第6話

 2月22日 深夜2時50分


「ちょっと皆聞いてよー!」


 すずかは6人の友人をdiscordに集めて会議をしていた。喋っているのは彼女だけ、他6名はコメントでの参加だ。


「っていうことがあってね、すごく腹が立ってる。どうにか垢消しさせたいんだよね。あー、思い出すだけでイライラする」


 と、思いの丈をぶつけるすずか。

 数秒後。コメントが動いた。


やはぎたん『肉まんの枠行かなきゃいい話』


 正論。だが、こんな答えを彼女は求めてない。

 すずかはヒステリックに叫ぶ。


「そうじゃない! 居心地の良かったあのときの枠の雰囲気を取り戻したいの! だからあのブスを潰したい!」


ぼんれすハム『もう自分で配信すればいいんじゃない? 今までそうだったじゃん』


「だから! そうじゃないの! わたしは、肉まんちゃんの枠で! みんなで! ゲームがしたい! 自分の配信と肉まんちゃんの配信はまた別の話じゃん! ぼんちゃんまでわたしのことイライラさせないでよ!」


 さらにヒートアップするすずか。

 今彼女は正論を望んでいない。

 ただ自分の発言に同意してほしいだけなのだ。

 その気持ちを汲んでなのか、少しづつコメントも変わっていく。


ワニ『なんでそんなに肉まんに固執するんだ? 好きなのか?』


「いや、そうじゃなくて……居心地のいい場所を奪われたのがムカつくってだけ」


弥生『それは草。というか、私が聞いて思ったのは、姫てゃ!は確かにすずかに少なからず悪意があった。肉まんの枠には私もたまに行くけど、あからさまにすずかへの態度が悪かった』


「やっぱ、弥生くんもそう思う? 最初はわたしも無視しようとしたよ。でも、なんか、よくないかなって思って。無視するのは簡単だけど、それやっちゃうと居心地いい枠ではなくなるから」


きむら『うんうん』

ぼんれすハム『ちゃんとコメントしてたもんね』

やはぎたん『続けて』


「だから、歩み寄ろうとした。色んな人の前で無視されてさ、毎日晒し者みたいな惨めな気持ちだった。わたしは、肉まんちゃんの枠に来てるのに。聞こえてくるのはクソ女のブスい声でさ」


弥生『ワロタ。笑えないよね、すまない』

ワニ『おいおい、茶化してやるなよ』


「弥生くんありがとう。ぼんちゃんもありがとう。歩み寄ろうとしたらあのクソ女、わたしのことけなしてきてさ。そこで、わたしは決めたの。この女、絶対潰すって。わたしはわたしの平穏を取り戻したい」


 数分の沈黙。

 その後コメントが動いた。


やはぎたん『なるほどね。で、垢消しだけでいいの?』


「……? どういうこと?」


やはぎたん『アカウント作り直して、ほとぼり冷めたらまた肉まんのとこ来るんじゃないの。その女。知らないけど』

きむら『転生ってやつね』

ぼんれすハム『わたし何回転生したか……』


「垢消しに追い込むだけじゃダメなの? あのクソ女を本格的に潰すにはどうすればいいの? 垢消し以外思いつかないんだけど」


やはぎたん『特定』


「あー、よく聞くね。特定しました、って。でも、それ何になるの? バカには脅し文句なんか効かないよ?」


ワニ『センスがないね。住所特定して、例えば家の写真を撮る。その写真をポストに入れる。これ結構怖いでしょ』

弥生『えっぐ』


「なるほどね、ネットと現実世界と、両面から追い詰めるんだ」


 ニヤリと彼女の口元が歪む。

 そして彼女は宣言した。


「最終的に特定して、脅して、ネット辞めさせる。絶対に」


 その声は暗く、悪意に満ちていた。

 彼女は興奮した声で続ける。


「みんな、協力してくれる?」


ぼんれすハム『うん、いいよ。すずかちゃんが傷付いてるの気付かなくてごめんね』

弥生『承知した。何をすればいい?』

ワニ『とりあえずTwitter探ってみるか?』

きむら『わたしspoonで姫てゃ!周りの奴を調べてみるよ』

やはぎたん『じゃあ私は集まった情報を分析するや』


「さすがみんな。私の友達だね」


 一呼吸おいた後、すずかはまだコメントを打っていない最後の一人に向かってこう言った。その声は、”彼女なら言わずもがな伝わるだろう”という確信に満ちていた。


「あのね、スパイとして姫てゃ!と仲良くなってほしいんだけど」


はなみ『任せて。絶対そいつ潰すから』


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