ちょろい

「福永」


 放課後。

 オレは福永に声を掛けた。


 ぶっちゃけ、心境はドン引き。

 もしも、福永だったら、警察に言うしかないでしょ。


「なに」

「昨日さ。オレ変なもの見ちゃったんだけど」


 首を傾げる福永に、オレは撮影した動画を見せる。

 画面を見た福永は、始めは何の動画か分かっていなかった。

 しかし、再生時間がある程度経っていくと、「あぁ」と声を漏らした。


「……見てたんだ」

「これ、お前なの?」

「うんっ」


 なぜ、こいつが笑顔で頷けるのか。

 オレには理解できない。


 近くで人が死んでいるのだ。

 なのに、自慰に耽れる精神状態って、一体何なんだ。


「昨日、向かいの家、火事があったんだよね」


 福永の表情を凝視した。

 少しの挙動も見逃すまいとして、目や眉、口に目を走らせる。


 福永は周りを見て、みんなが教室を出て行ったのを確認。

 それから、笑みを浮かべた。


「……やっちゃった」

「お前――」

「山田くんの配信さぁ」


 いきなり配信の話を持ち出され、オレは言葉が詰まる。


「昨日、……なんで増えたんだろうね」


 にっと笑い、福永が顔を近づけてくる。


「わたし、別におかしなことしてないよ」

「死体を、見ながら、オナってたじゃん」


 途切れ途切れに言葉が出てくる。

 生まれて初めて女子に対して、「気持ち悪い」という感情が芽生えた。


「ネクロフィリアって知ってるぅ?」

「んだよ、それ」

「わたしさぁ。誰かに一目惚れしちゃっても、長続きしないんだぁ」


 いきなり、意味の分からない事を言い出し、福永が机に座った。


「同じ気持ちの人って、世界にどれだけいると思う? 山田くんが気づかないだけで、たくさんいるんだよ」


 笑みが消え、声のトーンが低くなった。


「山田くんってぇ、世の中平和だと思ってる? ふふ、……思ってるでしょ。みんなバカだから、ちょろいもん」


 スマホをしまい、オレはハッキリと言った。


「警察に言うわ」

「どうぞ」

「本当に言うぞ」

「ん。楽しみしてる」


 手をひらつかせ、福永は最後まで余裕を見せていた。


 この日、オレの意識は学校を出て、バス停の所までしかない。

 そこからは、ずっと真っ暗だった。

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学年一の美少女が一番ヤバいやつ 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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