例によって例の如し?
輸送ヘリコプターが爆音を響かせて頭上を通り過ぎ、風圧で埃が舞い上がった。
渓谷の壁面から張り出した複層の床は発着場も兼ね、絶え間なく輸送ヘリコプターが行き来する。
そこにはB17行きの物が集積され、臨時のバザールが開かれる──
「シムラで揃えるんじゃ駄目だったのか!?」
そんな人と物が行き交う場所を俺たちは全力で駆けていた。
VRシミュレーターを利用したショップで、パーツも揃えるものだと思ってたぜ!
「既製品は高いからな──走れ!」
黒いロングコートを翻し、背後へ振り向くヘイズの手にはライフル。
膝立ちで躊躇なく発砲!
商品を守るサイボーグ、野次を飛ばす獣人、混沌としたバザールに銃声が響き渡る。
「杭打ちきぅ!?」
追手の獣人がヘッドショットを受け、床面へ頭から突っ込む。
南無三。
その屍を踏み越え、目を怒らせた連中が続く。
「ちっ屑どもが」
空のバナナマガジンを投げ捨て、ヘイズは再び駆け出す。
ライフルを右脇に挟み、義手の左腕で大型リボルバーを抜いた。
追手の銃撃が耳元を擦過──反撃が射手のサイボーグを貫く。
いちいちかっこいいな、おい。
「お前ら、いつも…あぶねっ──こんなことしてんのか!?」
頭を抱えて走るダン君へサムズアップを返す。
「退屈しないだろっ」
「俺を巻き込むなよ!」
今日は、
俺と言い、ヘイズと言い、有名人は辛いぜ。
サイン紙より弾丸とは治安が悪いぞ、ティタン・フロントライン!
「ダン、これもスキルアップの一環ですよ!」
サイドテールを風に靡かせて駆けるゾエが、自信たっぷりに言う。
マスターゾエの教えは、基本的にスパルタだ。
「ゾエ君の言う通りだぞ、ダン君。何事も経験だ」
「畜生!」
弾丸が飛び交う鉄火場で、涼しげな声が響く。
さすが、師匠だ。
どんな状況でも動じない。
進行方向、露店の陰から飛び出す人影──物騒な代物を持った3人組。
ついに俺のリボルバーが火を噴く時が来ちまったか。
「邪魔です」
「がはっ」
「ぐぇ!」
ぱんぱん、と乾いた銃声が響き、ヘルメットを割られた2人が倒れる。
腕利きのティタン乗りは仕事が早い。
厳ついハンドガンを構えたアルの隣を、高速で駆け抜ける影。
「
繰り出されるアイゼン・リッターの左腕兵装──ではなく、ゾエのガントレット!
相手は天高く打ち上げられ、隣の露店へ突っ込む。
ノックアウトだ。
当然、リボルバーの出番はない。
「お見事です、ゾエ様」
「はい、今日も強盗騎士の撃破に成功です!」
軽やかに駆け出すアルとゾエ。
唖然としているダン君の肩を叩き、2人の後を追う。
「見たか、ダン……あれが女子力だ」
「あんな女子力あってたまるか!」
「さっさと行け」
最も女子力の高いヘイズが隣に並び、すかさず背後へ向く。
腰だめに構えたライフルを連射、3人の追手が転がるように倒れる。
なお追ってくる一行、たまに露店から弾丸のラブコールが届く。
「待ちやがれ!」
「逃げられると思うなよ!」
模範的なチンピラの台詞だな、おい。
ポストアポカリプスな世界と同じくらい人心が荒廃してるぜ。
「ヘイズ、どこまで逃げるんだ?」
バナナマガジンを手早く交換するヘイズへ横目で確認する。
厄介な連中に絡まれてから、そろそろ5分は経つ。
「B17防衛隊が到着するまでだ。タイムアップは近い」
「了解」
せっかく良いパーツが購入できたんだ。
とっととダンの乗り換えイベントを始めようぜ──
「む……何か来ます!」
ゾエの警告と鈍い金属音が響くのは、ほぼ同時。
渓谷の壁面に設けられたシャッターが吹き飛ぶ。
降り注ぐ金属片、埃と粉塵──そして漆黒の身体を支える6対の脚。
反応できないダンの襟首を掴んで、床面に伏せる。
とんだ曲者が出てきやがった。
「生体兵器かよ…!」
タイプαじゃない別種の生体兵器。
艶のある外骨格で覆われたフォルムは、サソリに似ている。
ただ、尻尾の代わりに装備したタレットからは4本の銃身が伸びていた。
「あれがB17防衛隊?」
「…違うな」
俺の隣で伏せているヘイズは冷静な声で否定し、状況を見守る。
「に、二月傘だと…!」
答え合わせは、追手の1人がしてくれた。
B17はストーリーイベントの開催地で、数多のプレイヤーが集まってる。
当然、上位クランもいるだろう。
しかし、ここへ現れた理由は一体?
「なぜ、ここにっ!?」
タレットの4連装が火を噴き、俺たちの頭上を弾丸の雨が擦過する。
床面を無数の薬莢が叩く。
ティタンには豆鉄砲でも対人なら申し分ない。
振り向いて確認するまでもなく、追手は全滅だろう。
「た、助かったのか…?」
ここからが本番だぞ。
銃声が止むのを確認し、ゆっくりと立ち上がる。
視界の端で、アルに抱えられたゾエが無事を示すサムズアップを見せたので応えておく。
「まだ分からんぞ、ダン君」
右腕のパーツを外し、レールガンの砲身を露出させる師匠。
涼しげな声色こそ変わらないが、奥の手を出すということは状況はよろしくない。
複数の足音が近づき、ライフルが次弾を飲み込む音が聞こえた。
「こんな所に生体兵器を持ち出すとは気でも触れたか?」
ヘイズが銃口を向ける先には、笠を被った深緑の一団。
身長差はあれど全員がロングコートを纏い、立ち込める粉塵の中に佇んでいる。
連中が上位クラン──二月傘か。
いつぞやの邪教の信徒たちを思い出す。
周囲を警戒する生体兵器の前に歩み出た1人が、おもむろに笠を取った。
「あなたと事を構えるつもりはないよ、ミス・ヘイズ」
細いフレームの眼鏡を知的に光らせ、両手を上げて無抵抗を示す。
目元のバーコードみたいな刺青が目を引く兄ちゃんだった。
ヘイズに用がないとなれば、次に来るのは──
「J・B、あなたに用がある」
まさかの師匠!
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