第7話 ねぇ、ここってライブ会場じゃないよね!?
思い立ったが吉日。
私は自立に向けて準備を始めた。
期限は戦勝記念パーティまで。
思ったより、時間がないわね……。
諸々の手続きや手配をするため、さっそく外出。街で用事を済ませて帰宅する途中、馬車が通行止めにあってしまった。
交通規制をしていた騎士が駆け寄ってきて「ご不便をおかけしております」と頭を下げる。
「これから凱旋パレードを行うため、現在大通りを通行禁止にしております。恐れ入りますが、迂回して頂きますようお願い致します」
そうだ、今日は凱旋パレードの日だわ。
すっかり忘れていた。
迂回しようにも、どんどん馬車と人が集まってきて動けなくなってしまった。
仕方ない。せっかくだもの、パレードを見ていきましょう――。
私は馬車から降りると、人混みに紛れて大通りを見つめた。
ラッパを持った楽隊騎士が先頭に立ち、高らかにファンファーレを奏でながら行進する。
風に乗って色とりどりの花吹雪がひらひら舞った。
パレードを見つめる人々の笑顔と楽しげな話し声、華やかなお祝いムード。
明るい雰囲気に、私も久しぶりに胸が高鳴る。
やがて歩兵や騎馬兵などが隊列を組み、パレードの本隊がやってきた。
晴れやかな光景を眺めながら、私は平和な日常のありがたみをしみじみと噛みしめた。
遡ること今から一ヶ月前――。
隣国が侵攻してくるとの情報が駆け巡り、国中が大混乱に包まれた。
貴族は国外退避を検討し始め、市民は迫り来る敵におびえる日々。
かつてないほどの大軍を前に、もしや負けるのでは……という恐怖が国全体を覆い尽くした。
だが蓋を開けてみれば、戦争は我が国の大勝利。
被害を最小限で抑え、短期決戦で敵の侵攻を食い止めた。
その立役者が――。
「きゃっー! アシュレイ様が来たわっ!」
突如として、私の隣に立っていた女性が黄色い声をあげた。
途端、その場は拍手喝采。わぁっ――と大歓声がわき起こる。
「英雄アシュレイ、バンザイ!バンザイ!」
「国を守ってくれてありがとう!」
他の騎士達が民衆に愛想よく手を振る中、最も歓声を浴びている騎士――アシュレイ・クラークは、馬上で凜と前を向いていた。
さらりと風に揺れるヘーゼルブラウンの柔らかな髪。
透き通った瞳にすっと通った鼻筋、引き結ばれた薄い唇。
遠目から見ても分かる美しい容貌。
優雅な仕草と上品な佇まい。
白馬に乗った姿は騎士というより、まるで物語の中の王子様みたいだった。
「アシュレイ様~!」と女性達が熱烈なアピール合戦を繰り広げる。
黄色い歓声を浴びてもなお、アシュレイは特に気にした様子もなく……というか完全に無視して、前だけ見て行進していた。
他の騎士みたいに手を振ったりしない。
どうやらファンサービスはしないタイプらしい。
せっかくのイケメンなのにニコリともしないなんて勿体ないわね……なんて思っていると。
「
「ああっ、今日もあの冷めた表情が最高ですわ~!」
ファンにはその無愛想な塩対応が好評らしい。
平民貴族とわず、ご令嬢たちが頬を染めながら「きゃぁー!アシュレイさま~、こっち向いて~」と手を振りながら力の限り絶叫する。
もしここに私以外の転生者が居たら『ここはアイドルのライブ会場か!?』と驚くだろう。
それほど、パレードは色んな意味で異様な盛り上がりを見せていた。
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