第3話 〜戦場を駆ける冒険者〜

 太陽は既に沈みきり、道を照らすのは、ガラスから漏れ出す鮮やかな色彩のみ。シースと別れた後も東区の散索を続けていると、いつ間にかこんな時間になってしまっていた。


 心ゆくまで買い物を楽しんだティルは、満足気な顔を浮かべ、宿までの暗い細道をウッキウキで歩いていく。宿まで後もう少し、そろそろ着く頃か、今日は何食べようか……そう思い始めた頃、後ろの方からふと声をかけられる。


「ねぇ、君」


 振り向くとそこには、だるそうに佇む男が1人。何かを持つ腕をゆっくり振り、何かを見せつけながらこちらを見ていた。


(あれは……手帳?なぜに?…………あ、もしかして!!)


 何か思うところがあるのか、ティルは急いで財布の中身を確認する。どうやら、ティルの予感は無事的中していたよう。本日手に入れたばかりの、厚みのあるがない。


(あぁ……あれだ。多分、られた時に落ちちゃってたんだ。あっぶなぁ……)


「大事なものはさ、しっかりと管理しなきゃ。ティル君」


 男はそう言うと、ゆっくりとこちらへと歩み寄り、手帳を差し出す。


「ありがとうございます……」


 しかし何故だろう。落し物をを拾ってくれたのはありがたいし、多分いい人ではあるんだろう。が、この喋り方と雰囲気……。この男からはどこか、不思議と危ないを感じる。


「えぇと……あなたは?」


「私?私か……そうだな。今は……『運び屋』とでも名乗っておこうかな。実際のところ、でもないしね。ただただ預かったものを、必要な人に届ける。それだけの存在さ……」


「は、はぁ……」


(胡散臭ぁ……)


「まぁ、これで1つ。私の仕事は済んだってことになるし、私は行くよ。それじゃぁ……」


 運び屋と名乗る男は、そう言いながら背中を見せると、何かを思い出したように人差し指を立て、話し始める。


「そうそう、忘れていたよ。もしも声が聞こえたら、君の思うままに動くといいらしいよ……それが、君のになるんだってさ……」


「ちょっ、声って?分かれ……道って……」


 一体何?そう聞こうとしたが時すでに遅し。1度目を瞑り、開く頃には男の姿は消えていた。ティルは、運び屋と名乗った男の言った、あの言葉の意味を考えながら、街頭に照らされた夜の道を歩くのであった。



 ・・・



 次の日ーーー


 ティルは初めての仲間との冒険に、ソワソワしながらも、約束より30分程早く門の前に到着した。特に何もすることがなく、気長にぼーっと待っていると、右手を大きく振りながらこちらへと歩く男が1人。


「おすお〜す。ごめん、待たせちゃった?というよりも……あら?ハルナは?」


「おはようございます。ハルナさんはまだみたいですね」


「はぇ……、まいっか。んじゃ、ちょっくら待ちますか〜♪」


 その後しばらくの間、2人でハルナを待つ。が、集合時間を幾分か過ぎたにも関わらず、それらしき姿は一向に見えない。


「むぅ……。どうする?このまま待つ?」


「そうですね。探しに行って、すれ違いなったら嫌ですし、このまま待ちましょうか」


「確かに。それもそうだね」


「はい」


「……はい、ね」


 シースは、そんなティルのぎこちないやり取りに、どこかモヤるところがあるようだ。


「どう……したんでしょうか?」


「なんかさぁ。……ティル君、硬くない?」


「硬い……ですか?」


 確かに。今思い返せば、初対面だからと言い、少し気にしすぎたか?そんな気がしなくも無い。いや、この人がフレンドリーすぎなのでは?そんなせめぎ合いが心の中で始まる。


「ほら、せっかくさ?仲間になった訳なんだし。俺はもうちょい、フラットに接してくれると、色々やりやすい。そう思ってたりするんだよね。だからさ?敬語とか辞めにして、もうちょい砕けた感じで来て欲しいっていうか……そんな感じ?」


(仲間……か……)


「なるほど……そんなもんなんですね……」


「ほらほら!今のだって。『そんなもん』。言ってみ?そ・ん・な・も・ん!」


 シースの放つ、濁流のような明るい言葉の羅列は、ティルの緊張をほぐすように心を突き抜けていく。


「……そんなもん?」


「そそ。いいじゃん♪ま、最初のうちは難しいかもしれないけど、だんだん慣れてこうや」


「は……うん!」


「おぉ、いいね!」


 しばらくそんなやり取りをしていると、段々と大きくなる影が1つ。誰かがこちらへと、全速力で走っている模様。やはりと言ってはなんだが、正体はハルナである。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!寝過ごしました!本当にごめんなさい」


