セントラル
多事多端?
五月事変の影響が続くティタン・フロントライン。
それを商機と見る者、戦場を求める者、ただの野次馬と内訳は多種多様。
共通点は、新たな事件を期待していること──
≪ストーリーイベント「機械仕掛けの巫女」を開始します≫
そんな情勢下、何の前触れもなく公式アナウンスが流れた。
≪お?≫
≪いつもの…って、はい?≫
≪おいおい≫
唐突な公式アナウンスは恒例となっており、ある程度の耐性がプレイヤーにも備わっている。
しかし、メインストーリー関連と思わしき情報となれば話は別だ。
≪ストーリーイベントとな?≫
≪メインストーリーの続報だ!≫
≪待ちくたびれたわ≫
≪遅かったじゃないか≫
待ちに待ったメインストーリーの進行。
外野では、進行状況を把握できない仕様を批判する声もあった。
しかし、大多数のプレイヤーは──公式とは世界を提供し、ヒントを呟くだけの存在と認識している。
音信不通など今に始まったことではないのだ。
≪メインストーリー開始宣言からの空白は一体?≫
≪俺らが勝手にイベントやってたからだろ≫
≪いつものことじゃん≫
≪今回は、主に一個人のせいなんだが?≫
イベントとは、オープニングを撃破した初心者詐欺Vに端を発する五月事変である。
≪この前の研究施設も結局Vだったもんな≫
≪フラグシップと戦う初期機体って何?≫
≪スポーツカーと軽トラの戦いだよ、あれ≫
≪おい、クソ配信者を潰したのも追加しろよ≫
≪塵芥(原文ママ)に用はないんだよなぁ≫
初期機体を駆る無敗のプレイヤー。
メインストーリーの鍵に最も近いイレギュラーを知らぬ者はいない。
再現が容易いデフォルトの背格好なため、偽者が溢れ返り、本人と遭遇したプレイヤーは極めて少ない。
≪それで、ストーリーイベントって何やるの?≫
≪告知文出てるし、見てくるわ≫
≪明らかに今までのイベントと違うな≫
≪不気味≫
≪心折設計はどうした≫
ティタン・フロントラインはプレイヤーが事件を起こし、公式が便乗してイベントへ昇華させる。
五月事変も同様の形態になると思われていた。
だからこそ、明確にストーリーイベントと銘打たれ、誰もが戦々恐々としている。
≪見てきた……敵はアルジェント・メディウムだってよ≫
最速で書き込まれた一文によって、全体チャットが凍りつく。
≪!?≫
≪ま、待ってくれ≫
≪(´・ω・`)≫
≪冗談だろ?≫
≪この前起動したのは伏線かよ!≫
エリア13で活動する無敗のエネミー。
ティタン・フロントラインの理不尽を象徴する四天王の1柱。
≪わぁ…PVの無人兵器群、かっこいいね! 死ぬわ!≫
≪極超音速ミサイルのクロスファイアが、来るのか…?≫
≪フラグシップのおかわりもあるぞ≫
≪「人類生存の可否を問う」だとぉ?≫
≪滅ぼす気満々じゃねぇか!!≫
◆
「やっぱり、いい…!」
師匠とファーストコンタクトを果たしたショップで、俺は今日もレールガンを眺めていた。
どうして長大な砲身ってのは、男の子の心を掴んで離さないんだろう?
「イベントの準備をしなくてもいいのですか?」
諸元表の前に座り込む俺を見下ろすゾエが首を傾げる。
周囲の忙しない空気を見て、思うところがあったのかな?
「うーん、準備と言っても……俺は相棒がいればいいからなぁ」
「なるほど…」
今の手持ちだとできることも特になかった。
ストーリーイベントとやらの開幕は2週間後らしい。
何やるか知らないけど。
「それよりゾエは欲しいパーツとかあるか?」
「はい、見つけました!」
「よっしゃ、見に行こう!」
軽やかな足取りで進むゾエを追う。
ヘイズと師匠は情報収集で出かけているため、2人でショップを巡っていた。
先日の一件で注意こそされたが、本日は引率なし!
でも、心配ご無用。
バトルドレスを着たグラップラーゾエちゃんは、護衛いらずだ。
「これです!」
店内の奥に辿り着いたゾエは、ぴょんと振り返って指し示す。
空間を広く取っているところを見るに、目的のパーツは大型だ。
「どれどれ……」
それを見上げ、俺は目を見開く。
「こ、これは!」
大艦巨砲主義とでも言おうか。
それは、とてもティタンの武器とは思えないサイズがあった。
戦艦の主砲のように長大な砲身が照明を浴びて輝く。
凄まじい代物が出てきやがったぜ!
「MCG3-HEKIUNだね。薬室が複数あるからMulti-Chamber-Gunと言って、製品名のMCGは頭文字を取ってるんだ」
「ふむふむ」
「通常のスナイパーキャノンより初速が速く、ティタンが搭載できる実弾武器では最長の射程を誇っているよ」
「最長……すごいです、ロマンです!」
親切な解説を聞き、ゾエは両手を組んで目を輝かせる。
「製作者は海外のプレイヤーで、一説ではバビロン計画の関係者だったなんて都市伝説もあるらしいよ。まさに浪漫砲だね」
「へぇ……詳しいですね、さすが先生──ん?」
教えを乞うた先生の声に、俺は何の違和感も抱かなかった。
しかし、待ってほしい。
こんなところに先生が?
いるはずがない──背後から来るプレッシャーが凄い。
恐る恐る振り返れば、ゆらりと鼠色のオーバーコートが揺れる。
「やぁ、Vさん──」
地味な姿に変装しても、すぐ分かってしまう銀髪赤目の美少女。
アルビナ先生が小悪魔な笑みを浮かべ、佇んでいた。
「元気にしてた?」
ただ、目が笑ってなかった。
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