積極果断?

「早く使ってみたいです!」

「ガレージに届いたら、しっかり装備しないとな」

「はい!」


 生体兵器の対策にフレイムスロワーを購入し、ご機嫌なゾエちゃん。

 そして、ハイライトの死んだアルビナ先生を連れ、当局もといセントラル・ガードの派出所に訪れていた。


「おい、止まれ」

「ここに何の用だ」


 質実剛健を形にしたような派出所の前で、2人の局員に呼び止められる。

 不審者を見る目だが、俺は怯まないぜ。


「イーズギル26からの紹介で来ました」


 今日は大義名分があるのだ。

 驚きの表情を浮かべ、訝しむように先生とゾエを見る局員。

 おっと外見で判断するのは──


「若くないか?」

「あそこの名を騙る馬鹿はいない…信頼していい」


 相方の局員は、話を持ち込んだ人かな。

 セルパンさんの人柄を信頼して、ミッションの仲介を依頼する人は多いんだとか。


「少し待ってくれ」


 一歩下がってからインカムを操作し、短く言葉を交える。

 セントラルの自治組織というが装備に統一感はない。

 肩のワッペンだけが所属を示している。


「よし、案内する。付いてこい」


 連絡を終えた局員が手招きし、あっさりと正面のゲートが開かれる。

 ボディチェックとかしない?

 腰に下がってる大型リボルバー渡さなくていい?


「…行こっか」

「はい!」


 生気のない声で告げる先生、意気揚々と付いていくゾエ。

 深く気にしても仕方ねぇ。

 ゲートを潜って2人の後を追う。


「閑散としてますね」


 入口からエレベーターへ向かう道中、ほとんど局員の姿を見なかった。

 見かけた3人の局員も装備を身に着けて、忙しなく出ていった。


「最近、出動が多くてな」


 エレベーターに乗り込み、案内を務める局員は溜息を吐く。

 最近になって出動が増えた、つまりセントラルの治安が悪化した。

 なんだろう、心当たりがあるな。


 ふと、ゾエが天井を観察していることに気付く──監視カメラだ。


 軽快な電子音が響き、エレベーターの到着を知らせる。


「先生」

「どうしたの?」

「ミッションの依頼なら通話でも良いと思うんですが」

「私もそう思うけど……あえて言うならかな」


 そう言って苦笑する先生。

 非効率と切り捨てるのは簡単だけど、俺は嫌いじゃない。

 顔を突き合わさないと分からないこともある。

 少し埃っぽい廊下を進み、突き当りのドアに辿り着く。 


「隊長、イーズギル26から紹介を受けた3名を連れて来ました」

≪ご苦労、下がってくれ≫

「了解」


 理知的な音声が響き、ロックを解除する音が響く。

 そして、空気の抜ける音と共に横へスライドするドア。


 奥には、セントラルの街並みを映すウィンドウ、そして──筋骨隆々のサイボーグが座っていた。


 全然、理知的に見えないわ。

 どう見ても戦闘用じゃん、あれ。


「…アルビナ、君が来るとは思わなかったぞ」

「深くは聞かないでくれる?」


 格子状のフレームの奥で瞬く緑の眼光が、意気消沈した先生を見る。


「色々と聞きたいことはあるが……見なかったことにしよう」


 俺とゾエを見て、隊長は深々と溜息を吐く。

 苦労してそうな人だ。


「先生、というのが?」

「そう……ブライアンさん、セントラル・ガードに所属するプレイヤーだよ」


 座ったまま会釈され、俺も会釈を返す。

 ティタン・フロントラインの自由度の高さには驚かされる。

 NPC専用の職種と思っていた当局にプレイヤーがいるとは。

 そんな俺の視線を受け、ブライアン隊長は堂々と応じる。


「どんな世界でも秩序は必要だ……私は気に入っている」


 やだ、かっこいい。

 右肩に描かれた当局のエンブレムが輝いて見えるぜ。


「合法的に暴力を振るっていい」


 訂正、めちゃくちゃ危ない人じゃねぇか!

