第25話 エルフの街

 エルフの街へと到着したのだが、驚いてしまった。

「都市だ」

「ええ、そうね」

 東の魔王と顔を見合わせてしまう。


 僕が前に来た時は、自然と調和していた街だった。街の中心部でさえも、多くの大樹が目に付いたものだ。その殆どはツリーハウスとなっていた。

 だが、今目の前には、見渡す限りにビルが建っている。近代都市といった感じに整備された街並みだ。在りし日のアクトリンド並みと言っても過言ではない。


 都市化したのは、街並みだけではなさそうである。そこにいるエルフのファッションも、随分と洗練されたものとなっていた。

「なんだか、エルフの印象が」

 すれ違う時にも、蔑んだような視線を向けられることもない。

「そうね。偏屈で閉鎖的だったと思っていたのだけれど。普通に他種族がそこら辺を歩いているなんて、私の知っているエルフの街では有り得ないわ」

 通りを歩いているだけじゃなく、店員の中にも他種族の者がいたりもする。ということは、この街にエルフ以外の者も住んでいるということだろう。


「ちょっと良いかな」

「へい、いらっしゃい」

 素材の買取店へと入り、恐々と声を掛けてみる。すると、普通に迎え入れられた。


「買い取って欲しいのだけど」

 無一文なので、ここに来るまでに高値になりそうな薬草や、見つけた獣などを狩ってきていたのだ。

「それじゃあ、物を見せて頂けるかい」

 蔑まされるどころか、大歓迎といった視線を向けられて少々こそばゆい。


「初めてなので、少し色を付けておきましたぜ。あんたは随分と丁寧に採取してるからね。是非とも、次もうちへ持ち込んでおくれよ」

 相場観が無いので、実際のところはわからない。ただ、心からまた来て欲しいと思っているのは伝わってきた。


「エルフって皆、おじさんみたいにフレンドリーなの?」

 余りのイメージの違いに、思わず聞いてしまう。

「まあ、俺ら世代はこんなもんだ。なんだ、エルフは偏屈で閉鎖的だとか聞いたのかい」

「ええ、まあ」

 実際にそうだったとは言わない方が良いだろう。現在からでは300年以上も前の話となる。人間である僕が体験したと言ったら、怪しまれてしまう。


「兄ちゃん、どこの田舎から来たんだよ。確かに、俺らの親世代はそんな感じだったが、もう200年くらい前には殆どが隠居しちまってるよ」

 ガハハと笑われてしまった。

「だから、こんなにもビルだらけなのですね」

「そうか。そんな話を聞いたのなら、大方エルフの街はツリーハウスだらけとも聞いて来たのだろう。まあ、奥の方へ行けば、年寄連中が昔気質な生活をしてるが」

 エルフのおじさんは言葉を濁す。恐らく年寄は排他的なのであろう。行っても、あの蔑まれた瞳を向けられるだけになりそうだ。


「それじゃあ、諦めることにするよ」

「済まんな。それが良いと思う。あっ、待てよ。東の端に昔ながらのツリーハウスで治療院を営んでる奴がいた筈だ。俺よりちょい上の世代だが、追い返したりはしないと思うぜ」

 お礼を言って、お店を後にする。通りを東へ向かい歩いていく。


「あっ」

「どうしたの!」

 突然僕が声を上げたものだから、東の魔王が驚いて反応する。

「さっきの店で、アリマススのこと聞くのを忘れてた」

「なんだ、そんなことなの。次に行く所で、聞けば良いだけじゃない」

 それはそうなのだが、無料で聞くのは忍びない。かと言って、僕も東の魔王も治療が必要な状態ではなかった。


「安い傷薬でも売っていれば、いいんだけど」

「まあ、思ったより多い額を貰えたのだから、多少は使っても問題はないわ」

 それもそうだな。見た感じでは、物価があの頃よりも2倍も3倍も上がっているというわけではなさそうだから、宿代と当面の路銀を差し引いたとしてもゆとりはある。


 気になっていたことが解消したので、足取りも軽く歩いていく。15分程歩いたところで、ビルの間から1本の大樹が姿を現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る