「いいよいいよ〜別に。今日はそんな急ぐ日じゃないしね」


 ハルナの荒ぶるお辞儀の乱打に、シースも暖かく許す。……と思っていたが、


「はいぃ……今度からは、ヒェッ!!」


「本番は、ナシな?」


(おぉ怖……)


 シースの思いもよらぬ眼光に上がるのは、ハルナの間の抜けた素っ頓狂な声。普段あのなりのシースだが、怒ると結構怖いらしい。何はともあれ、しっかり反省したハルナと合流した3人は、始まりの森へと向かい始めるのであった。


 ・・・


 街から出てしばらく歩いたのち、見えてきたのは、前方の景色を独占するよう西から東へそびえ立つ、立派な大森林であった。


「よし、着いたね。あそこが始まりの森だよ」


「うわぁ、でっっっか。なんというか……圧巻?」


「そりゃぁね。ここ、マグニア三大観光地の一つだもの」


「さんだいかんこうち?」


「そ。結構有名よ?世界的にね」


「だな。まぁ、それはおいといて……。なぁティル、あっこにいるモンスター見えるよな?あの集団御一行様方」


 シースはそういうと、人差し指でティルの視線を誘導する。


「あれは……っと、ゴブリンと野オオカミ?」


「そう。んで、あいつらを今から1人で相手してきて欲しい訳なんだが……行ける?」


「うん。あれくらいなら、余裕だと思う」


「ふぅん?なかなか言うじゃない。ま、もしなんかあったら私達も参戦するし、ある程度の怪我なら私が治したげるから。心配なら必要ないわよ」


「そうね〜」


「わかった……。んじゃ、ちょっと行ってくる!」


「ほ〜い」


 ティルはシースに予備の剣を預けると、戦闘前の軽いストレッチをしながら、状況整理を行う。


 敵はゴブリンが5体、野オオカミ2体の計7体。これなら多少無茶したとしても怪我は無さそうだ。ティルはそう思い、全力で地面を踏み込み……


(あれなら余裕でしょ!じゃあ、レディ……)


「GO!!!」


敵へと向かい、踏み込んだ足を思いっきり蹴り上げる。


「ごって……。ちょっ、ティル!?」


「まー、大丈夫じゃない?自信満々の顔してたし」


「いやいやいや、えぇ……。アタシ怪我治すって言ったけどもさ、言ったけどもさ!?もしもあいつが怪我しても、アタシ治さなくてもいい?いいよね?」


「ハハハ……まぁまぁ……落ち着けって。多分大丈夫だから」


 シースはともかく、嬉々として突っ込んで行くティルに対し、ハルナはドン引き。そんな2人が見守る中、ティルの戦闘はすぐに始まる。


 ゴブリン達は、こちらへと走り込んでくる人間に気付くと、各々ティルの方へと向かいはじめる。その後、ティルから近い順に野オオカミが1匹、その後ろにゴブリン2匹。1番後ろに、もう1匹の野オオカミとその周りに3匹のゴブリンという配列になる。


 1番先頭の野オオカミは、我先にと全速力でティルへと向かう。ティルが攻撃範囲に入ると、目の前にある人間の首元へと、牙を剥き出しながら飛びかかる。


(へへっ!それじゃあ甘いよッ!)


 ティルは、オオカミが噛み付くその瞬間まで、回避の予兆すら見せずにただただ突っ込む。オオカミが口を閉じ始め、ティルの首が喰いちぎられる。そう誰もが思った瞬間、ティルは体を後方へと身を引き、噛みつきを超ギリギリで躱す。


 牙と皮膚の隙間は約1mmミリ。その危なっかしさは、ハルナが思わず『キャッ!』と悲鳴を上げてしまう程であった。


 ガッチン――――。牙と牙がぶつかり合う音が右耳の真横で鼓膜を震わす。ティルは後ろへと飛びながら武器を構え、噛みつきにより前方へと進むしか無くなったオオカミの懐へと狙いを定める。


 絶対に回避不可能の一回転。重心と勢いの乗ったその剣は、オオカミの腹へと食い込むと、そのままスピードを落とすことなく、皮、肉、骨、血管。その全てをぶった斬る。


(まず!1匹!!)


