二つの形見
Glacialis
二つの形見
水川マシロ(22)会社員
玉木裕子(22)女優
水川美津子(49)無職、マシロの母
○水川家・一軒家の居間(朝)
水川マシロ(22)は、父、水川唯雪の位牌に手を合わせる。
マシロ「お父さんが死んでもう2年が経つのか…」
水川美津子(49)がマシロの横に座り、手紙の束を差し出す。
美津子「日谷雅矢様…お父さんの芸名でファンレターが来てるわ」
マシロ「水川唯雪…が本名なのにね」
マシロは嬉しそうに封筒を手に取る。
マシロは、側にある鳥籠の中で黄色い小鳥のセキセイインコと話す。
黄色い小鳥「クーチャン…ミズカ…ワ…マシロス…ス…キ…」
マシロ「クーちゃんと、水色のハンカチはお父さんの形見だもんね」
マシロは手紙を置いて、鳥籠の扉を開けて小鳥を指に乗せる。
位牌の前にある、水色のハンカチを二つ折り三角にして、人形の様に上下に動かす。
マシロ「クーちゃん、ヒタニマサヤ、好き?」
黄色い小鳥「ヒタニ…マサ…スキ…ミズ‥カワ…マシロ…ダイスキ…」
美津子がベランダからサッシを開けて、洗濯カゴを片手に入ってくる。
黄色い小鳥は、マシロの指から離れ、美津子と入れ替わりに
ベランダから空へ飛んで行く。
マシロ、美津子「ダメ!クーちゃん!!!」
○マンションの一室
三日後
玉木裕子(22)の住むマンションの一室。
ベランダには、水色のハンカチが飾ってある。
そこに、一匹の小さな黄色い小鳥が飛んでくる。
裕子は気づいてサッシを開けると、小鳥は中へ入って、裕子の指にとまる。
裕子「あらあら、どうしたの? 可愛いお客さんね、セキセイインコかしら」
裕子は再びサッシの水色のハンカチを見る。
裕子「はぁ。もう日谷雅矢さんは来ないのにね…
私、いつまで情事のハンカチを飾ってるのかしら…」
裕子は水色のハンカチを手に取る。
黄色い小鳥「ヒタニ…スキ…」
裕子「私の愛する俳優を知ってるの?」
黄色い小鳥「クーチャン…ミズカ…ワ…マシロ……ダイスキ……」
裕子は眉間にシワをよせる。
裕子「学生時代、読者モデルになった私を、生意気だって、
いじめてた女の名前…あなた、水川マシロの小鳥なの?」
黄色い小鳥「ヒタニ…マサ…マシロ……」
裕子「デビューの記念に、日谷さんにもらった水色のハンカチを燃やしたマシロ、許せない…」
裕子は水色のハンカチで涙を拭う。
裕子「無くしたって嘘をついて、もう無くすなよって又貰ったハンカチなの。二人の愛の絆よ。
クーちゃん?このハンカチが好きなの?」
黄色い小鳥「クーチャン…ダイ…スキ…」
裕子「やっぱり…。 いいわ、私には考えがある…水川マシロに復讐してやる。」
裕子は黄色い小鳥と水色のハンカチを見つめる。
○鳴海商店街、街角(夜)
三ヶ月後
マシロは、黄色い小鳥のポスティングをしている。
美津子から携帯電話が鳴る。
マシロ「お母さん、どうしたの?」
美津子「あのね、いま、女性からクーちゃんを保護したと電話があったの
明日朝六時に鳴海高等学校の裏口で引き渡すと言ってたわ。」
マシロ「分かったわ、明日、会社休む。で、その人の名前は?」
美津子「それが名乗らないの」
マシロ「そう…なんで家に電話があったのかな?…これから帰るわ」
マシロは電話を切り、ポケットから水色のハンカチを取り出す。
マシロ「よかった〜!ガセかもしれないけど、お父さんも一緒に行ってくれるよね」
