第74話 一体、何が起きている……?
「一体、どう……なっているんだ」
眼前の大海原を見つめたまま、オスカーは呆然と立ち尽くしていた。
海上では、迫り来る敵船が次々と座礁し、我が国の火矢攻撃を為す
巨大な戦艦が海の上でごうごうと赤黒い炎を上げて燃えさかる。
だが、敵とて無抵抗ではなかった。多数の艦載砲を打ち鳴らし応戦するが、我が国の船は小回りが利くため思うように当たらない。
そしてついに、敵軍艦は我が国の船にぐるりと包囲されてしまった。
巨大な敵軍艦が、我が国の小・中型船に包囲され炎上する様は、まさに小魚が鯨を食うかのごとき光景だった。
勝負はほとんど決している。が、最後まで油断してはいけないとアシュレイは気を引き締めた。
「マクガレン隊長が上手く敵の船を誘導してくれたようですね。これから敵船に乗り込み制圧します。俺たち陸上部隊は、断崖絶壁を登り陸に上がろうとする敵兵を、一人残らず
「……敵の船は、どうして動けなくなっているんだ。一体、何が起きている……?」
「この近海は特殊な地形をしており、海底がでこぼこになっているんです。水深が浅いところと深いところの差が激しく、大型船が通航すると座礁してしまうポイントが数多く点在している」
座礁ポイントは季節や天候、潮の満ち引き、風などにも影響される。
そのため市販の海図はあてにならない。
敵がここら一帯の海図と地図を手に入れていたとしても、正しい座礁ポイントを把握するのはほぼ不可能だ。
一方で、この近辺にある村の漁師達は、何十年にもわたる調査と知恵、経験により、座礁ポイントを正確に割り出す方法を会得していた。
「俺たちは近郊漁師の知恵を借り、正確な座礁ポイントを割り出しました。そして、こちらはあえて小回りの利く小型・中型船に乗り込み、敵艦をポイントまで誘導し座礁させる。その後、動けなくなった敵艦に猛攻をしかける」
これが、俺たちの立てた作戦です――とアシュレイはオスカーに説明した。
王子は、目の前の海を眺めたまま言葉を失っていた。
燃えさかる敵船から、火だるまになった敵兵が逃げ場を求めて海へ落下する。
それを目の当たりにしたオスカーは、ここに来てようやく、戦の恐ろしさを理解したようだった。顔面蒼白でぶるぶる体を震わせている。
「こっ、この作戦は、お前が立てたのか? アシュレイ・クラーク」
「発案者は俺ですが。漁師たちの知恵があったからこそ実現した策です。民は決して、『死を待つだけの生産性のない輩』ではありませんよ」
オスカーの失言を引用して告げれば、案の上、彼はふて腐れた顔をした。
「作戦が成功したからといって、図に乗るなよ。お前は、戦争の功績で爵位を得た成りあがり者だ。役に立つのは当然だし、勝たなければお前のような戦争貴族に価値はない」
早口でまくしたてるオスカー。その不遜な言葉の数々にジェイクが険しい顔になる。
アシュレイは、自分のために怒ってくれる部下に感謝しつつ『何も言うな』と目で制した。ジェイクが眉間にしわを寄せながら閉口する。
何も言わないアシュレイに気を良くしたのか、オスカーが鼻でふんと笑った。
「殊勝な態度で結構。さて、これからどうするんだ?」
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