宿敵と書いてライバルと読む!

 との戦いは3日目に突入していた。

 接敵して平均20秒で死んでいるが、俺は思う存分、ロボットバトルを楽しんでいる!

 嘘つけ、めちゃくちゃ悔しいんだが?


「勝二、大丈夫か?」

「大丈夫だぜ、父さん。次こそは勝つから」


 隣に座る父さんへ力強く不退転の決意をもって宣言する。

 好物のハンバーグで英気を養い、次こそは奴をコンクリートジャングルの墓標にしてくれると。


「負けの込んでるギャンブラーみたいだね、兄者」

「うるさい」


 誰がギャンブラーだ。

 対面に座る妹の生温かい視線に、俺は正面から向き合う。


 まったく、これだから可愛くて賢くて可愛い俺の妹は──仕方ないな、今日も許してやる。


 しかし、好き嫌いは見逃さないぞ。

 皿の端へ積まれた野菜たちをな!


「優華、ピーマンを残すな」

「兄者のために取っといた」

「そうかそうか、ありがとうな。食べさせてやるから、口開けろ?」


 露骨に嫌そうな顔しても無駄だぞ、妹よ。

 口に放り込まれるのが嫌なら食べなさい。

 大きくなれないぞ、いろいろと。

 

「勝ちゃん、ゲームに夢中なのはいいけど……寝ないと駄目よ?」

「そこは大丈夫! 万全の状態じゃないと奴には勝てないし」


 徹夜して集中力が落ちた状態では、手も足も出なかった。

 常に万全の体調で挑む。

 斜め対面に座る母さんには、心配が杞憂だと鬱陶しくない程度に元気さをアピール!


「兄者、鬱陶しい」


 妹よ、兄は悲しいぞ。


「う~ん、勝二……父さんは今時のゲームを知らないけど、そんなに強い相手なのかい?」

「勝てない。めちゃくちゃ強い。チート疑ってる」

「さ、散々な評価だね……」


 せっかくティタン・フロントラインを買ってくれた父さんには悪いが、正直な感想は言っておく。

 嘘はよくない。

 チートは大袈裟にしても、ゲームバランスのミスを疑う強さだ。

 奴と同格のNPCが跳梁跋扈しているなら、あのゲームのプレイヤーは人間をやめてると思う。


「それでも兄者はやめないんだね」

「当然! ロボット動かすのは純粋に楽しいからな」


 これも嘘じゃない。

 ロボットを手足のように動かし、量産機のような手軽さで死ぬ。

 三桁は死んだはずだが、毎回新しい発見があって飽きない。

 そして、その発見の数だけ俺は進化しているのだ、多分、メイビー。


「あと少し、あと少しで勝てそうなんだ…!」

「勝ちゃん、2日前から同じこと言ってるわ」

「兄者、諦めも肝心だよ」

「断る!」


 だから、母さんと妹の生温かい視線に晒されても俺は折れない!

 負けない、負けてたまるか。

 チュートリアルの、しかもNPCに!


「勝二、勝利に固執しない方がいいと父さんは思うな」

「どういうこと?」

相手に習うつもりで行くんだ」


 相手に習う?

 奴に首を垂れろと言うのか、父さん。


「ライバルでも、師匠でもいい。別の視野で見てごらん」


 ライバル──悪くない響きだな。



≪戦闘モード起動≫


 ライバルとの死闘は4日目に突入した。

 スティックとペダルを細かく操作し、幹線道路に最短ルートで侵入。


≪エネルギー残30%≫


 スラスターをカット、エネルギーを回復させつつ、右腕とカメラを敵へ向ける。

 ターゲットマーカーが走り、数万両は破壊した3両の戦車を捕捉。

 装甲の薄い車体下部、向かって左側の弾薬庫を撃ち抜く。

 射撃は3回で十分。


「よし、次っ」


 毎度、違う形状の爆炎を見届け、ビルとビルの隙間を縫う鼠色の影をロックオン。

 右肩のランチャーからミサイルを時間差で発射する。


 チャフとフレアの光が躍る──1発は外れ、2発目が攻撃ヘリコプターを貫く。


 ここまでは予定調和。

 スティックを握り直し、ゆっくりと息を吸って吐く。

 今度こそ奴を倒す!


