第15話 さようなら、クロワッサン!
自室で足首の手当てをしてから、私は家を出るための最終チェックをした。
クローゼットの中にある旅行カバンには衣類や日用品が詰め込まれており、荷作りはぬかりなく済んでいる。
資金は、貯めていた分と持ち物を売却した分を合わせると、結構な額になった。
当面の生活費は心配ない。とはいえ、収入がなければ貯蓄は目減りする一方。
早く就職できるに超したことはない。
職業紹介所には連絡済みで、すでに明日の面接予約を取り付けてある。
移り住む場所も、女性が安心して一人暮らしできる治安の良い街を選んだ。
頭の中でのシミュレーションは完璧。あとは明日を待つのみ。
「ふぁぁ。もう寝よ」
これだけ準備したんだから大丈夫と自分に言い聞かせ、私はベッドに横たわった。
期待と不安で寝付けないかもと心配していたが、今日は色々あったせいで身も心も疲れ切っていたらしい。
ものの数分で強烈な眠気に襲われ、深い眠りへと落ちていった。
翌朝、お陰さまで足首の腫れは引き、痛みもほとんど無かった。
よし、今日からが私の新しい人生の始まりよ。
行動開始――!
私がまず最初に行ったのは、縦ロール髪をやめることだった。
鏡に向かい、腰上くらいまである金髪を丁寧にとかす。
王室の伝統的な髪型だからという理由で、縦巻きロール髪を両親に強制されてきたけれど、正直ダサすぎる。
前世の記憶を思い出してからは、もはやクロワッサンにしか見えないわ……。
「クソダサいクロワッサンよ、さようなら!」
私はそう呟き、髪の毛を後ろの高い位置で結んでポニーテールにした。
お次はメイク。
これまでは存在感を出すため舞台女優のような厚化粧をしてきたが、それもやめて薄付きに。
今日は就職面接があるから、清潔感と真面目さをアピールしつつ、爽やかで上品な印象を与えるメイクにしてみた。
清楚な白のブラウスと、上品な濃紺のジャケットとスカートを合わせて、鏡の前でくるりと回る。
「うん、我ながら完璧」
すると、ノックのあとレイラが部屋に入ってきた。
私を見てすぐに「まぁ!」と驚いた様子で声をあげる。
「とてもお綺麗です! いつの間にお化粧がお上手になったのですか?」
「ええっと……」
夢の中で得た知識ですとは言えず。
「こっそり練習したの」とあらかじめ用意していた言い訳をサラッと告げた。
「よし、準備万端ね」
私は深く深呼吸をしてリビングに向かった。
両親は横目でこちらを見て『なんだ、その格好は!』と驚いた顔をしたが、何も言わない。
無視作戦はまだ続いているようだ。
まだ私をコントロール出来ると思っているのね。でも、もう言いなりにはならないわ。おあいにく様。
「お父様、お母様、おはようございます。それと、今まで育てて下さり、ありがとうございました。私は本日をもってフェネリー侯爵家を離れます」
私の言葉に、両親は眉をひそめる。
特に父は新聞を乱暴にテーブルに叩きつけ、こちらを鋭い目つきで睨んだ。
「は? 朝から何を馬鹿なことを言ってるんだ。いい加減にしろ! お前はもう何も考えなくていい。新しい嫁ぎ先が見つかるまで、とにかく大人しくしていろ!」
「ご命令には従えません。これからは自分で考えて生きていきます」
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