 巨躯から放たれる威圧感がすごい。

 まずい、やられる!


「冗談だ──本題に入ろう」


 すっと威圧感を消し、デスクで両手を組むブライアン隊長。

 本当に冗談だった、今の?


「生体兵器が確認されたのは、アンダーセントラルのブロック66」


 街並みを映していた背後のウィンドウが暗転、立体的なマップを表示する。

 そのマップには見覚えがあった。

 セントラルの地下だ。


「発見された個体はタイプα2、これのセントラル侵入を未然に防止するため、駆除を依頼したい」


 ちかりと緑の眼光が瞬き、右上にの画像がホップアップ。


 長いセンサー、てかてかの装甲、走破性の高い多脚──やめよう。


 この外見は、攻撃力が高い。


「大丈夫ですか、アルビナ…?」


 真っ青な表情の先生をゾエちゃんが優しく撫でている。

 先生、嫌なら逃げたっていいんです!


「大丈夫…大丈夫だよ」

「一応言っておくが、今回は初配信の比じゃない数だぞ」


 初配信の、おそらくは惨状を知るブライアン隊長は、無慈悲な言葉をぶつける。

 びくっと先生の肩が跳ねた。


「わ、私だって、あの時よりは強くなったんだよ…!」


 声が震えてます、先生!

 それでも恐怖に抗い、天敵を睨みつける。


「私は芙花・アルビナだから──絶対に投げ出したりしない」


 そして、俺とゾエを交互に見て、堂々と胸を張ってみせた。

 先生、そこまでの覚悟を。

 確かに胸打たれたぜ。


「そうか……私は止めたぞ」


 ブライアン隊長の言葉に先生は力強く頷いた。

 格子状のフレームから覗く緑の眼光が瞬き、ブリーフィングは続行される。


「ブロック66は度々、侵入を許していたが、今回は対処が遅れてコロニーの形成を許した」

「前回まではどうしてたんですか?」

「二月傘が駆除を引き受けていた……が、キャンセルされた」


 ウィンドウに浮かび上がるKISARAGI-UMBRELLAの文字。

 そこに一本の斜線が引かれる。


「二月傘?」

「…上位クランの一つだよ。生体兵器に関するミッションなら見逃さないはずだけど…」

「駆除業者みたいなもんですか?」

「いや、あれはだ」


 世界の広さを噛み締め、俺は聞かなかったことにした。


「どこもストーリーイベントとやらの準備で、この依頼は見向きもされない」

「ああ、そっか……それでフリーに依頼を?」


 遠い目をした先生の質問にブライアン隊長は頷き、言葉を付け加える。


「それもな…どうにも今回は怪しい」

「怪しい?」


 理知的な声に重みが増し、微かに緊迫した空気を醸す。

 雲行きが怪しくなってきたぜ。


「あまりに統制が取れている。野生化した個体とは思えない」

「人為的なハザードだと?」

「私の個人的な見解だがな」


 そこまで言ってブライアン隊長は姿勢を正し、ウィンドウがセントラルの街並みに戻る。


「セントラルは流入人口が増加し、対応で当局はパンク寸前だ。力を借りたい」


 派出所の状況を見て、当局の苦しい状況を目の当たりにした。

 パトロールカーを廃車にしたり、毎度騒ぎを起こして本当にすんませんでした!


「報酬は相場の3倍、場合によっては追加報酬も支払う」

「3倍とは……奮発したね」

「並べられる飴玉は、それくらいだ」


 先生が驚いている様子を見るに破格な報酬なんだろう。

 それに加えて追加報酬もあるとなれば、が起こるのは間違いない。

 しかし──


「セントラルの安全に貢献し、当局の心証も良くなる……引き受けてくれないか?」


 当局の皆さんへの罪悪感。

 そして、隣でスカイブルーの瞳を輝かせるゾエちゃん。

 受けない選択肢はなかった。

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