第6話 思ってたんと違う


「なぁ、トラクゥや、正直ワイの思っとったんとちゃうんやが、やっぱコレはラノベで流行りの超スーパーすげぇどすばい的なパゥワーをワイは授かったって流れとはちゃうよな」


「せやで。大将が凄い力を秘めてるんじゃなくて、あの場に居た凄い力を持ってる奴らがそれを十分活かせて無いのに追加をくれって来たから「アホくさ」ってなった神さんが気位が高い奴らをイライラさせる為にアンタを強くされたんや。「何で俺じゃなくてアイツが!」って思わせる為だけにな」


「まあカンフル剤って言ってたしなぁ」


「大将もあの場で察して「生贄やー」ゆうてましたやん。生贄よ、生贄。でもそのままほっぽり出したら可哀想ゆーてな?あの場を見てた優し〜い他の神さんがワイを遣わしたんや」




「へぇ、そういう事。」



いきなり後ろから女の声が聞こえたと思ったら、火球が飛んできた!咄嗟に躱して声の方を見るとキツネのお面をした金髪の中学生ぐらいの女の子が居た。いや、アレは人に化けてる妖怪だな。星元の所の囲いか。


「あー、星元さん所のキツネか。聞いとったなら分かるやろ。ワイをふん縛っても神さんは星元さんを認めたりしないんじゃない?今の力を十全に使えてから、話はそれからなんじゃ?」


俺はとりあえず現状を隠さず言う。キツネだからなぁ、嘘ついてもバレそうだしね。


「そうでしょうなぁ。でも、大勢の道士の前で私の星元さんが恥をかかされたんです。それに、事情を飲み込めてない者にとっては、貴方は悪者ですしね。星元さんの求心力や名声にも疵が付きました。貴方を黒羽の一党や他のキツネより先に捕らえて私は星元さんに褒めて貰うんです!」


そう言って狐火らしき火球を放ってくる。ヤバいぞこれは!

俺はまた逃げ回る。昨日も逃げ回ってたばかりなのにさんざんだな………そう考えたらだんだんイライラしてきた。気に入らない。こっちの事情を考えて無いし、見せしめを作る前にやる事あるんちゃうかと思った。


「トラクゥ!てめぇ何できる?」


「へぇ、もとは所詮名もなき妖怪たぬきでさぁ!ちょっと化けられるぐらいのモンよ!」


「狐火があるんだから狸火とか出せないのかよ!」


「火は出ないけど、茶はちょっと出せるわ!茶釜になりゃあな!」


「鋳物か?!重さと硬さは再現してるか?!」


「おうともさ!」


俺とトラクゥはだんだん壁に追い詰められて来ていた。クソァ!キツネ女の嫌味な雰囲気が気に入らねぇ!俺達の事を「名前を売る道具」ぐらいにしか思って無さそうなそのツラが気に入らねぇ!


キツネ女はトドメとばかりに大きな狐火を出すと褒められる所を想像してニヤニヤしていた。


「あの男を捕まえて〜星元様の所に引き摺って行って〜褒めてもらうんだ〜」


瞬間、目の前が真っ赤に染まる。大きな破砕音が響き渡り土煙が辺に立ち込めた。


「死んで無いわよね?ハァ……どうやって持って帰ろうかしら」


キツネ女は引き渡す為に瓦礫に近づいたその瞬間!


「そういうのをよぉ!取らぬタヌキの皮算用って言うんだぜぇっ!」


お茶()でずぶ濡れになった俺は鋳物の茶釜を振りかぶって思い切りキツネ女に叩きつけた!


バキッッ!と嫌な音を立てて吹き飛ぶ女、仮面が割れて見えた素顔はツリ目のいかにも性格がキツいですよと言わんばかりの顔だった。


悪かないが好みじゃねぇな


…………………


「と言うかさぁ、トラクゥ、てめぇ茶が出せるってったってこりゃアバ茶じゃねぇかクソァ!」


「まあ、勘弁してくれよ大将、普通の水壁だけじゃ足りなかったんだよ(´;ω;`)ブワッ」



「で、コレどうするよ」


明らかにやべーよなぁ………罪を重ねそう。

他人が殴った事にならねぇかな……このキツネ女……一応縛っとこ


「う………ううん……」


「お、キツネ女起きたか。」


「ヒッ!わ、私に手を出したらどうなるか!分かっ…ムグッ」


「おっと、交渉なんてハナから平行線なのは分かってるからな。まずはこちらの要求を聞いて貰う」


「なぁ、大将。思ったより取り乱してないよこの女。何か隠し持ってんじゃない?こっちに不利な証拠になっても面白く無いからとりあえず剥ごう」


「お前はアメリカのギャングかよ……それこそ裸にされた!ってヤバい状況にならない?」


「一発殴って縛り上げてるんだから今更じゃない?」


「そりゃそうか」


俺はキツネ女の上着を剥ぐ。すると襟の内側に何か縫い付けていた。はーマジかよ、スパイ映画じゃないんだから


それから身体検査をすれば出るわ出るわ小道具や御札の数々。不意打ちして正解だったなこの道具を使われてたらヤバかった


アクセサリーを全て外し、口内に差し歯の類が無いか確認。いよいよ最後の隠し場所を探すと言う時になって、ぐったりしていた女が再び暴れ出した!


「ムゥー!グゥー!グギギギ!」


「大将!あせってると言う事は、本命の緊急時に連絡を取り合う道具が入ってるのかもしれませんぜ!凄い暴れ様だ!」


「よっしゃトラクゥ!抑えとけ!」


俺は最後の隠し場所の2箇所に手を突っ込む。どうせタヌキのアバ茶まみれだからな。この際気にしない事にした。


「ヨシッ下着の中には何も無かったぞ!」


「……何かごめん」


キツネ女は静かに泣いていた……

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