第17話 職業婦人への第一歩!
新たな生活拠点となる新都市は、陽気で明るい街だった。
建ち並ぶ大きな屋敷や真新しい学校、立派な噴水のある美しい広場。商業メインストリートには馬車と人が絶えず行き交っている。
本当は両親のいる王都から離れたかったけれど、僻地へ行けば行くほど仕事は見つかりにくい。
それに一人暮らしも初めてだから、知らない土地で職を探しつつ生活するのは怖かった。
その点、この街には多少の土地勘があるし、騎士団の副本部もあるから女性の一人暮らしでも安心。
治安の良さから学校や公共施設も多い。
あわよくば元貴族の教養知識を活かした職業――例えば、学校の先生や住みこみの家庭教師などの職に就きたかった。
目当ての仕事に就くためには、これから行く紹介所で良い職場を紹介してもらわなければ。
私は事前に書き込んでおいた履歴書を再度チェックした。
名前欄に記載した名前は、ビクトリア・キャンベル。
フェネリー姓は使わなかった。
高位貴族の侯爵令嬢が働くなんて前代未聞。
何か問題を抱えているんじゃないかと噂になったり、書類選考の時点で疑念を抱かれ不利になるのは避けたい。
かわりに名乗る「キャンベル」は、母方の遠縁にあたる地方貴族の姓。
贅沢を好む母と
一方で、キャンベル当主と波長の合う私は、しばしば手紙のやりとりをしていた。
今回も家を出るにあたって、就活の際にキャンベル性を名乗っても良いか尋ねると、当主からすぐさま了承の返信が届いた。
『遠慮なく我が家を頼りなさい』という心強い文章に、どれほど背中を押されたことか。
キャンベル当主には感謝してもしきれない。
生活が落ち着いたら、元気にやっているという報告の手紙と一緒に、この街の特産品を送ろう。
目的地に着き馬車を降りた私は、事前に面接の予約を入れていた、この街で一番大きな職業紹介所に足を踏み入れた。
午前は教養知識やマナー、語学のテストを受け、午後にはその結果を踏まえて仕事を紹介される。
担当になった女性係員が、テスト結果を見て驚きの表情を浮かべた。
「凄いですね。ほぼ満点ばかり。これなら、職歴がなくても教育関係のお仕事をご紹介出来そうです」
「ありがとうございます。可能であれば、住み込みの家庭教師を希望しています」
「はい、少々お待ち下さいね。ええっと、じゃあ、これなんかいかがでしょう」
そう言って彼女はファイルから書類を取り出した。
そこに記載されていたのは、私の希望どおり、住み込み家庭教師の仕事だった。
「雇い主は、最近爵位を得た新興貴族の方です。お子様を新学期から貴族学校に転入させるため、勉強だけでなく、上流階級のマナーも教えて欲しいとのことです」
給与、勤務時間、職務内容ともに申し分ない。
最初からこんなに好待遇な仕事を紹介してもらえるなんて。
これを逃したら、後悔してもしきれないわ。
「勉学と上流階級の礼儀作法については心得があります。このお仕事、ぜひ私にお任せ下さい」
自信たっぷりに言うと、係員はすぐに紹介状をしたためてくれた。
「依頼主様は本日、ご在宅だそうです。面接は直接屋敷に来て欲しいと仰っていましたので、この紹介状を持って行って下さい」
「ありがとうございました」と、お礼を言って私は紹介所を出た。
さあ、職業婦人としての第一歩だわ。面接、頑張りましょう!
心を奮い立たせて、足取り軽く最寄りの停留所まで歩く。そこから乗合馬車を利用して目的地へと向かう予定だ。
停留所のベンチに腰掛けた私は、紹介所でもらった書類を詳しく見て――。
「これって……」
覚えのある依頼人名に驚き、目を見開いた。
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