 森の前で戦う冒険者が魅せた一連の動き。その危なっかしくも、どこか目を瞑る事すらも忘れさせる戦いは、シース達どころか、後ろで構えるゴブリン達も見蕩れてしまう。


「次ィッ!!」


 ティルはそう叫ぶと、前方にいる2匹のゴブリンへと駆け出す。


(ダメだって!勝負中によそ見しちゃッ!)


 ゴブリン達はまだ、先程の硬直から解けていない。その隙を見逃さなかったティルは、右側のゴブリンへと素早く2連撃。命を懸けた戦いの最中、気を緩ませたゴブリンに対し、戦闘態勢に入ることすら許さず、その命を終わらせる。


 そんな光景を目にしたゴブリンは、ハッと我に返り、持っていた短剣を両手へ持ち替え、ティルへの攻撃を試みる。


(残念、見えてるよ!それ!)


 目の端で相手の攻撃モーションを捉えたティルは、ゴブリンに背中を向けたまま、剣の柄をダガーの先端へとぶつける。


 グゲェーーーッ!


 ゴブリンの両手に生じた剣から伝わる振動は、想像以上に重たく、思わず武器を手放す程。思いもよらぬ衝撃、更にはこんな相手に素手というこの状況。わけも分からず混乱するゴブリンは、一先ずはと考え無しに武器を拾いに行く。


 だがティルも甘くない。武器を拾いに行くゴブリンに対し、1番スピードとパワーが乗りやすい距離を取り深く息を吸い、吐く。心を落ち着け、タイミングを見計らい、ゴブリンの心臓を目掛け、突く。


「残り4!!」


 どうやらティルは、久しぶりの戦闘に激しく興奮している様子。最奥に立ち塞がる最後の群れへと嬉々として突っ込んでゆく。


 そんなティルを見たシースとハルナは……


「なかなか、やるわね.....」


「そうだね.....でも」


「「なんか、敵が可哀想.....むごい.....」」


 声を合わせ、ティルへの賞賛と敵への同情を混ぜ合わせたコメントを残す。


 一方ティルはと言うと・・・


 残りの敵は、野オオカミ1匹とその前方、左右に立つゴブリン3匹。先程までの攻防.....いや、一方的な殺戮にも見える光景を見ていたためか、ゴブリンはあえて攻撃には転じず、周りを見渡し始める。どうやら、【目の前で暴れるこの冒険者には勝てっこない】そう見越し、逃げようとしているのだろう。


 しかし、今のバーサク状態のティルに、敵を逃がすなどの選択肢などあろうか。


 ティルは、先頭のゴブリンが自分の間合いに入ると、構えてる武器をすくいあげ、左足を1歩前に出す。その後、体を捻りながら渾身の一撃を与え、ゴブリンの頭と体を切り離す。


 そして、そのまま勢いを殺ぬいよう更に1歩前身、重心を今出した右足へと移動させる。狙うは、目の前のモンスター3匹。全員一気に仕留めんと、剣に全体重を乗せ地面と平行に360度回転する。


 が、さすがにやはり自然に生きる魔物。その危機察知能力は一瞬、ティルの戦闘能力をも上回る。ゴブリン2匹には左右へと逃げられ、野オオカミにはジャンプにより躱され、渾身の一撃は誰も仕留められずに終わる。


(あぁ……全員とったと思ったんだけどな……)


 ティルは誰を倒そうかと迷ったが、選ばれたのは野オオカミでした。野オオカミは、ジャンプという無謀な選択により、重力に従う他がなく、そのまま心臓を貫かれ息絶える。


「あれは……、あたしらの出番なさそうだね」


「いや、まだ分からないよ。念の為準備しとこうか」


 ゴブリンはオオカミを餌にティルから距離を取り、左のゴブリンは約20m、右のゴブリンは35m程離れてしまっていた。


(左のゴブリンを追う?いや、それだと右のやつには絶対逃げられる。うぅん……どうしようか……。)


 どうしても両方倒したい。しかし、何度も思考を重ねる度に、どちらかは逃げられるという結論に至る。


(ま、1度とやった事ないけど……。試しにやってみるか!!)


