第5話

「お兄さんのゴンドラも揺れますね」

「へいへいそれは失礼いたしやした」

 アキラの言葉に葵が適当な調子で謝る。俺よりも歴が長いとはいえ葵もまだ見習いだ。そううまく扱えるわけがない。

「ガラの悪いお兄さんのはもっと揺れてましたけど」

 一言多いやつだ。

「前こぎはまだ苦手なんだよ」

「そういやそうだったな」

 葵がクスクス笑っている。アキラが不思議そうに葵を見た。

「練習がてらガイドでもしてやれよ。おもっきりタダ乗りされてんだからサービスしてやりな」

「人聞きの悪いことを言わないでください」

「だーってホントのことでしょーボーヤ? 育ちよさそうなのに悪知恵働くなんて将来楽しみでちゅねー」

「お金ならあります。この人が受け取ってくれなかっただけです」

「あれ、そーなの?」

 葵が俺の方を見た。

「見習いなのに金とるわけにいかねえだろ」

「変に真面目だよなほんと」

「うるせえよ。ポリシーあんだよ……。右手に見えるのが大聖堂だ。1500年前に完成して以来、ヌエボベネティアの主要観光地になってる」

「え、おまえその調子でガイドする気かよ」

「いやさすがにねえけど」

「ガチでやれよ」

「ガチでやってください」

 二人して俺をじっと見つめてきた。マジか。嫌すぎる。

「えー、右手に見えますのがヌエボベネティアの中心ともいえる大聖堂です。1500年前に完成して以来、この水の都で一番人気の観光スポットでございます」

「置きにいったな。つまらん」

「棒読みだからふつうにガイドとしてよくないですね」

 葵がため息をつき、アキラはあくびしていた。ゴンドラの上で垂直に飛んだ。ゴンドラがひっくり返った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る