仮称「月の書」(抄訳)
初めに#*+4wrpOsq(注:原文では解読不能な文字が使われていた)があった。可能な限り我々の言葉に近い表記をするのならShub-Niggurathとなろう。それには最初形すらなかった。ただ、漠然とした意思だけがあった。意思は次第に強固なものになり、ある時「孤独」という感情を手に入れた。Shub-Niggurathは自分以外の何かの存在を願った。それは形になり、ひとつの世界を生み出した。世界の中では宇宙が生まれ、その中に多くの星々が生まれ一部の星には生物が宿った。Shub-Niggurathは生物の営みに興味を持ち、それを観察することで孤独は癒された。Shub-Niggurathはその中でもかなり進化したある生物が気に入り、自らの姿をその生物に模した。shub-Niggurathは初めて形を手に入れた。その生物は我々人間によく似ており、模倣した姿は女性のものであった。世界を生み出した自分を子孫を生み出す女性に重ね合わせたのかもしれない。彼女は世界を子供のように慈しんだ。
Shub-Niggurathはそれからいくつもの世界を作り出し、その全てに満遍なく愛情を注いだ。彼女の「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」という呼称はこの事実から来ている。千匹の子というのは彼女の生み出した世界であり、多くの世界を生み出したことが多産な山羊と結びつけられたものだ。
あるとき、見知らぬ空間がShub-Niggurathのいる空間に接触した。彼女が自分がある種の空間の中に存在していたことを自覚したのはその時が初めてだった。自分の生み出した世界以外を知らないShub-Niggurathは喜んだ。得体の知れないその空間を歓迎した。
空間はそれ自体が意思を持っていた。Shub-Niggurathはそれに気づき、意思疎通を図ろうとした。しかし、結果返ってきたのはその空間のkj;aduoiuak(注:原文では解読不能な文字。Shub-Niggurathと同様)、我々の言葉に近い表記でAzathothという名前と、ただただ攻撃的なだけの意思だけだった。
Azathothの内側から無数の得体の知れない者たちが這い出てきた。それらはShub-Niggurathが止める間もなく、彼女の生み出した世界の中にもぐりこみ始めた。
ここまできてShub-Nigguratyはようやく事の重大性に気づき、Azathothと呼ばれる空間を自分の空間から弾き飛ばした。Shub-Niggurathは自らの空間に強固な防御をほどこし、二度と外からの侵略を受けないようにしたが、彼女の生み出した世界にはAzathothの眷属がのこったままだった。それらは世界をむしばみながら、Azathothを再びShub-Niggurathの空間に呼び込もうとしている。
Shub-Niggurathは困惑した。彼女自身の力は強大すぎて、直接力を行使したら世界ごと破壊しかねない。かといって放置したら、すべての世界が内部から食い尽くされることになる。
Shub-Niggurathは考えた末二つの対抗措置をとった。一つは世界に祝福を与えること。これはAzathothの眷属には呪いとなる。もう一つは自身の分身体を世界の内部に転生させること。彼女たちは世界を壊さぬ範囲でShub-Niggurathの力を行使し、Azathothの眷属に直接対抗する。
これがShub-Niggurathの真実の物語である。
ゆえにAzathothの眷属の力を求めようとする魔導士たちよ!
Azathothの眷属を呼び出すときはShub-Niggurathの御名を唱えよ。彼女の祝福がAzathothの眷属の力を扱いやすいものに抑えてくれる。それほど彼らの力は強大である。ゆめゆめ油断することなかれ。
そしてShub-Niggurathの顕現に気を付けよ。彼女らは直接汝らの脅威とならん。
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