深淵を確認します

 洞窟みたいな通路は薄暗く、方向感覚を失いそうになる。


「フレイムロックで動きを止めて、高火力で仕留めるってコンセプトだな」

「なるほど」


 そんな場所でダン君と愛機の談義をしている俺。


「まぁ…決まったのは、初めてなんだけどな」

「これから成功率を上げていけばいいじゃん」

「いや、キャノン系は射撃までが遅いから、別の武器を試したい」


 左肩のレーザーキャノン、必殺技みたいで良いと思うんだけどなぁ。

 でも、より強くなるための試行錯誤も大事だ。


「まだ手探りなんだな」

「そりゃそうだろ……まだ、始めたばっかりだぞ?」


 ダンの言う通りだ。

 俺も相棒のアセンブルに挑戦してみるべきなんだろうな。


「ところでよ」

「おん?」

「俺たち、迷子になってねぇか?」


 よく気付いたな、ダン君。

 俺たちは、現在、迷子になっているんだ。

 このトンネルを潜ったのは3度目だぜ。


「ふむ…ルートは間違っていないはずなのですが」


 先導者を買って出たアルは、不思議そうに首を傾げる。

 セーフハウスまでの道順は覚えてたのにな。

 どうしてだろうな。


「アルはすごいです。ルートを変更しても、ここに辿り着いています…!」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇよ…!」


 驚愕を浮かべるゾエ、ちょっと誇らしげなアル、そして天を仰ぐダン君。

 何やってんだろう、俺たち。


「まずは、ここから脱出しないとな」

「とにかく来た道を戻るか…」


 げんなりした表情を浮かべるダンの肩を叩く。

 ダンジョンの探索と思えば悪くねぇさ。


「ゾエは、まだ行っていないルートを試してみたいです!」


 スカイブルーの瞳を輝かせ、ゾエは通路の奥を見つめる。

 薄暗く先の見通せない道の先に一体何が?


「更なるアビスへ行こうというのか、ゾエ…!」

「おい、V…行くんじゃねぇ!」


 ダン、止めるな!

 その未知への憧れ、それは大人が忘れてしまった情熱!

 行くしかねぇ。


「怖気づいたのですか?」

「そういう話じゃねぇだろ!?」


 無表情で煽るという器用な芸当を見せるアル。

 お前は反省しような。

 まぁ、そんなことよりも──


「行ってみようぜ、な?」

「行きましょう、ダン!」

「……ああ、分かったよ!」


 段々と扱い方が分かってきたぜ、ダン君。

 ということで、ゾエ隊長を先頭に隊員3名は通路の奥へと一歩踏み出した。


 この通路、地肌の見える元坑道かと思えば──突然、コンクリート製の通路に変わる。


 再開発でもあったんだろうか?

 そして、ゾエ隊長の足が止まる。


「ここです!」


 細い指が示した通路は狭く、より闇が深い。

 確かに通った覚えがなかった。


「こんなとこ通れるのかよ…?」

「隠しルートってやつかもな」


 興味を惹かれても、足を踏み入れるのは躊躇する狭路だ。


「ゾエ様は後ろへ、私が先行します」


 さっと立ち位置を入れ替え、アルが先頭に立つ。

 右手に厳ついハンドガン、左手には鉤爪状のナイフが握られている。


「ゾエが一番乗りしたいです!」

「どうどう」


 不満げなゾエを捕まえ、アルに頷きを返す。

 ここは腕利きの傭兵に任せような。

 街中でも襲撃されるゲームで、こういう狭路は怖い。


 ハンドガンのライトが点灯──ゆっくりと前進を開始。


 足音が狭い空間を反響する。

 再開発で生まれた間隙というには整備され、メンテナンス用の通路みたいだ。


「…お前ら、こんなことばっかしてんのか?」

「いや、初めてだぜ」


 いつもは目的地が決まっているから探索パートはないのだ。

 次第に出口と思しき光が見えてくる。


「広い空間があるようです」

「換気設備の稼働する音が聞こえます…!」


 近づくにつれ、ガレージでよく聞く換気設備の唸る音が聞こえてきた。

 こんな場所に?

 闇より一歩踏み出して──


「ここは一体…」


 狭路を抜けた先には、円筒状の空間が広がっていた。

 天井は高く、まで続いているような気配があった。


「ここは、採掘場でしょうか」


 アルの視線の先には、削られた地肌が見えた。

 採掘場なら換気設備があるのも納得だ。

 ただ、ずいぶんと大きな縦穴を掘ったもんだな。


「B17って何を掘ってる街なんだ?」

「ティタンの装甲、弾丸に使用される鉱物資源が主って聞いたぜ」


 ダン君の解説を聞きながら、中央の巨大な吹き抜けへ近づく。

 強烈な光を放つ照明は、何を照らしてるんだろ?

 落下防止のパイプに手をつき、奈落を覗き込む。


「なんだ…あれ?」

「ティタン、のようですね」


 縦穴の底には、巨人の影があった。


 禍々しさを覚える鋭利なフォルム──マッド・ドッグに似ている?


 ただ、かなりの偉丈夫だ。

 縦穴の深さは分からないが、とても全長10mには見えない。


「大型機のようです…!」

「…ティタンにしては大きいよな」

「あの機体のペイロードならクローバーラインとHEKIUNが搭載できそうです!」

「ちょっと待った、ゾエ」


 きょとんとした表情で振り返るゾエは、首を傾げる。

 まさか、購入する気とは思わなかったぜ!


「どうかしましたか?」


 夢の計画を思い描く無垢な瞳が俺を貫く。

 だめだ、負けるな!

 直感だが、あれは触れちゃいけない代物な気がする。


「あれは非売品──」

…販売品だよ」


 突然、しゃがれた男の声が背後から響き、俺たちは一斉に振り返る。

 作業員の詰所と思しき建屋の前に、ゴーグルを着けた作業服姿のおじさんが立っていた。


「ようこそ…ファンタズマに…!」


 しゃがれた声で宣い、おじさんは口元を歪めた。

 また、濃い人が来たぜ。

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