リザルトを確認します!

「見てください、V! クローバーラインの軌跡がきれいです!」

「…そうだね」


 俺たちの雄姿が収められた切り抜き動画を見て、無邪気に喜ぶゾエちゃん。

 つい膝上に座らせてしまった俺、本日6度目の視聴だ。

 地味にバトルドレスが重い。


「そろそろ切り上げないか、ゾエ君?」


 セーフハウスの壁に背中を預ける師匠からの助け舟!

 ちらりと俺を窺うスカイブルーの瞳。


「あと1回だけ……駄目ですか?」

「1回だけだぞ?」


 初めてのミッションで大活躍したから、見返したくなるよな。

 分かるぞ。

 さすがに辛いけど。


「…災難だったな、少年」

「楽しかったので、良しにしときます」


 アリーナ3位と戦えて、無粋な連中はスクラップにした。

 ゾエも大活躍だったし、寒々しかった懐も多少は温まった。

 もう満点じゃん。


「あの2枚抜きは、なかなか爽快だった」

「すかっとした」


 木製の椅子に腰かけ、端末をタップするヘイズの言葉に頷く。

 クローバーラインの2機同時撃破は、思わずスタンディングオベーションしそうになった。


「埃を被っていたが、日の目を見ることがあるとはな」


 後でヘイズに聞いたところ、クローバーラインはチャージの時間もある上、一時的に固定砲台と化してしまうそうだ。

 使用時には高負荷でFCSがダウンする。

 つまり、自動的に


「機動が単調で狙いやすかったです!」


 なんて眩しい笑顔!

 切り抜き動画のコメントでは魔弾の射手って呼ばれてるんだぜ、この子。

 動画の半分は相棒しか映ってないけど、注目株はゾエだ。

 俺も鼻が高いぜ。


「そういえば、さっきからヘイズは何を見てるんだ?」


 ふと、端末を淡々とタップしてる姿が気になった。

 狐の面で表情は見えないが、機嫌は良いと分かる。

 俺を見て、何と答えるか逡巡するヘイズ。


「…初ミッションクリアのプレゼントを、ちょっとな」


 ゾエへのプレゼントだって?

 もう保護者というよりママじゃん!


「本当ですか、ヘイズ!」

「ああ」


 くるりと振り返って表情を輝かせるゾエちゃん。


「私もゾエ君にプレゼントがあるぞ」

「J・Bも! どんなプレゼントなんでしょう…楽しみです!」

「ふっ…楽しみにしていたまえ」


 レールガンだ、間違いない。

 師匠もプレゼントを用意した以上、俺が何もしないなんて論外だよなぁ。

 早速、クレジットを切る時が来ちまったか。


「ここは俺も──」

「お前は座っていろ」

「少年は貯金したまえ」

「うっす」


 悲しい。

 俺もゾエちゃんに何かプレゼントし──てるわ、ゴーストのシステム。


「はぁ……それと、お前の分だ」

「ゑ? 俺?」


 おもむろに立ち上がったヘイズは、脇の棚に置かれた小包を手に取る。


「お前もゾエと同じで、この世界に降り立ったばかりの初心者だ」


 まさかの俺もプレゼント貰える感じ?

 ゾエを膝上に座らせたまま、差し出された小包を受け取る。

 結構重いな、これ。


「すっかり忘れていたがな」


 自嘲気味に笑うヘイズ。

 正直、初心者らしいことしてないから仕方ねぇよ。

 それよりも、だ。


「ありがとな、ヘイズ」


 照れ隠しに手だけ振って椅子へと戻っていくヘイズ。

 俺は良き友人を持ったぜ。


 ちなみに中身は──黒光りする大型リボルバーでした。



「彼は…Vは、どうだった?」

「さぁな」


 一仕事終えた人々で賑わうバーは、活気に満ちていた。

 その端に位置するテーブルで対面する2人のプレイヤー。

 サイボーグと獣人、特筆すべき点はない。

 ティタン・フロントラインでは、ありふれた背格好だ。


「その上機嫌なところを見るに、良かったようだね」

「…なら、聞くな」


 そう言って狼の耳が生えた青年はジョッキを呷る。

 日進月歩のVR機器は、嗅覚や味覚を体験できる高級モデルもある。

 それを装着しながら、当人は安価な食用アルコールを楽しむ。


「君が認めるなら、益々楽しみになってきたな」


 何も注文していないサイボーグは、テーブルで手を組んだ。

 頭部に走る6本のスリットから緑の光が爛々と輝く。


「バトルジャンキーめ…」


 胡乱な視線を投げ、獣人の青年は重い溜息を漏らす。


「新人を潰すな」

「そんなつもりはないのだがね…」


 忠告されるたび、サイボーグの男は萎びた声で応じる。

 この会話も何度目か、定かではない。


「まぁ、いい……それより」


 ジョッキをテーブルに置き、青年の目が鋭く細められる。

 肌を刺すような威圧感。

 喧騒に満ちたバーで、2人の空間だけ空気が変質していた。


「あの塵芥に情報を流したのは、お前か」


 アリーナ3位たる青年は、厳かに問う。

 無粋な乱入者は誰の差し金か、と。


ないよ」


 それに対し、変わらぬ調子でサイボーグの男は答えた。

 狼の耳を立て、その言葉の意味を吟味する青年。

 しばしの沈黙の後、口を開く。


「そうか」


 威圧感を霧散させて、再び溜息を吐く。

 そして、顔を顰めたまま席を立つ。


「…もう帰るのか?」


 その後ろ姿を名残惜しそうに見送るサイボーグの男。


「アリーナに帰る。外は好かん」


 HG66-FLAMEROCKの有用性を世に広めた初代フレイムロッカーは、アリーナより外へ出ることは滅多にない。

 ただ戦い続け、己のスキルを研磨し、洗練する。

 酔狂と嘲笑われる己の愛機で、強敵を打破するために。


「なら、私と一戦やらないかね?」

「断る」


 迷いなく即答。

 残念そうにサイボーグは肩を落とす。

 その姿を見下ろし、アリーナ3位は宣言する。


「お前は、Vを倒した後だ──チャンピオン」

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