マシロは水色のハンカチを胸に抱きしめる。
○鳴海高等学校、裏門内、焼却炉前(朝)
翌日
マシロは裏門から自転車を押しながら歩き、焼却炉前を見て、目を丸くする。
裕子が鳥籠の中に黄色い小鳥を連れて、ゆっくり歩いて目の前に立つ。
マシロ「アンタがなんで、、、私の大事な小鳥を持ってるの?」
裕子はニヤリと笑う。
裕子は、ポケットから水色のハンカチを取り出し、黄色い小鳥に見せ、話しかける。
裕子「クーちゃん?誰かいるけど、誰かな?」
黄色い小鳥「クーチャン…ヒタニ…スキ…」
マシロ「その水色のハンカチまで…なんでまだオマエが持ってるの?」
マシロはなおも驚く。裕子は続ける。
裕子「さあ、なんでかしら…クーちゃん、裕子は好き?」
黄色い小鳥「クーチャン…ユーコ…ダイ‥スキ‥」
マシロは真っ赤になって裕子に走り寄り、力ずくでハンカチと鳥籠を奪おうとする。
マシロと裕子は揉み合いになる。
マシロ「オマエのクシュリヌームのハンカチ!燃やしたはずだろ?返せ!」
裕子「いやよ!なんで日谷さんのハンカチのブランドを知ってるのよっ?!」
マシロ「当然でしょ、亡くなった日谷雅矢は私の父、水川唯雪なのよ」
裕子「!」
マシロ「さあ、日谷の形見の小鳥とハンカチを返してちょうだい!」
裕子「じゃあ、こういうのはどうかしら、俳優の日谷雅矢は私が17の頃から、
私を抱いて愛してたって事!」
マシロは一瞬動きが止まる。
マシロ「ウソだーーーー!!」
裕子「ホントよ、私たち三年間、20歳になるまで付き合ってたのよ、
このレアなハンカチが情事の証拠」
マシロは耳をふさぐ。
マシロ「オマエが父と不倫してたなんて誰が信じるか!」
裕子「この小鳥とハンカチが日谷雅矢さんの形見と知ったら返せないわ」
マシロ「ダメ!返しなさいよ、オマエなんかに父はゆずれない!」
マシロと裕子は再び揉み合う。
マシロ・裕子「あっ!」
小鳥は鳥籠の偶然開いた扉から出て空高く飛んでいき、
強風に煽られ水色のハンカチも吹き飛ばされる。
水色のハンカチは道路に落ち、トレーラーに無惨に轢かれ、引きちぎられる。
様子を見ていた一匹のカラスが小鳥を足で捕らえて校門から出た道路の向こう側に降りる。
○鳴海高等学校、裏門前の道路(朝)
裕子はマシロをかえりみず、裏門から飛び出て
走って来る車の隙を縫って、小鳥の元へ走り行く。
裕子「やめて!カラス!あっちへ行け!」
裕子はカラスを手で追っ払うと、小鳥を拾う。
マシロは手で口を押さえて裕子と小鳥を見ている。
裕子「かわいそうに…」
マシロは道路の自動車が止まったのを見計らって、鳥籠を持ち裕子に近づく。
マシロ「バカねアンタ!死ぬとこだったじゃない!」
裕子「クーちゃん‥‥助かったよ」
マシロは涙目になった裕子を見る。マシロも裕子を抱きしめ泣く。
マシロ「今までのこと、ゴメンね…アンタが綺麗だったから嫉妬してたのかも…」
裕子「いいのよ、もう、過去のことだから…
それより、あなたからお父さんを奪って私こそゴメンなさい」
マシロは笑って、裕子に鳥籠の扉を開けて差し出す。
裕子も笑って鳥籠に小鳥を入れる。
マシロはポケットから自分の水色のハンカチを出して、取れないように鳥籠の扉に括る。
二つの形見 Glacialis @Glacialis
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます