ってろよ……! 今迎えに行くから……!!」


 いつものガチャ画面と違う。キラキラしたエフェクトが舞った。


(……!? これ、星5確定演出では!?!?)


 なんと、星5カードが当たった。当たってしまった。しかもイベント限定カードということで、このカードを使ってイベントに参加するとボーナスポイントが着く。


 (これはいい滑り出しだ……こんな幸運、あっていいんでしょうか……)


 こうなればデッキを組み直す必要もある。ああでもない、こうでもない、とカードを入れ替えていたときだった。

 ちょこスタ内のメッセージが表示された。


姫てゃ![ツイッターフォローしてます。トレードできます]


 思わず笑ってしまった。


「なぁんでこの子は上から目線なのかなぁ? お前にだけ都合のいいトレードにこの私が応じるとでも? 馬鹿にするのも大概にしなさいねぇ〜、無視無視。さ、ちょこスタだ!」


 あっという間に数時間が経っていた。だいぶのめりこんでしまったようだ。部屋に熱気がこもっている。


(とりあえず今日はもう寝よう。他のユーザーにもだいぶ差をつけた。しばらくは上位保持できるはずだ。……にしても、ちょこスタ、楽しい〜〜〜!!!!)


 Twitterを開き、今日のガチャの結果と、イベントランキングをスクショ付きでツイートする。


弥生『皆さん、イベント初日お疲れ様です! 私は今までにない順調な滑り出しです……! 今までぼっちゃんを推しまくってきた私です! ついにぼっちゃんメインイベントですね! ガチャ引けば星5、イベントはどうにか上位! 坊っちゃん、必ずお迎えに行くから待ってろよ〜!!』


 すぐにいいねがいくつかついた。昔からよく絡むフォロワーさんからは応援のリプライが来た。

 姫てゃ!は『さすがぁ! いいな〜』とDMしてくる。このカード、クレクレ〜ってか?

 こいつは無視だ。バーカ。


姫てゃ!『DMにて失礼しまぁ〜す! ツイート見ました! イベント限定カード当たったってツイート見ましたよ〜そーゆーのは隠さない隠さなぁい♪ また交換してくださぁい〜限定カードくーださーい!』


 キモDMがきました。はいシカト。

 と、同時にdiscordでメッセージが来る。


ワニ『姫てゃ!とトレードを、しろ』


 これもシカト。お前の作戦は失敗だし、私が失うものが多すぎる。

 乞食の要求にいちいち応じるからこういうバカは図に乗るんだよ。


 ワニちゃんからまたメッセージが来る。


ワニ『いいからやれ』


 ……うるさいなぁ。


弥生『そこまで言うならいいよ、でもカード交換はしない。する必要がない』


ワニ『そんなんじゃまたブロックされるだろ』


弥生『うるさいです』


 姫てゃ!からまたメッセージ。


姫てゃ!『ブロックのバグ、なおってるかなぁ?』


 無言でフォロー申請を送る。

 すぐにTwitterの通知が鳴った。

 

−−姫てゃ!がフォロー申請を承認しました−−


姫てゃ!『え、交換してくれるんですかぁ〜!? 姫、うれしー♪』


 無視した。返信はしない。

 そのまま私は姫てゃ!のことなんて考えずにイベントを完走した。

 その間ずっとDMに乞食メッセージが来ていたが、なんと姫てゃ!はイベントが終わるまで私のフォローを外すことはなかった。


 というか”イベントが終わったあとも”


——————————————————-


姫てゃ!『え〜またいいの当たったんですかぁ? くだしゃ〜い!』


 イベント終了後も定期的に私にDMしてくる姫てゃ!のメッセージを眺めながら、私はワニちゃんに連絡する。


弥生『結局、姫てゃ!の欲しがるカードを全部やる必要なんてなかったんだよ』


ワニ『……なんでなんだろうなぁ』


 心底不思議そうにメッセージを送ってくるワニちゃん。

 私は今回姫てゃ!と関わって得た教訓をワニちゃんに話した。


弥生『一回希望を与えられた乞食っていうのはとにかく執着してくるものなんだよ、知らないけど』


 数秒後。ワニちゃんからメッセージがきた。


ワニ『つまり乞食に媚びちゃダメってことね』


弥生『そのとおり。ところで、キミの作戦通りに動き、無駄にレアカードを渡した私に何か言うことは?^^』


ワニ『……ごめん;;』


−−−−−−−−−−−−−−

すずかside


 ピロン♪


 カップラーメンをすすっていたとき。スマホの通知音が鳴った。


ワニ『姫てゃ!のtwitterに潜り込めた。とりあえず過去一年分のツイートを見ている。めぼしいものがあれば、こちらのグループにて共有する』


 ワニちゃんらしい端的なメッセージだ。


(そういえば、弥生くんは?二人で協力するって聞いたけど……)


すずか『さっすがワニちゃん! よく姫てゃ!の鍵垢に入り込めたね〜! 弥生くんもお疲れ様!』

弥生『はい』

ワニ『まぁ、その、なんだ。ありがとうとだけ言わせてくれ』


 ……? なんか、この2人ギクシャクしてる? まぁいっか!

 その後すぐにディスコードグループに写真が添付された。


ワニ『こんなのとか特定に繋がるんじゃない?』


 ワニちゃんが添付したのは、 姫てゃ!のTwitterのスクショ。

 残念ながら顔はスタンプで隠してあってわからなかったが、制服姿の姫てゃ!が友達と二人で写っている。今風の、学生が撮りそうな写真だ。

 真っ先にぼんちゃんが反応した。


ぼんれすハム『あ、これなら特定できそうだね! でも、少し時間と人手欲しいかも』


「お! さっすがぁ!」


 ……うーん、じゃあ、こうしよう。


「じゃあぼんちゃん、きむちゃん、やはぎたんの3人は特定班でよろしく。はなみちゃんとワニちゃんと弥生くんは、めぼしい情報があったらdiscordグループに載せといてね!」


ワニ『了解』

弥生『承った』


ぼんれすハム『はーい!』

きむら『あいあいさー』

やはぎたん『うん』


はなみ『分かった。色々聞き出してくるね』


「じゃあぼんちゃんときむちゃん、やはぎたん頑張ってね!」


 そういって一度スマホの画面を切る私、黒い画面に反射していたのはニタニタと口角を釣り上げた自分の姿だった。


「うふふふふ。大丈夫。全部うまくいく。そうだよね、そうだよね、みんな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る