枯樹生華?
「なぜ、ここに……」
「Vさんを探していたから」
なぜ、俺を──心当たりしかないぜ。
笑顔を浮かべるアルビナ先生はヘイズと同等か、それ以上の威圧感を纏っていた。
ふと、笑顔は威嚇云々の話を思い出す。
「いや、張っていたが正解かな」
「張っていた?」
教えを説く時と同じ調子で、先生は人差し指を立てて語り出す。
「Vさんは、このアドマイヤでJ・Bさんと知り合ったらしいね」
「はい」
「J・BさんはXW155HR、レールガンの愛好家として知られている」
「愛好家…?」
師匠は愛好家の域じゃないと思うんだ。
サイボーグとはいえ、レールガンを右手に移植する人なんだぜ?
「彼に感化されたなら…というか間違いなく感化されたVさんは、XWシリーズを求めてここに現れる」
「他のショップに現れる可能性も──」
「セントラルで候補となるショップは21店……でも、Vさんは知らないと思った」
はい、知らなかったです。
一歩詰める先生、一歩下がる俺。
「正解だったみたいね」
きらりと赤目を光らせる先生、探偵みたいだぜ。
さすが先生だ。
お見通しってわけか。
「さて……色々と話したいことはあるけど、まずは──」
先生は、初心者を騙る俺に配信をめちゃくちゃにされたのだ。
配信者じゃなくても分かる──先生の怒りが。
だから、腰に回した右手が得物を抜こうとも、俺は逃げない。
甘んじて受け入れる。
一思いにやってくれ!
「ここから脱出しないとね」
「ゑ?」
そう言って先生は、小さな穴の開いた筒を取り出す。
ガンアクションで見るフラッシュバンに似ている。
いや、それよりも脱出って?
「脱出ですか?」
「私に推理できることは、他の人も当然してるってことだよ」
先生はフードの下で視線を左右へ走らせる。
その視線を追えば、顔を背けてショーケースへ隠れる不審者が数名。
また、こういうパターン?
今度はスパイアクションみたいな展開だけど。
「ゾエ」
「はい、なんでしょう?」
諸元表の隅から隅まで見ていたゾエに、自然を装って声をかける。
「鑑賞会は、また今度だ」
「なぜですか?」
「ちょっと面倒なお客様が来たみたいだ」
ショーケースの影から様子を窺うサイボーグを睨む。
ゾエも不審者を発見し、スカイブルーの目を細める。
「むぅ……あ!」
不満げなゾエは俺の背後を見た瞬間、ぱっと表情を輝かせる。
背後にはアルビナ先生しかいない。
そういえば、動画で見たことがあるって──
「芙花・アルビナです!」
ゾエの声が響いた瞬間、店内の空気が変わる。
苦笑を浮かべるアルビナ先生は、フラッシュバンの安全ピン2本を抜いた。
「2人とも目と耳を塞いで!」
それを躊躇なく投擲。
ゾエが耳を塞いだのを見届け、俺も倣う。
誰かの怒鳴り声、悲鳴、そして──炸裂音が空気を震わす。
耳鳴りを無視し、目を開ける。
微かに煙った店内を見回し、入口近くで手招きする先生に頷く。
「ショップ巡りは大変ですね!」
ゾエの手を握って、入口から飛び出す。
炸裂音を聞きつけた人集りを抜け、先生を追う。
「待ちやがれ!」
「目標捕捉」
「出会えっ出会え!」
背後から追ってくる気配は複数。
金属同士の触れ合う音から物騒な得物を持っているらしい。
当局の皆さん、こいつらです!
「ゆっくり見て回りたいな!」
「まず、その容姿を何とかしよっか!」
鼠色のオーバーコートを靡かせて駆ける先生が笑う。
人と人の間を縫い、眼前に徐行運転中の装甲車が現れる。
先生は避けることなく車体に手をつき、地を蹴った。
宙を舞う鼠色の影──飛距離の長いロンダート。
「おお、すげぇ…!」
装甲車の後ろへ軽やかに降り立ち、見物人から歓声が上がる。
逃走中でも魅せる人だ。
「ゾエも行きます!」
「マジか…!?」
そいつは予想外!
止める間もなく、手を離したゾエは装甲車へ突撃。
先生と全く同じ動作を見せ、先生より高く飛ぶ。
なんてこったい。
「どうですか、V!」
装甲車の脇を抜け、着地点で万歳を披露するゾエ。
路面の凹みは見なかったことにした。
「ああ、凄かったぞ」
逃走中じゃなければ、カメラを構えてるところだ。
「何事も挑戦ですね!」
その姿勢、すごく良いと思う。
大事にするんだぞ。
「よし、先生を追おう」
「はい!」
拍手する見物人の皆さんを潜り抜ける。
気分はハリウッドスターだぜ。
「あ、セントラル・ガードです」
ゾエの視線を追った先には、すっかり見慣れた当局の皆さん。
パトロールカーと白いエクソスケルトン2機が雑踏を分けて進んでくる。
本日もご苦労様だ。
捕まる前に、曲がり角で待つ先生の下へ──
「治安出動を要請しましょう!」
「え、ちょっゾエ!」
白いエクソスケルトンへ真正面から向かっていくゾエ。
当局は昨日見た公安4課じゃないぞ!
意気揚々と現れたゾエ──それを局員は困惑の表情で迎える。
そりゃそうだ。
先生の隣へ走り込み、ゾエと追手の不審者を交互に見る。
さすがにまずい。
「あれ…大丈夫?」
「まずいです」
局員が一人でもゾエの顔を知ってたら厄介だ。
俺はヘイズと違って大立ち回りはできないが、ここは行くしかねぇな。
「連れ戻しに──」
「待って…!」
先生に手を掴まれ、足を止める。
局員の鋭い視線は俺たちを──見ない。
通り過ぎて、追手の不審者ご一行を注視する。
そりゃ往来で武器を持ってたら目立つよな。
「そこの貴様ら、止まれ!」
路地に響き渡る鋭い声。
臨戦態勢に入った当局を前にして、追手はたたらを踏んだ。
見事に誘導しちまった。
「すごいね、あの子」
先生の呟きに頷くしかない。
突如、始まった捕物によって路地の喧騒は最高潮へ達する。
それに乗じ、当局の目を盗んで駆け寄ってくるゾエ。
「やりました!」
「お手柄だったな、ゾエ」
小さく胸を張り、どや顔を見せる。
かわいい。
今日はゾエのおかげで穏便に一日を終えられ──
「これで一安心かな……さて、行こっか」
「うっす」
有無を言わさぬ空気!
知ってた。
「ゾエも芙花・アルビナと話したいです!」
助け舟は来ない。
仕方ねぇ、ゾエにとっても有名人だもんな。
しかし、いざ相対すると2人の容姿は、やっぱり似てる。
アルビナ先生は──微かに驚きの表情を浮かべていた。
「…もちろん、いいよ」
すぐ小悪魔な笑みに戻ったけど、ただ容姿に驚いてたようには見えない。
なんだったんだろ?
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