 すると、ティルは胸元からあるものを取り出す。それは今回の試験に向け、師匠兼母から譲り受けたお守り。炎のように揺らめく、オレンジ色の魔石である。今までの戦闘で使った事は無かったが、魔石を利用して魔法を使ってみることにした。


 ティルは魔法に集中するため、まずは右方向のゴブリンへとに狙いを定める。その後、グッと剣をやり投げのように構えると、全身の筋肉を最大限に活かし、ゴブリンの脳天へと直刺させる。


「オッケ♪ジャストミートッ!!」


 それを見たシースとハルナは、


「うっわ、えげつっ……」


「えぇ……、さすがにないわ……」


 その後ティルは、ゴブリンがもう立ち上がらない事を確認すると、左側にいたゴブリンへと両手を掲げ、目を瞑りながら集中する。


(うん、分かる!これが魔力が体を流れる感覚!)


 ティルは魔石から体を通し、掌へと魔力が集中していくのを感じる。すると、ティルの周辺には、魔法の放出時に見られる現象、体の周辺が発光する現象【魔発光まはっこう】が起きる。


「あれは!?魔力ないんじゃないの!?」


「おお。これはどうなる?」


 ティルは今まで感じたことの無い感覚に、不思議と心の中が自信で満ち溢れる。


(行ける!これなら行ける!!)


 そして、目をカッと開き、雄叫びをあげる。


「うおーーー!ファイアーーーー!!!」


 すると、ティルの手のひらから巨大な炎が!!!


 ……出ることはなかった。掌の先で放たれた炎……いや、弱々しく現れた火は、虚しくも風と共に消えていく。


 へへんっ、ざまぁ。そんな顔を浮かべるゴブリンは真っ直ぐ進み、ティルから距離を取り森の中へと向かい逃げる。


(まあ、1匹くらいいっか。てかなんだよ……ファイヤーー!って……。)


 と、やや赤みを帯びた頬をおさえていると、何かがティルの耳元をヒュンッと何かが掠め、前方へと飛んでいく。


 どうやらハルナの放った矢らしい。矢はそのままゴブリンへと向かい足に命中。更には、トドメになるであろう炎の魔法がゴブリンに直撃し、ティルの初陣は終わりを迎えた。


 周辺に燃える炎の残火を眺めていると、後ろからハルナとシースがやってくる。2人がティルの元へと到着すると、ハルナ先生からゴブリンについてのご指摘が始まる。


「いい?ゴブリンはちゃんととどめ刺さなきゃダメよ。アイツらね、ああ見えても知性が高い生き物だから、対策されて他の冒険者が危険な目にあうの」


「ま、大丈夫じゃない?多分ティルの動きじゃ参考にならないと思うし。いやぁ、それよりもさすがだわ。街での動きを見た感じ、相当やるなとは思ってたけど。うん、想像以上」


「そうね。あんな戦い初めて見たわよ。……あ!?てか、それよりも!あんた魔法使えないんじゃないの?魔力ほぼほぼゼロって書いてなかっけ?最後の炎?……あれ、なんだっのよ……。あの、、ププッ、、しょっぼい、、、炎ww」


 ハルナはさっきの魔法(仮)を思い出したのか、途中笑い声を混ぜながら、煽り口調で聞いて来た。


(まっっっったく、本当にいい性格だよ)


 ティルは、はぁーっと深く溜息をつき、服の内側にしまってある魔石を取り出す。


「僕自身には魔力ないんだけど、これ使ってみたんだ」


 すると、ティルの服から魔石が現れた瞬間、ハルナの表情は一変。目はギラギラと輝き、呼吸は荒れ、肩を上下に揺らしながら、魔石を見つめる。


「ナニナニナニ!?なんなのよその魔石!かなりの魔力濃度じゃない!しかも、その大きさ、艶やかさ!!光沢!!彩度!!!見せて見せて!!あー、なんて綺麗なのかしら!!もうヤダーー!そんなの持ってるなら、早く見ッせなさいよ!どこで手に入れたのよ?一体いくらしたの?もし良かったら私にくれない?良い値で取引するわよ!!」


(食い付きがすごい……)


「これは、おか……師匠から譲り受けた物で、お守りみたいなものだから。ごめん、あげられないよ」


「そ、そう……そうよね。そらそうよね……ハハハ、ハハハハハ…………」


「まあ、ガッカリすんなよ。ティル、こいつかなりの石マニアでさ。こういう魔石系のことになると人が変わるから、今度から気をつけてな〜」


「うん、さっきのでよく分かったよ」


(ハルナの前で魔石は出さないようにしよ)


