第5話
一週間後。
「あの女まだいるじゃん!!」
すずかは唾を撒き散らしながら叫んでいた。
姫てゃ!という女が現れて以来、肉まんの枠はただただストレスがたまる枠になってしまった。
なぜならあのブス女は肉まんの枠にすぐコラボで上がるからだ。
だが、すずかは一週間耐えた。
この手の姫プ女は一週間で枠から消える、もしくは病んでアカウントを消す。そう信じていた。
しかし、そうはならなかった。
—肉まんさんが配信を開始したよ—
配信が始まった途端枠に入るすずか。
そしてすぐに顔を歪ませた。
肉まん『やあ姫。すずかやあやあ』
「う〜わ。またあの女いるのかよ」
閲覧メンバーを見て姫てゃ!がいることを確認し、悪態が漏れるすずか。
すずか『やあ肉まんちゃん! 姫ちゃんもやあ!』
しかし、一応挨拶だけは書き込んだ。
なぜならこの女なら話を切り取って被害者づらしかねないから。
「すずかちゃん挨拶もしてくれないのぅ姫かなちぃ……エンエン;;」なんて被害者ぶって周りに言いふらされた日には怒りでどうにかなってしまいそうだからだ。
そういう思いから一応は挨拶をするすずか。
しかし……
姫てゃ!『肉まんさんこんばんはだよぉ〜、まみゃさんは今日はまだなんだねぇ☆』
すずかは姫てゃ!に無視されていた。
「いや挨拶からガン無視は飛ばしすぎ、性格悪いなぁ」
普通ならこんな女っ! と無視する態度。
しかし、すずかは姫てゃ!のことを無視するか、歩み寄るか、迷っていた。姫てゃ!と仲良くしたいわけではない、肉まんの枠を居心地よくするための自分の中の落とし所をどこにするかだ。
肉まん『姫のコラボ申請許可してるから』
「あ……あ……音大丈夫そうかな? よーっし、今日はぁ何のゲームやるの? 姫はね姫はね、FPSやりたいのぉ〜、肉まんさんたちとやりたくてぇ、練習してきたゲームがあるんだぁ♪」
肉まん『じゃあそれで』
FPSになると、すずかは今日もコメントに入れない。
イライラは膨らむだけ。
(でも、少し歩み寄ってみようかな)
と、思ったのはもうこの状況が変わらないと思ったからだった。
多分このブスはこれからも肉まんの枠にきつづける。ならば自分から仲良くなるしかないと彼女はそこに落とし所を作ったのだ。
「あ、もうルーム開いてある〜さっすが肉まんさん♪ 仕事が早いんじゃぁ〜♪ えっとぉ、バトルスタート、でいいのかゃ……」
彼女は慎重にコメントを読みながら入るタイミングをうかがう。
肉まん『いいよ』
「わー、今回のマップ広いねぇ、まずは合流しなきゃだね! んーっと……、ゎ、撃たれた!? もう!? やだぁ、え、え、やだーーー! 助けて!!」
(そのまま死ねばいいのに)
肉まん『これダメだ。2人とも死んでここ抜ける』
「えーん、悔しいよぉ……。 またバトルスタートで……っとぉ。あ、肉まんさん見ーつけたっ! 合流しちゃうね〜よーいしょっと、ナイス着地ぃ! 姫だよーー!」
(なぁにが姫だよーー! だよ。アニメキャラになったつもりか? ブス)
ゲームが進む。少しずつ姫てゃ!の声のトーンが高くなる。
(きっしょい声。声帯ババアが無理しすぎなんよな。まぁこの辺でコメントしとくか)
すずかは意を決し、コメントを打った。
すずか『今戦況どんな感じ?』
肉まん『押せば勝てる』
姫てゃ!からの返事はなかった。だが、ゲームに熱中して配信画面を見ていない可能性もある。ラジオ配信アプリ、spoonなのだから、ゲームしながらでは見づらいだろう。
と、彼女は自分を納得させる。
「あ、弾丸ゲーットぉ♪ どーせ姫の弾丸余ってたし、肉まんさんにあげちゃうんだからぁ!」
(拾い物を他人にあげるなよ。どんな神経してるんだ)
肉まん『北の倉庫にいる、来て』
