第19話 超キュートな男の子!
正面に座った少年は、足と腕を組んで、大人びた顔で私のことを品定めするように眺めている。
……これって、もしかして面接始まってる?
この家では、お子様が家庭教師を選ぶ方針なのかしら?
であれば、ちゃんとご挨拶しなければ。
私は背筋を伸ばして座り直すと、爽やかな笑顔とハキハキした声で自己紹介した。
「はじめまして、私はここに家庭教師の面接に来ました。ビクトリア・キャンベルです」
「僕は、イアン・クラーク。六歳。だけど、もうすぐ七歳になる。で、ビク、キ?リアさんは、僕の先生になるの?」
「合格を頂ければ、そうなります。それと私のことは、どうぞビッキーと呼んで下さい。私からもイアン様に質問しても良いですか?」
キリッとした顔で、イアンが「どうぞ!」と言う。
「イアン様のお好きなこと、嫌いなことを教えて頂けますか? 例えばよくする遊びとか」
「あそび……? 勉強じゃなくて?」
「もちろんお勉強は大切ですが、机に座ってばかりでは疲れてしまうと思うんです。休憩の時は何をしたいかなと思いまして」
「僕は、かけっこと剣の練習が好きです! 勉強はあんまり……。あとママとパパと、アシュレイが好き。それとキャシーも……」
「体を動かすのがお好きなんですね。じゃあ、お勉強に疲れたら、一緒にダンスを踊って気分転換するのも良いですね」
「ダンス!」
それまで緊張した面もちだったイアンが、ぱあっと表情を明るくした。
ぴょんとソファを飛び降りて私の元へ歩いてくると、隣にちょこんと座った。そして、ややうつむきがちに「あの……」と、もじもじしながら口ごもる。
私は「ゆっくりお話して頂いて大丈夫ですよ。私、イアン様のことが知りたいんです」と優しく促した。
するとイアンがほっとした顔をして、少しずつ話し出す。
「僕、こんど、貴族の学校に転校するんだ。そこで、ダンスをおどるパーティがあるって聞いたんだけど……」
そわそわしたイアンの言動から私はピンときた。
「もしかして。一緒にダンスを踊りたいご令嬢がいるのですか?」
「……うん」
頬を桃色に染めて、こくりと首を縦に振るイアン。
そのあまりの愛らしさに魅了された私は、たまらず胸を押えて「ぐうっ」と声を上げた。
何を隠そう、私は無類の可愛いもの好きだった。
特別子どもが好きな訳ではないけど、小さくて可愛いものを見ると胸がキュンとしてしまうのだ。
めちゃくちゃキュートなイアンに私はハートを打ち抜かれてしまった。胸を押えてぷるぷる震える私の顔を、イアンが気遣わしげにのぞき込んでくる。
「ビッキー、どうしたの?胸が痛いの? もしかして、心臓が痛い?」
「持病の可愛いもの好きが……、いえ、何でもありません。大丈夫です」
「ジの、びょうき……??」
「いえいえ! 痔の病気ではありませんよ」
イアンが無邪気な顔で「ん?」と首をかしげる。
まずい。このままじゃ私は、特にアピールポイントもないまま、痔の病気(疑惑)の家庭教師という印象になってしまう。なんとか挽回を図らなければ。
私はにっこり爽やかな笑みを浮かべると、さりげなく話題を変えた。
「私、ダンスはとても得意なんです。もしイアン様の先生になれたら、一緒に練習しましょうね」
「うんっ!僕、ダンスの練習したい!」
イアンがキラキラお目々のわくわく顔で私を見上げてくる。
その時、廊下の方から足音が聞こえて来て、ノックのあとに男性が部屋に入ってきた。
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