例外に対処します
相棒を見上げるゾエは、手を振って無事を伝えてくる。
ノーヘッドが崖上を掃射した時、本気で心配した。
お説教とか全部後回しでいい。
本当に良かった。
≪悪い! 2人は大丈夫か!?≫
「なんとかな…」
≪そうか…良かった……≫
ダンに落ち度は一つもない。
俺が押し付けたノーヘッドをレーザーキャノンでぶち抜き、2機目を仕留めていた。
むしろ、よくやったと思う。
≪終わりだ≫
ジョンさんの爽やかな声が通信越しに響く。
荒野にて、最後のノーヘッドがレーザーブレイドで胴体を刺し貫かれた。
「狙撃が止んだ?」
相棒を立ち上がらせ、地平線を睨む。
乱戦中も喧しかった狙撃が止んでる。
好き勝手撃ちやがって──覚悟しろよ?
≪ふぅ…終わりか≫
≪いや、この程度でフラグシップは諦めないさ≫
そう言って、ジョンさんは荒野に転がるスクラップからライフルを拾う。
セーフティとか無いんだ。
≪フラグシップって……マジかよ…≫
「心配すんなよ」
狙撃の精度は良いが、ゾエほどじゃない。
これで頭を出してくるなら、3人で袋叩きにするだけだ。
右腕を上げて、ゾエとアルに挨拶してから崖下へ降りる。
≪そうだね。ダン君も武器を調達して備えよう!≫
≪ま、まだ戦うんですか…≫
渋々、スクラップに近づくトリコロールカラーの巨人は、弾痕と擦過痕で傷だらけ。
かっこいいぞ、ダン君。
そのうち体が逃走じゃなく、闘争を求めるようにしてやるからな。
「右腕はいいのか?」
ダンは右腕のフレイムロックは棄てず、やや銃身の長いライフルを左腕に持つ。
≪まだ1発残ってる≫
「そっか」
最後の1発ってロマンあるよな。
期待してるぜ。
「さて」
3機のティタンが並び、地平線の砂煙へ頭部カメラを向ける。
≪もう一仕事、行こうか≫
砂煙の正体は、1機のティタンだ。
水没都市で遭遇したマッド・ドッグに似た鋭利なフォルム。
両腕の武器が異様に大きく、ひどくアンバランスな印象を受ける。
火力支援じゃなく最初から来ればいいものを。
≪おい、あれって──≫
跳躍の予備動作に移る。
左腕のレールキャノンと思しき長砲身に青い光が宿り、眩しいくらいの光量を放つ。
ロックオン警報──
≪ヴィクセンかよ!≫
ペダルを蹴って、スラスターを噴射。
舞い上がった砂塵を青い光線が真っ二つにする。
しかし、そこに俺たちはいない。
≪一斉に仕掛けよう!≫
「うっす!」
≪くそっ! どうにでもなれ!≫
俺は左、ダンは上、ジョンさんは右から、それぞれ突っ込む。
照準の中心に捉えたヴィクセンの右腕が動く。
給弾ベルトが肩部に伸びた武器のデザインには見覚えがある。
「チェーンガンか!」
回答は、視界を覆う緑の弾幕だった。
スティックを倒して加速し、弾幕を潜る。
≪当たれぇ!≫
ダンが吠える。
弾幕を展開しながら、ヴィクセンはスラスターを右へ噴射。
その残像をレーザーキャノンの光線が焦がす。
≪エネルギー残10%≫
トリガーを引きながら、スラスターをカット。
滑走する機体を傾けた瞬間、緑の曳光弾が右脚を掠めた。
跳弾でも衝撃が重い!
≪機体損傷≫
視界内で踊るダメージの警告。
キックを連続で繰り出していた脚部は、限界が近い。
≪だめだ! 貫通しねぇぞ!≫
対するヴィクセンは、俺とダンの放ったAP弾を軽々と弾く。
その上──
「図体の割に速い!」
右肩のマガジン、やっぱり簡単には狙わせてくれねぇな!
チェーンガンの弾幕が空中を走り、ダンの左腕を吹き飛ばす。
≪がぁっ…くそっ≫
≪私が足を止める!≫
ジョンさんがスラスターを噴射し、彼我の距離を縮める。
同時に俺もペダルを蹴って、反対から突っ込む。
ヴィクセンが急制動、前傾姿勢となり──ジョンさんへ吶喊。
チェーンガンが猛烈な速度でAP弾を吐き出す。
それを飛び越え、灰色の巨人はライフルを投擲した。
≪V君!≫
「もらった!」
投擲物に照準を合わせ、ライフルを連射。
給弾ベルトの近くで、ぶち抜く!
閃光が瞬き──刹那、ヴィクセンの右側面を爆発が襲う。
黒煙から突き出るレールキャノンの長大な砲身が光を宿す。
その射線上で、アリーナ1位は光の剣を抜く。
≪行け、2人とも──≫
光と光が激突し、焔に包まれる灰色の巨人。
舞い上がる砂塵と黒煙──その渦中より異形のティタンが飛び出す。
レールキャノンの砲身は半分に、給弾ベルトが繋がるマガジンは装甲がない。
捨て身の一太刀、見届けた!
「ダン!」
頭上を通り越したダンが、旋回と同時にフレイムロックを突き出す。
俺はライフルのAP弾をヴィクセンの右肩へぶち込む。
≪見えてる!≫
最後の1発が背面のスラスターを吹き飛ばした。
それでもヴィクセンは機体を振って、チェーンガンで水平方向を薙ぎ払ってくる。
ペダルを蹴り、緑の絨毯を越える──
≪喰らえ!≫
異形のティタンに一筋の光線が直撃し、火花のように飛び散った。
右肩のマガジンが溶融して爆ぜ、黒煙が視界を覆う。
≪こいつ、まだ生きてやがる!≫
ペダルを踏み込む。
「いや──」
渦巻く黒煙を突っ切り、黒く焼け焦げたヴィクセンへと肉薄。
相棒を見る無機質な眼には、驚愕が浮かぶ。
「これでっ」
装甲が溶融した胸部にライフルを捻じ込む。
ダメージの警告は無視、トリガーを引く!
「終わりだ!」
砲声が鳴り響き、ティタンの巨体が震える。
連続でAP弾を撃ち込み、内部を引き裂く。
レールキャノンの砲身が荒野へ落ち──ヴィクセンは停止した。
相棒を睨む眼から光が消える。
≪やったか…?≫
異様な静寂に包まれ、荒野を砂塵が舞う。
ライフルを引き抜けば、異形のティタンは無抵抗で崩れ落ちた。
ぴくりともしない。
≪やった……やったぞ、V!≫
通信越しに伝わってくる歓喜の声。
「おう、やったぜ!」
俺も揃って勝鬨を上げる。
借りたライフルは完全に壊れたし、相棒は悲鳴を上げてるけど、勝ちは勝ちだ。
今は、それを噛み締める。
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