第4話
2週間後。
肉まんの配信に初めて行って以来、すずかは肉まんの配信に入り浸るようになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
―肉まんが配信を始めたよ―
この通知がどれほど嬉しいものか。私はニコニコしながら配信アプリ、spoonを開く。
今日も肉まんちゃんの枠にはいつものメンバーだ。落ち着く。
「肉まんちゃん、今日は何のゲームするのかな、楽しみ〜♪」
いつものメンバーでいつもの話。心地よい身内感。私は居心地の良さを感じながらコメントをする。
その時。見知らぬリスナーが枠に入ってきた。
—姫てゃ!が入室したよ—
「うーわ、twitterでよく見る地雷女だ。住み分けしろっつーの。何このアイコン。男ウケ?」
姫カットツインテールで顔の半分だけ写したアイコン。
そのアイコンに私は若干の嫌悪感を感じながらも”一応古参”として挨拶はしっかりとする。
すずか『姫てゃさんやあやあ』
肉まん『やあ』
まみゃ『や姫』
姫てゃ!『初めまして自己紹介しまぁす! ”LJK” 趣味は美容でぅ!』
「はぁ!?」
瞬間頭が沸騰しそうになった。“LJK”つまり、”Last女子高生”を強調して喋るやつにまともな奴はいない。
承認欲求の化け物だ。この枠に来ないでほしい。
つい出ていけと書き込もうとした瞬間肉まんちゃんがコメントを返した。
肉まん『そう』
ほっと胸を撫で下ろしている自分がいた。
そうだ。これ! これこそが肉まんちゃんのいいところで私がこの枠にいる理由なのだ。肉まんちゃんのだれに対して塩対応なこの感じ。
これがとても心地いいのだ。ほら、姫てゃ! あんたの求めてる対応じゃないでしょ? 早く出ていきな? この枠で姫プできると思うなよ。
ニヤニヤとコメント欄を眺める私。現実でちやほやされないからネットで姫プされにきたのにネットですら姫になれないブスを見ているのはとても愉快だ。
案の定肉まんちゃんの塩対応に心が折れたのか、姫てゃ!は枠にはいるもののコメントできずにいる。ふふっ愉快愉快。
肉まん『ヴァロラントやる?』
まみゃ『いいね、3分待ってくれると助かる』
そうこうしているうちに今日のゲーム内容が決まったらしい。
今日はヴァロラントっていうFPSゲームだ。私は下手だから参加できない。
なのでFPSゲームの日は画面を開きっぱなしにしながらサブ携帯でTwitterを見ることにしている。
「へぇ〜今日からなんだ」
Twitterを開くとspoon公式からコラボ配信機能が始まったとアナウンスされていた。
でもまあ、それは肉まんちゃんの枠では関係ないか。だって肉まんちゃんずっとミュートしてるんだもん。
もし、コラボ配信したら肉まんちゃんの枠なのにずっとリスナーが喋ってることになっちゃう。
その時、肉まんちゃんの枠にコメントが流れたのが見えた。
姫てゃ!『わたしもお邪魔していいですか?てか、コラボ申請しても大丈夫ですか?』
「は!? お前何つった!? コラボ申請!? ってかお前FPSしに来たんじゃないの!?」
思わず叫んでしまう私。なにやってんだこの女。空気読めよ! この枠は枠主がミュートの枠なんだぞ!
それなのにお前がコラボ申請したら肉まんちゃんの枠なのにお前が喋ってるキショい枠になるだろ!
肉まんちゃんわかってるよね!? コラボ承認しないよね!? この居心地のいい枠を守ってくれるよね!?
頼むよ!?!?!?!?
肉まん『いいよ。右下申請ボタン』
「え!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
状況を飲み込めない私を置き去りに姫てゃ!はコラボに上がる。
「あ、あ……聞こえてるかな? 姫てゃ!です! LJKやってま〜す! よろしくでぅ!」
「おえええええええええ!!!!!! きしょおおおおおおお!!!!!!」
肉まんちゃんの枠なのに女の声が聞こえてきた! 女の声が聞こえてきた!
