最初からクライマックス!

≪戦闘モード起動≫

「おお、これがティタンか」


 かっこいい機械音声と共に起動したロボット。

 ティタンという全高10mほどの鋼の巨人。

 その頭部に備わったカメラで見渡す世界は、ポストアポカリプスそのもの。

 超高画質で描画されたビルや道路の残骸は現実のようで、それを10mの高さから見渡す臨場感は言葉にできない。

 きっと俺の語彙力は、ひらがな三文字くらいになっている。


「これだけで買った価値があるなぁ……」


 10分以上、カメラを弄り回して、廃墟の隅々を観察し、その結論に至った。

 こんな世界でロボットもといティタンで戦うなんて心躍るじゃないか!

 まるで想像できないぞ。

 俺はガチャを回して一喜一憂していたライトゲーマーなのだ。


 中学時代からの友人、藤坂の勧めで買ったゲーム──ティタン・フロントライン──は、白熱のロボットバトルが謳い文句の大人気VRMMO。


 まったく未知の領域だった。

 人気の理由は高い自由度にあるそうだが、興味もない。


「よし、チュートリアル開始!」


 俺はロボットで戦いたい、それだけなのだ!

 ごくごく平凡な高校デビューを終え、ゴールデンウィーク突入前に視聴したロボットアニメの熱量に当てられた俺の衝動をぶつけさせてもらうぜ!

 スティックを倒し、両足のペダルを力一杯に押し込めば、軽く見流したヘルプの通りに機体は加速──


「うおっ!?」


 想像以上の加速で景色が歪み、あるはずのない重力加速度で視界が狭まる。

 そして、視界の右上に映るレーダーに赤点3つ。

 3時方向、距離は分からない読めない


 開けた幹線道路上に、どっしりと構える戦車──ロボットアニメのやられ役じゃん!


≪エネルギー残0%≫


 エネルギー切れでスラスターの噴射が止まり、路上で無防備にも停止。

 しかし、相手はチュートリアルの敵だ。

 これはティタンが主役のゲーム、負けるはずないぜ。


「はっ舐められたもん──」


 明らかにティタンのライフルより大口径の砲口が光った瞬間、俺は死んだ。



≪戦闘モード起動≫

「やってくれるじゃねぇか、ティタン・フロントライン!」


 即刻リスポーンして復讐のため機体を加速させる俺は、幹線道路に飛び出す。


≪エネルギー残0%≫


 スラスターの噴射でエネルギーは切れたが、すっとこどっこいの方角は覚えている。


「よう、15秒ぶりだな!」


 慣性に任せて舗装を踏み砕きながら機体を敵と正対させる。

 ターゲットマーカーが表示され、中央の1両へ右腕のライフルを突き付けた。


「死に晒せぇ!」


 これはティタンが主役のゲーム。

 つまり戦車はライフル数発で爆発四散、さようならだ!

 スティックのトリガーを引いた瞬間、重い砲声が鼓膜を叩く。


 発射されたAP弾は──戦車の厚い正面装甲を前に


「おい、嘘だろ、そんなの聞──」


 悠然と照準を合わせた砲口が光り、俺は死んだ。



≪戦闘モード起動≫


 白熱のロボットバトルって謳い文句に偽りあり!

 そりゃ、常識的に考えて人型兵器より戦車の方が強いよ。

 でも、そうじゃない。

 ここはフィクションの世界で、リアリティはあってもリアルでプレイヤー殴ったら駄目だろ。


「まぁ、ティタンは空が飛べるんだけどなっ」


 上方向への移動に苦戦しつつもビルの屋上まで上り、俺は口角を上げる。

 誰もが思いつくロボットならではの戦術。

 正攻法が駄目なら三次元戦闘で連中を翻弄してやるまで!

 強度に不安が残る外観のビルを飛び移り、幹線道路を見下ろす位置へ陣取る。


「その薄い上面装甲を貫いてやる!」


 右腕のライフルを連射し、中央の1両に鉛の雨を浴びせる。

 10発近く叩き込んで、戦車は主砲から炎を吹き出して爆散した。

 さすがにチュートリアルの敵だけあって、現実のMBT主力戦車ばりの機動性で回避したりしない。

 所詮は、やられ役だ。


「ふははっ怯えろ! 竦め──」


 狭いコクピット内を反響するアラート音。

 視界の端に映る鼠色の攻撃ヘリコプター。

 ビルの合間を縫って飛来したミサイルに吹き飛ばされ、俺は死んだ。



 怒りのリスポーンを繰り返し、その回数が指の数を超えた頃、俺は泣く子も黙るティタン乗りになっていた。

 なるほど、チュートリアル操作解説だ。

 しかし、この程度じゃ俺を止めることはできないぜ?


「お、新手だ」


 レーダーに映る新たな赤点、数は1つ。

 攻撃ヘリコプターにしては速度が不規則だ。

 ざっくりと記憶しているマップの地形とレーダーを照らし合わせると、敵機はビルからビルへ


「まさか、ティタン?」


 破壊した戦車を尻目に、崩壊したビルの影へ機体を滑り込ませる。

 左肩に装備されたレーダーユニットを使うようになってから不意打ちはされていない。

 今度は、こっちが不意打ちしてやるぜ。


「いよいよ、このゲームの真骨頂ってわけか……待ってたぜ!」


 待ちに待ったロボットバトルに気分が高揚する。

 戦闘で擦過痕の刻まれた鋼の巨人が、ビルの割れた窓ガラスに映り込む。

 めちゃくちゃ絵になるじゃん。


 集中、集中しろ──レーダーの赤点は一直線に俺へ向かって来ているのだ。


 一直線?

 嫌な予感がした時には、敵機がビルの反対側に着地していた。


「あ、これ気づかれ──」


 ちょうどコクピットがある高さ、ビルの外壁の一点が赤熱化。

 そこから飛び出した光の剣にコクピットを貫かれ、俺は死んだ。


 こうして、ゴールデンウィーク初日──俺の長い戦いは始まった。

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