「来たな、ライバル!」


 視界右上のレーダーに赤点1つ、今日は道路沿いに来るパターンだ。

 もうマップは頭に叩き込んである。

 幹線道路と交わるまで5秒、右肩のミサイルを無誘導で発射。


 ビルの影から鋼の巨人が──飛び出さない。


 ミサイルが直撃し、崩壊したビルからコンクリート片が舞い上がって視界は最悪。

 だが、それは俺も奴も織り込み済み。


「来い!」


 スラスターをカットして慣性だけで白塵の中へ突入してくる巨人の影。

 対する俺は逆方向へ脚を

 同時に単射型のライフルを構え、同時に火を噴く。


≪機体損傷≫

「このやろっ…!」


 こっちは命中なし、レーダーユニットが大破。

 ティタンはFCS火器管制システムが貧弱なのか、移動目標の追尾を簡単に諦める。

 だから、手動で調整してトリガーを引く。

 スラスターを噴射し、飛来するAP弾を回避しながら。


「おらおら──うわっ!」

≪機体損傷、右肩部ユニット、使用不能≫


 ただ、奴は俺の噴射が終わる瞬間、的確に連射を浴びせてくる。

 被弾する箇所が、いつも痛い!

 右肩と胴体の装甲は耐えるが、ミサイルのランチャーは脆い。

 誘爆しなかっただけ幸運か?


「ええい、勝負だ!」


 こっちが削り切られる前に、俺は勝負に出る。


 ライフルの砲口が瞬く──急停止し、最大出力でスラスターを噴射。


 一気に灰色の世界を脱し、奴の頭上へ跳ねる。

 赤い眼光に向かってライフルを連射し、牽制。

 奴は──


「そっちか!」


 俺の足下へ突っ込んできた。

 たとえ頭部のカメラがターゲットを見失っても、俺には分かる。


≪エネルギー残30%≫


 スラスターをカットし、エネルギーの回復を優先。

 自由落下中、可能な限り機体を背面へ捻る。


 再捕捉──奴は既に右肩のミサイルを発射していた。


「間に合え…!」


 最大出力のレーザーブレイドで叩き落す!

 着地と同時に左腕へエネルギーを回し、横一文字に振り抜く。


「おらぁ!」


 姿勢を落として1発を回避、2発を溶融させて爆炎が視界を覆う。

 だが、これは奴にとって

 次が来る!

 レーザーブレイドを振り抜いた慣性を利用し、右半身を、右腕のライフルを突き出す。


「まだ──」


 放ったAP弾は奴の左脚に着弾し、返礼に右脚の爪先が飛んでくる。

 モニターを粉砕した鉄塊によって、俺は死んだ。



 休憩中に封印していたスマホを起動させると、藤坂からメッセージが届いていた。

 2日以上過ぎている。

 返信がないと絶交を仄めかすような友人じゃないが、それでも悪いことをした。

 ゴールデンウィーク中、一緒にプレイしようと言ったきりだ。


≪やらないか≫


 何をだよ。

 いつも主語がないんだよな、藤坂。

 しかし、あと少しで勝機が見えてきそうなんだ。

 罪悪感はあるが、現況報告だけして奴を倒すことに集中させてもらうぜ。


≪すまん。先約ができた≫

≪誰と?≫


 反応速くない?

 たまに友人は俺のことが見えてるんじゃないかと思う。

 そんなわけないけど。


≪チュートリアルのボスを倒す≫

≪正気か?≫

≪本気だぜ≫

≪本気じゃなくて、正気か?≫


 男に二言はない。

 VR機器を被った俺は、再びチュートリアルへ赴く!

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