 その後、お互いの癖や戦い方を知るため、3人での戦闘を数時間ほど繰り返す。何時間か共に戦闘をこなすと、2人の戦い方は大体理解できた。


 シースは魔法と近接攻撃を7対3くらいで戦闘をこなす。得意なことは魔力制御の精密さで、ティルとモンスターがどんなに近かろうと、自分に魔法が当たることはなかった。


 近距離戦はやや苦手そうではあったが、ある程度なら剣で捌き切り、なんなら反撃もできる。そんな感じで、近距離〜中距離を得意とするオールラウンダーって感じだ。


 ハルナはどちらかと言うと、遠距離で戦うサポートタイプ。得意な攻撃は弓での攻撃で、視野が広く機転がよくきき、味方のサポートを充分にこなしてくれた。


 中でも目を見張るものがあったのは、矢の命中率だ。動体視力や風を読む感覚、洞察力が異常に高く、今日の戦闘において、ハルナが矢を外した姿を1度たりとも見なかった。他にも、支援魔法や回復魔法を扱えるため、多少無理な戦い方や厳しい戦闘が起きても、その後を心配することなく戦うことが出来た。



 ・・・


 戦闘が終わってからしばらくたち、昼食をとるのに丁度いい時間帯となっていた。


「そろそろお昼にしましょ〜!」


「お。もう、そんな時間か」


 そう言い、ハルナはカバンの中から3人分の食料を出し、ティルとシースに配る。


「これ、ハルナが作ったの?」


「まぁね……、昨日ご飯作ってたら材料余っちゃったから、ついでにね……」


(なんか後ろめたそうだけど…………あぁ、で……)


「意外だろ?こいつが料理できるなんて」


「意外ってなによ、意外って」


「いやぁ、そんなことは……ないと思うけどなぁ」


「何よ、その間。あんたも、調子乗ってると殴るわよ?」


「へいへ〜い」


 そんな2人のやり取りをティルは黙って見つめる。


「どした?今の顔、すげぇアホっぽかったぞ?」


「いやぁね、なんか2人。凄い仲良さそうだなぁって思って」


「そんなわけないじゃない!」

「ハハハ、んだろ?」


「は?」


「冗談だよ冗談」


「ま、そんなこと置いといて、さっさとご飯食べましょ?」


「そうね〜」

「うん」


 ティルは弁当箱を開けると、中にはサンドウィッチが入っていた。見た目よし、香りよし、ボリューム良しの、そんな食欲をそそるサンドウィッチだ。


 その後しばらくの間、軽い雑談を混ぜながらゆっくりと昼食と休息を取る。


「よし、じゃあ腹も落ち着いたし、そろそろ行きますか」


 3人は戦闘の準備を終え、森の奥へと足を進める。しばらく探索を続けていると、何やら大きい足音と共に、森を揺らす程の大きな振動がこちらへと近づいてくる。


 ドスン――――ドスン――――。


「まずいな、森の主か」


「森の主?」


「ああ。森の主、フォレストドラゴン。えげつない程タフい上、攻撃力もモンスターの中じゃトップクラス。暴れると並の冒険者じゃ、まず手を出すことすら出来ないだろうな。まあ、こっちから攻撃しない限り襲ってくることは無いから大丈夫。でもそうだな……念の為あそこに隠れるか」


 3人は草の茂みに隠れ、やり過ごすことにした。しばらくすると、森の主は奥の方へと向かっていく。


「まさか、この時期に主と遭遇するなんてね」


「今の時期はあんまり活動しないはずなのにな……。もしかしたら攻撃しなくても襲われるかも」


 シースとハルナは冷や汗をかきながら話す。するとどこからか、女の子の声が聞こえてくる。


『……けて、誰か!!!』


「今の声聞こえた?」


「声?何も聞こえなかったけど」


「ああ。俺も、別にって感じだな」


「ほんとに?今助けを呼ぶ声が聞こえた気がするんだけど…………」


 そこで、運び屋の言っていたことを思い出す。そしてなぜだか、声の方へ向かわないと行けない。そう、心の奥底から、何か使命感のような物で満ちる溢れる。


「2人ともごめん。ちょっと様子みてくる」


「おい!危ねぇぞ!」

「ちょ、ば!!何してるのよ!」


 ティルは、2人を置きざりにし、森の主の方へと向かう。後ろから注意の声が聞こえるが、それでも気にせずに走る。


「あのバカ、何考えてんだ!ハルナ、仕方ないけど行くぞ!」


「うん……。そりゃ仕方ないものね、分かったわ」


 こうしてハルナとシースは覚悟を決め、ティルの背中を追い、森の奥へと消えていくのであった。


 第3話 「戦場を舞う冒険者」 〜完〜

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