第77話 あの人、何を言い出すの……?

 震える手で封筒を受け取り、中から手紙を取り出す。

 ひとつ深呼吸をしたあと、意を決して内容に目を落とした。


「これは……」


 書かれていたのはアシュレイの訃報でも支援金の申請手順でもなく、戦勝記念パーティの招待状だった。

 

 日時は夕方、場所は王宮の大広間にて。

 

「私、これから王宮の戦勝記念パーティへ行って来ます。イアン様をお願いしますね」


「戦勝記念パーティ、ですか? ずいぶん急な開催ですね。かしこまりました。お任せ下さい」


 私は素早く身支度を済ませると、王宮へ向かうため再度馬車に乗り込んだ。


 

 前回の戦勝記念パーティは、凱旋パレードの数日後に行われた。

 なのに今回の開催は、パレード当日。


 騎士が家族の元へ戻る時間すら与えないなんて。


 ……何かがおかしい。

 

 でも考えていても仕方ないわ。

 王宮に行けばマクガレン隊長やジェイクさんに会って話を聞けるかもしれない。

 

 どうか、アシュレイが無事でいますように――。


 ガタゴトと揺れる馬車の中で、私はアシュレイの無事をひたすら祈った。



◇◇


 会場には、騎士の家族や関係者が集められていた。

 

 みんな私と同様、突然招待状が届いて困惑しているのだろう。

 怪訝な顔でパーティの開始を待っている。

 

 辺りをうかがっていると、マクガレン夫人が私に駆け寄ってきた。


「ビクトリアさん、あなたも呼ばれたのね」


「はい、急に屋敷に招待状が届いて。戦勝記念パーティって、こんなに急に開催されるものなんですか?」


「こんなの前代未聞よ。なんでも、このサプライズ開催はオスカー殿下が国王陛下に頼みこんだらしいわ。パーティなんか開く前に、騎士を家族の元へ帰らせるのが先でしょうに」


 一体、あの方は何を考えているのかしら……と夫人が呟く。


「静粛に!」と宮廷役人の声が響いた。直後、広間の奥にある扉から国王陛下と王妃殿下が姿を現わす。


 二人が玉座に座ったあと、宮廷楽団の奏でる荘厳な曲にあわせて、正面扉から騎士が入場してきた。


 先頭はやはりオスカー、その次にマクガレン。

 第一騎士団の中に、やはりアシュレイの姿はなかった。


 私の動揺と不安をよそに、式典はつつがなく進んでいく。

 

 国王陛下のお言葉、総指揮官オスカーの報告、そして目覚ましい功績を挙げた騎士への勲章授与。


 最も栄誉ある勲章を与えられたのは――オスカーだった。


 オスカーが陛下の御前に立ったその時、誰かが「お待ち下さい」という制止の声をあげた。


 騎士の隊列から男性が一歩前に歩み出る。マクガレン隊長だ。


 マクガレン夫人が「あの人、何を言い出すの……?」と青ざめる。


 妻の心配をよそに、隊長は国王陛下の御前で堂々と異を唱えた。


「恐れながら、陛下に申し上げたい事がございます」


「許す。言ってみよ」


「寛大なお心に感謝して申し上げます。此度こたびの勝利の大きな要因は、アシュレイ・クラーク第一騎士団長が立てた策によるものと私は考えております」


 同調するように、マクガレンの背後にいる騎士達が一斉に頷く。


「彼の策がなければ、短期間かつ最小限の被害で勝利することは不可能でした」


「なんだ、勲章はアシュレイ・クラークにとでも言いたいのか? マクガレン」


 横から口を挟んだのはオスカーだった。

 

 何がそんなに愉快なのか、ニタリと底意地の悪い笑みを浮かべ、騎士の隊列へ視線を向ける。


「だが、そいつはこの場には居ない。何せ、奴は僕を殺そうとして自滅したんだからな!」


 オスカーの衝撃発言に、会場中が一気にどよめいた。

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