自慰

 風呂から上がったオレは、寝る前にスマホを弄っていた。

 ベッドでゴロゴロとして、チャンネル消そうかなと考えている。


「つまんねえな」


 楽して視聴者稼ぐ方法ないかな。


 むしろ、世の中はオレを中心に回ってくれたらいいのに。

 なんてことを考えていた。


『……ッ! ……っ』


 外から声が聞こえた。

 かなりくぐもっていて、何を言ってるかまでは聞こえない。


「んだよ。うるっせぇな」


 カーテンを開けて、窓越しに外を睨む。

 家の前には電柱が一本立っている。

 白い明かりはオレの家の玄関と、向かいの家の外壁を照らし、周囲の闇を透かしていた。


 オレは声のした向かいの家を睨みつける。


 玄関の所に人影が見えた。

 扉を開けっ放しにして、何やらフラフラとしているではないか。


「……おいおい」


 向かいの家には、老人が一人暮らししている。

 だが、玄関先に立っているのは若い女。


 何やら、片手で胸を弄り、もう片方の手は股を触っていた。


「オナってんじゃん。……待てよ」


 オレはどうにかして、金と視聴者が欲しかった。

 流行りの物に便乗して、さらに美味い汁を吸うには、インパクトが大事だろう。


 そこで思いついたのが、盗撮だ。


 起動音でバレないように、予め動画撮影のボタンを押し、スマホを片手に部屋を飛び出した。


 *


 玄関から出るとバレてしまうので、裏口からこっそりと出た。

 裏から表へ回り、足音を立てないように、向かいの家に近づく。


「……んぁ……っ」


 ババアじゃなくて良かった。

 声の調子からすると、若い女。

 塀の陰に隠れて、スマホのレンズだけを出す。


「……さい……こぉ……っ」


 グチュグチュとした水音に混じり、艶のある吐息が漏れていた。


「ほら。がんばって動いてぇ……っ。あ、は。……気持ち、良いっ」


 声だけに耳を澄ませ、離れるタイミングを窺う。


 オナニー動画をネットに上げれば、絶対に食いつく。

 どうせ、みんなバカだから、女が股座弄ってれば簡単に金を稼げるだろう。


 欲しいゲームだって買える。


 オレはニヤケを抑えて、バカ女の露出オナニーに耳を傾ける。


「い、……ッ、~~~~~~~ッ!」


 声にならない嬌声に呼吸が震えていた。

 ずり、と外壁を服が擦れる音がして、行為が終わったんだと判断する。


 バカ女に、バカ視聴者。

 せいぜいオレを悦ばせろよ。


 鼻で嗤い、オレは家の方にコッソリと戻っていった。


 ――でも、女のオナニーとか、どうでも良くなるくらいに、ヤバい事が起きてたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る