「はいはーい! かしこまりぃ〜! 倉庫で弾丸渡す感じね〜! なんかぁ回復アイテムとか貰えると助かるかもぉ」
(回復アイテムとか貰えると助かるぅ? 乞食か? 路上でやれ)
肉まん『回復ポーション40個ある』
すずか『40!? よく集めたね、いつの間に』
肉まん『まあね。肉まんだから』
肉まん『ちなみに武器めっちゃ拾った』
勇気を出してコメントを打ったがまた姫てゃ!は無視。
代わりに声のトーンがまた少し高くなった。
「え、てかてか、ついでに要らない武器とかってあったりする? さっき壊れちゃってぇ、まだ代わりの武器見つけられてなくて〜……」
(ハァ〜これはやっぱり……)
すずかは確信した。完全に姫てゃ!はすずかのことを無視している。
コメントは読んでいる様子だが、すずかのコメントは飛ばして、枠主である肉まんのコメントだけを拾っているからだ。
(このブスは……いや、もうちょっと確信がほしい。あと一人くらいいつもの常連来ればゲームに集中したくて私のコメントを飛ばしてるのかどうか分かるんだけど)
最後の慈悲を考えたそんなとき。
—まみゃさんが入室したよ—
肉まん『やあまみゃ』
まみゃ『や肉』
この枠の常連リスナーであり、最近すずかと顔見知りの仲になったまみゃが枠に入室した。
まみゃ『あー、このゲーム苦手。できない。観戦組やります』
肉まん『あとで一緒にロケリーやるべ。アプデしといて』
「お! なら私もやりたい!」
ロケリーなら肉まんとやるために練習中であった。腕試しといこうか、と彼女は自分も参加したいことをコメントに書く。
すずか『あ、わたしもやりたい。スタンバイしとくね』
しかし、ここで姫てゃ!が割り込んできた。
「あー、まみゃさんだ〜! こんばんはだょ〜! 姫ロケリーできないから、他のがいい! ね、まみゃさんにク〜イズ! 姫は何かが変わりました〜それは何でしょう!」
姫てゃ!のアイコンが変わっていた。今まで顔の自撮りだったのが、スカートを履いた太ももになっていた。ご丁寧にガーターベルトまで付けている。
まみゃ『アイコン変えたんだ。いいね』
すずか『かわい!』
正解は太ももですってか!? キモすぎるクイズだなぁと考えつつも、コメントでどうにか歩み寄ろうとするすずか。
(コイツ、さっきガチで無視しに来たな。まぁでもこれだと反応せざるを得ないでしょ。お前に向けてコメントしてやってるんだから)
「えへへ、まみゃさんありがとうだよぉ〜」
すずか『太ももほそっ! ご飯食べてる?』
肉まん『こんな時間にゲームしてるやつがまともな飯食うわけない』
「も〜肉まんさん……! 現実その通りなんですけどぉ〜、ごもっともなんですけどぉ〜!!」
すずかのコメントなど存在しないかのようにキャッキャと笑う姫てゃ!の声が彼女のスマホから響いていた。
(もうだめだ。私こんな枠もういられない……)
もう二度と肉まんの枠に来てやるものかとアプリを閉じようとしたその時。
すずかは姫てゃ!の言葉でキレることになる。
「え、てか、すずかさん? だっけ? ちょいちょい空気読めてないから気を付けた方がいいよー? 枠の雰囲気って大事って、姫はよく思うのね〜」
「は?」
「なぁんか、こーゆーのも雰囲気悪くなるしー。って思って結局言わないようにしてたけどぉ、結構浮いてるよ? すずかさん、だっけ? 姫名前覚えるの苦手だからぁ、間違ってたらごめんね〜!」
「コメントするなら空気読んでねぇ〜姫てゃ!とのお・や・く・そ・くだよぅ!」
「この女、絶対潰す。決めた」
彼女は思わず声に出していた。
「このクソアマ、覚えとけよ。垢消しじゃ済まさないからな」
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