第58話 絶対に大丈夫だわ――!
あれ……私、いつの間にか寝ちゃってたんだ……。
頭を撫ぜられる気配がして、意識がふっと浮上した。
目を開けると、イアンを抱きかかえ部屋を出て行くアシュレイの後ろ姿が見えた。
帰って来てくれたんだ……。
ベッドから起き上がり身なりを整えていると、戻ってきたアシュレイが私の体を優しく抱きしめた。
「執事から大まかな状況は聞きました。倒れたって? 医者を呼ぼうか?」
「大丈夫です。お仕事中だったのに、急に呼び出してすみません」
「気にしないで。あなた以上に大切なもの、俺にはありませんから」
アシュレイが隣にいると、どんなに不安なことがあっても大丈夫だと思える。
圧倒的包容力って感じ、安心するのよね。
私は引き出しに仕舞っておいた手紙を手渡した。
「実は一時間くらい前に、私宛にこんな手紙が届いたんです」
「これが例の脅迫文ですか」
アシュレイは真剣な顔で手紙を検分した。
「すぐに犯人を見つけます。屋敷の護衛も増やしたから安心して」
事件の手がかりは、たった一枚の脅迫文。
便せんは庶民が使う市販の物だし、前世の指紋鑑定のような技術はない。
正直、犯人特定のヒントが少なすぎる。
不安げな顔をする私を見て、アシュレイは自信満々に言った。
「すでに精鋭チームを招集しています。明日には逮捕してみせますよ」
「明日!? そんなに早く!? 」
「俺を信じて下さい。あなたとイアンは俺が守ります。犯人には指一本触れさせません」
力強く頼もしい言葉に、不安がすっと消えていく。
私は体のこわばりを解いて、私はふっと微笑を浮かべた。
脅迫文だろうと何だろうと、恐れることはない。
絶対に大丈夫だわ――!
アシュレイの指揮により、屋敷周辺には警備騎士が配置され、襲撃に備えた厳戒態勢が敷かれていた。
クラーク邸には彼の部下である精鋭騎士たちが集結。
屋敷の大広間に捜査本部が設けられた。
脅迫文一枚でちょっとやり過ぎな気もするが、アシュレイは私以上に事態を重く見ている様子だった。
「犯人は、騎士の家に脅迫文を送ってくるような人間だ。よほどの考えなしか、もしくは捕まらないという何かしらの自信があるのだろう。各自、警戒を怠らず捜査に当たってくれ」
アシュレイの言葉に、騎士達が「はい」と真剣な面もちで頷いた。
その時、部下のひとりが「隊長、ひとつ質問いいっすか?」と挙手する。
「どうした、ジェイク」
「何で騎士団じゃなく隊長の屋敷で会議するんすか? 俺たちがぞろぞろお邪魔したら、ご家族に迷惑でしょう。――ねぇ?」
ジェイクという騎士が、同意を求めるように私を見る。
厳密には、まだ『ご家族』ではないのだが、騎士達の視線を感じた私は、お茶を淹れていた手を止めて「私は大丈夫です」と微笑んだ。
「先程ジェイクが言った『なぜ騎士団で会議をしないのか』という指摘だが。俺の見立てでは、犯人は貴族の可能性が高いと踏んでいる。騎士団には貴族出身者も多いため、捜査を妨害されないようここを選んだ」
「貴族っすか? その根拠は?」
「手紙に付着した、かすかな『匂い』だ」
「匂い?」
その場の誰もが怪訝な顔をする中、アシュレイが「ビクトリアさん」と私を呼び、質問を投げかけた。
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