でもここで私がこの枠を抜けたら姫てゃ!に負けたことになる! 絶対に抜けられない。
肉まん『じゃあスタートで』
どうやらゲームが始まったようだった。ゲームに参加していない私はコメントできない。
イライラしながらスマホを握りしめる。
「え、しゅごぉ〜い♡ 肉まんさん、今のすごい助かっちゃった!」
肉まん『アイテム左後方、よろしく』
まみゃ『敵見つけた。北ね』
「あ、あ、あーーー! ごめん今の姫のせい……えーー、もしかして姫死んじゃった……? ふぇ、ごめん……」
肉まん『いいよ、回収行くから。すぐ蘇生できる』
「こんのっ! クソ女っ!」
私はイライラしていた。コメントを書いては消して、書いては消して。
(なんなのこの女……クッソうざいな、姫プしてさぁ! てかコラボ機能とはいえお前ばっか喋ってどうすんだよ、ここは肉まんちゃんの枠だぞ)
爪を噛む。ギリギリと。ムカつくムカつく。
「えーまた死んじゃった!もうやだ! 姫違うゲームがいいかも!もー姫のせいで負けちゃったしごめぇん!!」
そりゃあ負けて当たり前だろ、早くコラボから落ちてくれ。二度とこの枠に来るな。場違いすぎる。
どうせブスだから顔の半分だけをアイコンにした地雷女は言葉を続ける。
「でもでも、みんな優しくしてくれてありがと! 姫、久しぶりに楽しくゲームできたよぉ! 初見なのにありがとだよ〜♡」
そうだ、それでいい。早く枠から落ちろ。
「ね、次何のゲームする? 姫はねぇ、ツムツムと〜荒野行動が好き! てかてか、肉まんさんもまみゃさんもゲームうまいね!? PC何使ってるの!?」
肉まん『いいやつ』
まみゃ『Switch』
「え〜まみゃちゃんSwitch勢なの!? めっちゃおもしろ〜い、じゃあ結構指動かすでしょ、PCの方がやりやすくなぁい?」
まみゃ『まぁ慣れればね』
肉まん『FPS好きなの?次このゲームしよう。合言葉はこれで』
まみゃ『うい』
「おっけーだよ〜! 丁度アプデしたばっかだしタイミング良き良き〜じゃ、ロビー集合ねぇ〜♡」
死ね、死ね、死ね。 姫プするブスも! ブスをちやほやするオスも! 死ね!
ーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後。暗い部屋の中、すずかはスマホに向かって金切り声をあげていた。
「でさぁ〜こういうことがあって! 人の枠だよ!? 何かそいつだけずっと喋ってさぁ、姫プ希望女さんだしさぁ、アイコンも地雷系だしなんかもう狙いすぎ!!!!」
彼女は、discordではなみに愚痴っていた。はなみは昔からの友達で、困ったときにはいつでも助けれくれる。
「うーん…姫てゃ!まじでうざいけど、気にしないほうがいいよ? ネットによくいるじゃん。そういうさ、コミュニティに無理やり割り込んでくる人」
「でもさ、やたら他のリスナーに話振るくせにわたしのことは最後まで無視だったんだよね。なーんかキモいっていうか、引っかかる」
はなみは、うんうん、と冷静にすずかから状況を聞き出す。そして、配信アプリではよくある話だと結論付けた。
「つまり枠乗っ取りみたいな状況なんだね。うん、話は分かったよ。多分すずかだけ分かりやすい女リスナーだから、徹底して無視してるんだろうね」
と、彼女はすずかのアイコンを指摘した。
ボブカットの女の子のイラストアイコンだ。確かにこれは女以外では使いにくい。パッと一目でこのアイコンの持ち主が女だとわかるだろう。
そして彼女は続ける。
「どうせ新参者だし1週間しないうちにいなくなるよ。気にしない方がいい」
「そっか……。やっぱ無視でいいのかな。……でもほんとムカつく。我が物顔であたかも昔っからいたみたいなさぁ?」
「気持ちは分かるよ、せっかく居心地いい枠見つけたのにね。早く姫消えるといいね」
「ほんとそれ、垢消せって感じ。童貞狙いです〜みたいなの透けて見えててキモいしさ」
はなみは苦笑いしながら姫てゃ!のことを分析していく。
「すずか、言い過ぎ。まぁ、どーせ前いたコミュニティでハブかれてたんでしょ、その性格じゃ。すずかだけコメント無視されるとか、すずかだけできないゲームをみんなでやるように煽るとか、典型的な姫だね。気持ち悪い。きっと自分が1番じゃないと気が済まないんだよ。とんだとばっちりじゃんね」
「うん……正直悲しくてさ。肉まんちゃんとか、居合わせたリスナーとゲームするの楽しかったから。急に知らない女に楽しみ奪われて、意地悪されて、誰もわたしのこと庇ってくれないしさ……」
「嫌な奴だわ。ゲームしながらたまーにコメントじゃ、すずかだけ姫てゃに無視されてるの気付きにくいのかもね。あんまり落ち込まないでよ。わたしとどうぶつタワーバトルしようよ〜」
「あはは、はなみちゃん強いもんな〜! ありがとう、少しスッキリした。どうぶつタワーバトル、やるかぁ!」
1週間で姫はいなくなる。
そう楽観的に決めつけ、彼女はどうぶつタワーバトルを始めた。
姫が内心肉まんの枠を気に入っているとも知らずに。
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